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第22話 転盤覆形

18人兄弟、久しぶりに出てきます。


 アイザックは、18人兄弟の長男だった。下には16人の弟と、1人の妹がいる。両親はいない。父親は戦争で死に、母親は出稼ぎに行ったまま、帰ってこなかった。風土病で死んだのだと聞かされていたが、アイザックは貧しい生活を苦にして逃げたのだと考えていた。

 18人も兄弟が居れば、生活費も馬鹿にならない。まだ幼い弟も何人かいるし、妹に至っては原因不明の病におかされて、何年も寝たきりだ。彼女を治すには、優秀な魔術師を雇って魔力を流してもらうしかない。魔力は生命力の源だ。大抵の病はそれで治る。


 そのためには、莫大な金が必要だった。

 この戦いで命令通りにすれば、ハルキ様は恩賞を出してくれるといっていた。そして、ハルキ様の危惧していた通り、北門城攻めは失敗し、パペットの兵士たちは再び城へ閉じこもってしまった。

 アイザックたち兄弟は、その兵士たちに紛れて、無事に城内へ潜入していた。幸運にも武器庫を襲撃した時に鎧が手に入れられたおかげで、周囲の兵士たちに紛れ込むことが出来た。


“北門城の兵士は、見たところ寄せ集めだ。女や老人、子供までいる。今更数人の少年兵が増えたからと言って、悪目立ちはしないだろう”


 ハルキ様は、そう言っていた。


“だからといって、簡単に紛れることは出来ないだろう。失敗すれば当然殺される。だが、成功すれば敵を内側から突き崩すことが出来る。恩賞も思いのままだ。やるか?”


 アイザックも、他の兄弟たちも、迷うことなく頷いた。彼らにはいくつかの状況を想定して指示が出されていた。

 例えば――。




***********




「パペット! 話がしたい」


俺――ハルキは、北門城の前に立つと、大きな声でそう言った。俺の右後ろにはアーティ・マーティが控えている。……そして彼女の背中にはカーラの死体が背負われている。

 ばたん、と城の最上階にある窓が開いた。


「今更、何の用だ?」


 そこから顔を出したパペットは、嘲笑いながら言う。

 ひゅう、と城にいる兵士の一人が矢を射かけてきて、俺の側をかすめていく。


「簡単だよ、パペット。お前には二つの選択肢がある。このままこの城と心中し、皇后レミアとともにあの世へ行くか、あるいはレミア軍に勝利をもたらすか、その二つだ」

「はっ!」


 パペットが鼻で笑う。


「たかがだ俗衆の暴動ごときで、レミア様が死ぬわけがないだろう。おい、雑兵、お前の兵隊は何処に行った?」


 相変わらず、人を雑兵扱いするのが好きな奴だ。


「ここにはいない。その意味が解るだろう?」

「戦意を喪失して解散したか」

「いいや、南を攻めている」

「なんだと!?」


 初めてパペットの声が殺気立つ。


「貴様! 密約を忘れたか!?」

「最初に契約を破ったのは貴様だ! 武器庫に武器などなかったじゃないか!」

「……」


 パペットは眉をしかめる。言っている意味が解らない、と言う顔だ。


「仕方がない。南門城が民衆に攻められた程度で堕ちることはない。攻めるだけ無駄というものだ」

「レミア軍に俺の息のかかったものが無数にいるとしてもか?」

「戯言もほどほどにしろ」

「いいや、その証拠を見せてやろう」


 カーン。

 一回だけ鳴り響く鐘の音。

 ここに来る途中、けが人の手当てをしていたビーガンの自警団を捕まえて、物見の鐘を打ち鳴らしてくれるように頼んでおいた。どうやら指示通りに動いてくれたようだ。

 それにしても、ちょうどいいタイミングだった。

 北門城の大門が、ぎ、ぎ、と音を立てながらゆっくりと開いていく。


「馬鹿な! ありえん!」


 パペットが叫ぶが、もう遅い。

 アイザックたち兄弟によって、この城の門は俺を迎え入れるべく開いたのだから。


「さぁ、交渉を開始しようか」


 俺は両手を広げて叫ぶ。


「お前には二つの選択肢がある。このままこの城と心中し、皇后レミアとともにあの世へ行くか、あるいはレミア軍に勝利をもたらすか。好きな方を選ぶと良い」


 もっとも、彼が選べる道など、一つしかない。俺はにやりと笑った。

 今、この街で戦っている住人たちは、決して武功によって名をあげようとしているのでも、歴史に名を残そうとしているわけでもない。そんな御大層な名分がなくても、自分たちのために怒り、声を大にして叫んでいるのだ。

それに比べて自分はどうだろう。姑息な浅知恵で、彼らの心理を掌の上で弄んでいる卑劣な人間だ。しかも、弄した策はことごとく裏目に出て、それにもかかわらず、今でもまだ、つまらない謀略を巡らせようとしている。


「強くなりたいなあ」


物語の主人公のような、圧倒的な力や、強力な魔法があれば、こんなにも卑怯な人間にならなくてもよかったのに。姉や兄たちのようなカリスマ性があれば、もっと住人たちをうまくまとめて、カーラも死なずに済んだのに。

……でも、まあ。

この抗争の終わりは、ようやく見えてきた。


あと5話で第1章完結です……の、予定です。


感想、お待ちしております。

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