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第14話 凰鳴雀声

連続更新、まだ続きます。


 その兵士たちは、その日、自分たちの上官でもある北門城主パペットから、奇妙な命令をされていた。

 曰く、街の住民が何をしていたとしても、無視しろ。

 曰く、仮に武器庫が誰かによって襲撃されたとしたら、そのまま明け渡せ。

 そして、街の住民たちの事も、この命令の事も、決してレミア様に知られてはいけない、と。

 パペットの命令は納得できるものでは無かったが、それでも上官は上官だ。

 パペットは皇后レミアより第二軍の兵士二千人を預かっていたが、レミアの周囲に配備されている第一軍と違い、その大部分は流民や傭兵崩れで構成されている、いわば寄せ集め部隊だ。女子供も多く、ともすれば軍隊というよりも難民キャンプと言ったほうがいい様相になってしまう。


 そうならないために、パペットは必要以上に厳しい指令系統や規律をつくり、彼ら兵士に強制していた。

 寄せ集められた人々をまとめ上げているパペットの手腕は見事なものだったが、そのような感じであったため、決して人気のある上官というわけでは無かった。

 とはいえ、兵士たちにとって、パペットの命令は――ともすれば、皇后レミアの言葉よりも絶対的なものだった。

 だから、その日も、武器庫の目と鼻の先で決起演説を始めたハルキ達に目をつぶっていたし、その直後、彼らが武器庫を襲撃し出した時には、速やかに逃げだし、パペットの待つ北門城へ報告に走ったのだった。




***********




 俺達――ハルキと、パペット、それから数人の自警団員は、武器庫の中に入り、在庫を確認する。

 予定通り、俺たちは武器庫の襲撃に成功した。

 まるで茶番の様な……実際茶番でしかない襲撃は、民衆に戸惑いをもたらしたが、そこは「敵が俺たちを恐れたのだ」などと調子のいいことを言って、彼らを勢いづけることに成功した。

 今は、どんな武器があるのか調べているところだ。


「どんな武器がありますかね。銃の一つでもあればいいのですが」


 山のように積まれた木箱を一つずつ開きながら、メダホが言う。

 その言葉を聞きとがめて、俺は声を上げる。


「銃だって!? 銃があるのか?」

「あればいい、という話です。なんでも、弓より簡単に扱えて、弓より遠くが攻撃できる武器だとか。世間に広がっている話では、鉄の筒から金属の塊を打ち出す機械だと言いますが、まあ、眉唾物ですね。それに、連射もできないし故障も多いと聞きます……いずれにしろ、珍しいものだそうですから、見つけたら儲けもの、ぐらいの気持ちでいたほうがいいでしょうね」

「なんだ、そうなのか」


 少しだけ胸をなでおろす。

 そういえば、この世界にどんな武器があるのかの確認をしていなかった。

 街の様子からなんとなく中世ヨーロッパぐらいの文明レベルを想定していたが、よく考えると魔法なんてものもあるし、もう少し情報収集が必要だったかもしれない。

 銃の出現は、元いた世界でも戦術の大転換を引き起こした。ここでそんなものが出てくると、作戦の変更が必要になる所だった。

 俺はそんなことを考えながら、木箱を開ける。鎧が入っていた。


 武器庫にある在庫の量に対して、俺と数人の自警団員では人手が足りない気がしていたが、この人数で中の検分をしよう、というのはメダホの提案だった。

 武器を手にした民衆は勢いづいて、我々の指示を受け付けなくなるかもしれません、というのが彼の主張だった。

 もう一つの木箱を開ける。これにも鎧が入っていた。

 少しだけ不安になる。

 結構な数の木箱を開けたが、これまで一つの武器も出てきていない。あるのは鎧ばかりだ。

 ひょっとして、パペットに謀られたか。ここに、武器はないのかもしれない。

 そんな心配をし始めた頃、倉庫の奥にいたメダホに呼ばれる。


「ハルキ様、ちょっとこちらに来てください」

「ああ、わかった」


 メダホの声がする方に行くと、自警団の連中にぐるりととり囲まれる。


「……どういうつもりだ」

「非常に残念です、ハルキ様」


 メダホは、でっぷりと太った体を揺らしながら、デプデプとそう言った。


「私は、ハルキ様の事を信じたかった。しかし、ここに武器はなかった。この襲撃に意味はなかったのです」

「……まだ、倉庫の中をすべて確認したわけでは無いだろ。結論を出すのは……」

「私は、聞いてしまったのですよ! 昨日の、あなたとあのメイドとの会話を! あなたが、レミア軍のパペットと内通していると言う話を!」


 さっと血の気が引く。


「信じたくはなかった! けれど、ここに武器がないのを見て確信しました。……やはり、あのお方の言うとおりだった。あなたは、敵だ」


 メダホがそういうと同時に、俺は自警団の一人に羽交い絞めにされる。


「待て! 誤解があるようだ。少し話せばわかる」

「もう貴方はおしまいですよ、ハルキ様。せいぜい、あなたの死を有効活用させてもらいます。隠れていた敵兵に討たれたことにしてあげましょう」


 メダホが懐からナイフを取り出す。それが首に中てられた瞬間、俺は思い切り体を後ろにのけぞらせ、メダホを蹴り飛ばした。豚が尻もちをつき、体勢を崩された自警団員の拘束も緩んだ。その隙に逃げ出す。

 ふと、倉庫の端に眼が行った。倉庫の床は石造りだったが、そこだけ、すこし雰囲気が違っていた。俺はそこの石畳に飛びつき、持ち上げる。案の定、ぽっかりと穴が開いていた。時間はない。俺は中も確認せず飛び込んだ。




*************




「……呆れました」


 メダホは、立ち上がると、そう言った。


「まさか、自ら奈落に堕ちていくとは」

「追いますか?」


 自警団の一人が聞く。


「不要でしょう」


 この街の地下にある迷宮。あそこに堕ちて、還ってきた者はいない。噂では死者たちの巣窟だというし、わざわざ追いかける必要はないだろう。

 それよりも、これからは自分が民衆をまとめ上げ、作戦を遂行しなければいけない。面倒なことになった、とメダホは心の中でぼやいた。彼の死体があれば民衆を扇動するのに丁度良かったが、それが出来なくなってしまった。

 まあ、彼の立てた作戦はそのまま実行させてもらおう。ぽっと出の彼より、ずっとこの街に住み住民たちと親交をはぐくんできた自分の方が、むしろ指揮官としては適任かもしれない。メダホはそう考え、ほくそ笑んだ。


「行きましょう。武器がないなら、包丁・ナイフ・草刈り鎌……使えるものは何でも使うしかありません。バリケードも作らなくてはいけませんし時間はありませんよ」


 メダホは、自分の肩にのしかかった重責に慄きながらも、ハルキという目の上のこぶを取り除けたことと、自分が代表としてこの街の民衆を率いられることに興奮して、身震いした。



戦国時代は、食うにあぶれて傭兵になるしかない人がたくさんいたようです。

なので、兵隊が欲しい大名たちの需要がいい感じに満たされていたとか。


誤字や脱字の指摘、お待ちしております。

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