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第11話 将士肝交

投稿しよう……と思ったら矛盾を見つけて、全面的に修正が必要になってしまいました。

なんとか書き直したけど、まだ修正しなきゃいけない場所があったら嫌だなぁ、と思ったり。


「平和裏にレミア軍をこの街から追い出す……耳触りのいい言葉ですが、本当にそんなことが可能だと考えているんですか?」


 南部自警団団長のビーガンがいぶかしげに訪ねてくる。

 当然だ。そんなことが出来るなら、とっくに誰かがやっている。


「一番の問題は、軍事力の不均衡だ」


 俺はアーティ・マーティが用意した地図を机の上に広げる。


「ばりばりの職業軍人とごく普通の市民。戦ったらどちらが勝つかなど目に見えている」

「当たり前だ。戦闘訓練を積んだ、潤沢な武器を持つ兵士たちに勝てるものか」


 カーラが頷く。

 カーラが言ったのは当たり前の事だ。

 元いた世界でも、18世紀の後半になるまで民衆は自分たちの力を知らなかった。

 自らの意志で動く市民というものが、どれだけの力を持つものなのか、知らずに低い地位に甘んじていたのだ。


「市民は軍隊に勝てない。だから、第一段階では、その前提を覆す」


 俺は、地図の真ん中あたりを指さす。爆散したカーラの実家のすぐ側。北門城主のパペットが指示した武器庫だ。


「俺の仕入れた情報によると、ここの武器庫は警備が手薄らしい。明日、先ずはここを攻めて武器を奪う」

「武器庫……まともな武器があると思いますか?」


 メダホが聞いてきた。


「少なくとも、市民が持つものよりはだいぶ上等なものがあるだろうな……それで、武器庫を襲う部隊。これは俺が指揮する。メダホ、お前の自警団を使うぞ」

「わかりました……お供しましょう」


 メダホが眉をしかめながら言う。

 先ほどのボードゲームで恥をかかされたことを、少し根に持っているようだ。俺の指揮下に入るのが嫌らしい。


「それから、武器を確保した俺とメダホは南門城の前に本格的なバリケードを築く。この目的は、北門城主パペットが南門城へ行くのを防ぐことだ」

「???」


 アーティ・マーティが首をかしげる。


「ハルキ様、敵は要塞の中にこもっているのですよ? わざわざ出てくるわけがないと思いますが」


 そう。

 この戦は、堅牢な城にこもった軍人たちを平凡な市民が攻める、圧倒的に不利な攻城戦だ。だから、武器を手に入れる必要があるし、敵を城から引きずり出す必要がある。

 武器に関しては、パペットとの裏取引があるから、どうとでもなる。

 あとは、パペットを城から引きずり出す方法。


「簡単だよ。彼らにとって最も優先すべきものが危険にさらされれば、彼らは城から出てでも、それを守りにいかなければいけない」


 カーラがハッと顔を上げた。


「皇后レミアか! しかし、レミアを攻めるなど、それこそ不可能だぞ? あそこを守っているのはレミア軍の精鋭だ」


 一応敵対者という関係だからか、カーラはレミアを様付で呼ばないことにしたらしい。

 それにしても、彼女の頭の回転の速さは尋常でない。もう少し成長して、知識と経験を積めたならば、必ずや名君になるだろう。


「そこが今回の作戦の要だよ。まず宣言しておくが、皇后レミアがこもる南門城は攻めない。それだけの余力もないし、第一、皇后直属の部隊なんて、面倒なものを相手にしたくない。ただ、北門城を攻めている間に、皇后レミアが横やりを入れてきたら厄介だ。だからカーラとビーガンには南門城の前で、陣を敷いておいてほしい。簡単なバリケードを築いてもいいな。皇后レミアに、こちらが攻撃の意思を持っていないと示せればそれでいい」


 南門城は攻めない、というパペットとの取り決めもある。きっと彼は、南門城に騒乱が起きていることすら悟らせずに終わらせたいのだろうが、俺にそんな小規模な騒乱で終わらせるつもりはない。

