第六話 牢屋内学校
「ほんっとーにクソみてぇな所だなここは」
俺がここに来てすでに四日がたった。俺たちがいる檻の鉄格子の向こうには豚みたいな貴族が通っていき、足音が止まった所から女の泣き叫ぶ声が聞こえ、豚貴族は奴隷商と買われた奴隷と一緒に俺たちの檻の前を通って帰っていった。
こんな胸くそ悪くなる場面を見せられているのに、何も出来ない無力感が余計に俺をイラつかせる。
「……スケ……ウスケ、ソウスケ!」
「うわっ?!……びっくりさせるなよ、どうしたんだ?」
「どうしたんだ、じゃないよ……もしかして、また買われて行った人の事を考えてたの?」
「うぐ……」
「はあ……やっぱりか……気持ちは分かるよ。けど、今はなにも出来ない。自分たちが買われないように祈るしか……」
俺の隣で壁に寄りかかって座っていたカルラはそう言うが、手は血が滲みそうなくらい握り締められていた。そうだ、俺たちはなにも出来ない。今は。
「でも、それも明日までなんだ。明日になれば私達は……私は解放されるんだ……」
「カルラ……そうだな明日までの辛抱だ。一緒に耐え抜こうぜ」
「うん……」
そう、俺たちは明日ここを脱出する。その為に計画も立てたし、訓練だってした。絶対成功させてやる。
「じゃあおさらいしようか」
「げっ、全然聞いてなかった……」
あ、ため息吐かれた。だってしょうがねーじゃんか。他のこと考えてたんだし……
「じゃあ、最初から説明するよ?」
「よろしくお願いします。先生」
カルラ大先生は優しく教えてくれた。マジ優しすぎです。元の世界の先生は、怒るだけだからな。
今回教えてくれたのはこの世界の通過のことだった。この世界の通過は地球みたいなお金の単位はなく、銅貨、銀貨、金貨であり、価値を日本円に直すと大体こんな感じになると思う。
銅貨 百円
銀貨 一万円
金貨 十万円
銅貨が百円なのに驚いた。日本なら十円なのに……これが異世界のギャップか?
「こんなことを教えるなんてね。こんなの常識中の常識だよ?」
「うぐっ……こ、こっちにはこっちの事情があってな……そ、そうだ、カルラって今いくつなんだ?」
「女の子にそう言うこと聞く?」
カルラに半眼で睨まれてしまった。話を逸らした先が地雷原だった……てかよく考えれば普通に地雷原だな。
「16だよ。体が幼いからってサバ読んでる訳じゃないからね」
「へえ、俺と同い年か」
「あ、そうなの?」
「ああ」
「ふうん、誕生日は?」
「冬の月の1の6日だな」
「割と近いんだね。私は冬の月の1の8日」
ちなみにこの世界の暦は地球とは違う。二十四時間三百六十五日は変わらないが、暦の作りがかなりアバウトだった。春夏秋冬の三ヶ月毎に区切りつくられている。例えば冬の月の1の6であれば11月の6日になる。つまり、
1 2 3
春の月 2月、3月、4月
夏の月 5月、6月、7月
秋の月 8月、9月、10月
冬の月 11月、12月、1月
というふうになる。日本とかとはやはり全然違うってことを理解させられたよ。
そんなこんなで俺たちはここが奴隷市場だということを忘れるくらい楽しく、だが小声で喋っていた。