真の世界
「 この上にまさか僕が行く事になつとわな」
最善の注意を払い、その階段を上ろうとした。『ハァハァ』息を殺そうとしたが、息が荒くなる一方だ。
『トントントン』階段を登るうちに息の荒さもマシになり、明るい光が目の前を包み込む。
「ここは……ええええぇぇぇ!!」
目の前は、見た事も、聞いた事もない、強いて言うならば、【城下町】。
そんな事はどうだっていい。マップを見ようとポケットからアイテムポーチを引き上げ、マップを取り出してはみたが、マップは、ただの白紙へと変わっていた。
一体どうなっているんだ? 何と、今まで使えていたアイテムが全て何の役にも立たないガラクタへと化していた。
「飯でも行くか。それからだ」
歩いていると、『情報屋』と言う名の飯屋が目の前にぽつんと建っている。
客の出入りはほとんどないが、今の自分のは最善の店そう思ってならない。
「へい!らっしゃい!」
店へ入店すると、凄く良い匂いが嗅覚を刺激し、ヨダレが止まらなくなる。
「すいません。情報を聞きたいんですけど?」
「じゃあ、情報とレアゴブリンセットでいいかい?」
「レアゴブリン?」
「あんさん知らんのかい? ごく稀に生まれる他のゴブリンとは非にならない旨味を持つゴブリンのことだよ!」
「じゃあそれで!情報はー」
「まあそう慌てなさんな。腹ごしらえが先じゃろう」
店主の言うがままにはしているが、少し胡散臭い店主だ。店員は店主の1人で、キッチンなどない、この店で、ゴブリンの調理をするなど、可能なのか? そう思ってならない。
だが、やはり、店に入った時と同じで食欲をそそる、匂いが激しく店の中を覆っている。
「へい! お待ち!」
ステーキとなんら変わらない容姿をしている、ゴブリンからは、今にもかぶりつきそうになる、見た目、香り、そして音、が僕の神経全てを刺激する
「イ、イタダキマス!」
ヨダレが止まらない。もう我慢出来ない。そう思い、肉をナイフで切る暇もなくかぶりつき、その肉のやらかさは、まさしく、肉の特異点!
「ごちそうさまでした!!」
「はい。どうも。んで、情報だったね。なにを聞きたい?」
「この世界は何なのか」
「君、もしかして、偽りの世界の住民かい?」
「偽りの世界?」
「まあ分からなく、無理はない。ここは真の世界! つまり、君の故郷さ」
「俺に故郷……ここが俺の故郷!」
「そうだよ。おかえり」
「た、ただいま? ここは何階層なんですか?」
「ここは1階層!【白の楽園】と呼ばれる階層だよ」
「1階層!? なるほど、つまり別世界に入ったことにより、1階層からスタートした。いや、正確には続きからだが、正式名称は1階層と言うべきか」
「よく分からんが、聞きたいことはそれだけか?」
「はい!ありがとうございました! あのお勘定は?」
「うちは金は取らない! 良い旅を!」
ここはダンジョン1階層【白の楽園】つまり、僕は、また、更なる階層へ行かなければならない。全ては、になの為。
あった。第2層への道。ここを進めば。
「待て。あんた! ソロ攻略は無理だ! どうだい?俺達と組まんか?ドロップアイテムはあんたにくれてやる。ただ、俺達と来て欲しい」
「分かった。 組もうパーティーを!」
このパーティーの誘いは、僕からしても、願ってもない事。
「前衛は、俺とあんたと、ガーディアンの、まさしと哲が行く! 後ろは魔導士の、ケンと愛梨が行く! 最終ラインは僧侶の、大河と淳だ! いいか?」
「おう!」
「申し遅れた!俺の名は、つるぎだ! あんたの名は?」
「僕の名は……僕の名……」
「あ、あんたもしかして、記憶が……」
お気付きの方もいるだろう。そう。名はない!名を呼ばれた事も、ましてや名ずけられた事もない。
「そうか。それは災難だったな。気を取直して行こうぜ! ほら!ボスの間だぜ? 突撃だ!!」