 街をひっくり返す大騒ぎをおこさなければ、いずれにしろ民衆の不満は収まらないだろう。


「そのかわり、それぞれの自警団から力自慢の者を集めて、バレー家の城、あそこの物見の鐘を、今夜のうちに使えるようにする」


 全員がその意図を察したようで、驚きで目を見開く。

 物見の鐘、それは、敵襲があったことを告げる鐘。街の中央の城と、北門城・南門城にそれぞれ一つずつ設置されていた。

 北門城から南門城までは、およそ15キロ離れている。塔の鐘の音が、敵襲を伝える最速の手段となる。


 もし、俺たちが暴動を起こすと同時に鐘の音が鳴り響いたら、どう思うだろうか。

 パペットは、その音を聞いたとき、想像するだろう。

 民衆の暴動は、本当に感情任せの物だったのだろうか。

 バレー家の城が爆発したのは、今、このタイミングで民衆の暴動を引き起こすための策略だったのではないか。

 民衆を扇動するハルキは、自分と交渉する機会を得たのに、なぜろくな取引をしてこなかったのか。

 ――敵が、皇后レミアの籠る南門城を攻めているのではないか。

 そうしてふと外を見ると、バリケードが目抜き通りのあちこちに設けられている。

 まるで、パペットの部隊が皇后レミアの物に行くのを妨害するかのように。

 ごくり、と誰かが唾を飲み込んだ。


「タイミングとスピードが命になってくる作戦だ。大切なのは、北門城と南門城の通信手段をすべて断つこと。……本当ならもっと作戦を練ってから事に当たりたいが、今回はその猶予がない。だが、ここまでできたなら上出来だ」


 俺はパン、と右の拳で左の掌を打ち付ける。


「あとは、北門城主パペットと交渉する。バリケードを解く代わりに、北門城を明け渡させる。奴らが真相を知る頃には、北門城は俺たちに占拠されている、という寸法だ」

「そう、……都合よく事が運ぶだろうか」

「失敗したら、俺の首をレミア軍に差し出せ。最悪でもそれで片が付く」

「そんなことが出来るか!」


 カーラがばん、と机をたたいた。


「そもそも! 北門城を占領して、それで終わりにはならないだろう! レミア軍を追い詰めたら、それこそこの都市をまるごと焼き払いにかかるかもしれないだろ!?」

「いや、ないな」


 俺は頭を振る。


「奴らは皇后の軍隊だ。皇后という地位は重いぞ。常にそれにふさわしい動きをしなければ、あっというまに権威を失墜させてしまう。北門城を占拠した後で――俺たちの力を見せつけ、ついでに民衆の溜飲を十分下げさせた後で、“レミア様の出征を喝采で見送ってあげるから、出て行ってください”とでも言えば、彼らはそうせざるを得ない」


 もともと、彼らの目的はそれだった。

 市民というのが権力に従うだけの存在なら、不満を持つ為政者を笑って見送ることなど出来ないだろう。でも、権力者に一泡吹かせた後ならば、勝者としてレミア軍を「暖かく見送ってやる」ことが出来るようになる。


「私には、ハルキ様の策は空虚な理想にしか思えませんが」


 メダホがそう言って笑う


「勝てば僥倖。負けたらハルキ様の首を差し出す。それで済むのなら、構わないのではないでしょうか。……少なくとも、軍盤で三連敗した私よりは、ずっと知恵のある方だと思いますので」


 ……ちくちくと棘を混ぜてくるなぁ、このメタボ、じゃなくてメダホ。


「確かに、不安定な作戦ではありますね」


 今度はビーガンが口を開く。


「ハルキ様は、軍隊を指揮した経験はどれほどおありで?」


 まさかこの場で、実戦経験なんてあるわけがないだろう、とは言えない。

 これは、戦略シュミレーションゲームをやった回数を含めていいのだろうか。

 それなら、


「500回以上は指揮官として戦った経験がある」


 ちょっとさばを読んでおいた。


「なるほど。それなら私からいう事はありませんね」


 ビーガンも納得したようで、引き下がる。


「あとは、カーラとアーティ・マーティか。何か、言いたいことはあるか?」


 二人が首を横に振る。

 そうか。それならいい。

 俺は、ユマの部屋からくすねてきた酒を取り出した。


「じゃあ、景気付けに一杯と行こうじゃないか。あ、カーラはジュースな」

「馬鹿を言うな! 私も飲むぞ!」


 カーラが地団太を踏む。

 確認してみたところ、この国に未成年飲酒を禁止する法律はないらしい。

 じゃあ、いいのか。

 ……いいのかなぁ。

 めいめいのグラスに酒を注ぐ。


「「「「「乾杯!」」」」」


 全員で一気に酒を飲み干した。

 さあ、これから忙しくなるぞ!


籠城戦っていうのは、圧倒的な戦力差があっても何とかなってしまうようでして。

2000人の敵に対して、11人の兵士で城を守り切った、何ていう話もありますし。


ご意見、誤字や脱字の御指摘、お待ちしております。

ここがわかりにくいよ、というところもあれば是非。


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