第五話 脱出計画
「……ッ」
俺が目を覚まし、体を起こそうとすると背中に痛みが走る。
「痛ったぁ……クッソ……あの野郎、絶対にぶっ飛ばしてやる……」
痛みが走った事で意識を失う前に俺は馬車に轢かれていた事を思い出した。痛む背中を擦りながら、俺は周囲の確認をする。
「何だここは?檻の中か?」
「あなた……新入り?」
「ッ?!誰だ?!」
不意に後ろから声をかけられ、驚いた俺はとっさに振り向いて威嚇する。だが、俺の反応にその声の主も驚いた様で小さく悲鳴を上げる。
その声の主の姿を確認すると、そこには右の膝から先が欠けた長い黒髪と薄紅色の瞳の少女が、ぼろ布を羽織って薄暗い檻の隅に座っていた。
「……ッ?!……いや、悪い、少しイラついててな……ってお前その足」
「あ……これは、その、えっと……」
「いや、言いたくないなら言わなくてもいいよ」
「あ、ありがとう……」
女の子に足のことを聞くと言いづらそうにしていた。まあ人間誰でも隠し事とか言いたくない事くらいあるよね。かく言う俺もベッドの下にそういうモノあるし。
「そういやお前、名前は?」
「カルラ……」
「そうか、カルラか。俺の名前はソウスケだ。よろしくな」
うーん、カルラって、暗い女の子?それとも足の事が原因か?
って、そういや……
「なあ、そういやここってどこなんだ?」
「……ここは奴隷商達がやってる奴隷市場の牢屋部屋。このすぐ先に奴隷商達が手を組んだ盗賊達がアジトを構えてる」
奴隷市場の牢屋部屋って……異世界来てからいきなり牢屋かよ……
それに盗賊か……ついでに奴隷商達もか。奴隷商達には恨みはないが、まあいいや、潰す。それに人を殺すことに慣れておかないとな。慣れてはいけないんだろうけど。
脱出する際には戦闘もかなりするだろうな。でも気術を冷静に使って、武器かなんかを手に入れればいける……はず。よし。
「なあ、カルラ。こっから逃げたいか?」
「…………は?」
まあこんな反応だよな。いきなり入ってきて脱出しようぜなんて言われたってな。
「こっから逃げたいかって聞いてる」
「……それは、もちろん、逃げたいけれど……でも逃げようとすれば盗賊達に殺されるんだよ?それに額にある奴隷紋のせいで、盗賊達を振り切っても遠隔でも、殺せるし……」
「あー、それも大丈夫だ。俺はそういう魔法を消せる」
今俺達の額には黒く塗りつぶされた星にバツをつけたような紋様がある。目の前の少女にもあり、奴隷として飼われているのなら、俺にも同じようにあるだろう。これがいわゆる奴隷紋と言うやつだ。
実は気術には、武器や体に纏わせる技術、【気纏】の他に誰かに掛かった魔法や呪いを消す【滅】と言う技術がある。他に後ニ個基本の技術があるが、後で紹介しよう。
そしてカルラに、俺がその魔法を消すことができると告げると、口を開けてポカンとしていた。
「それ、本当……?」
「ああ」
「で、でも奴隷紋を消すことが出来たとしても私には足が……それに他の盗賊達はどうするの?」
「足も俺が治せる。盗賊達は……俺が殺す。よかったな、脱出出来るぞ?」
はい、足を治すといいましたが、出来ます。やばいね、気術。かなり便利な能力を手に入れたもんだ。足を治すのは“再生”という技術で、かすり傷から部位欠損でも治せるっていうね。まあ流石に生きていなけりゃ再生しても治んないだけどね。
そんなことを話していたらカルラが少し明るくなってきていた。やっぱり暗くないほうがいいよね。
「だが、条件がある」
「……え?」
「俺にこの世界の常識とか、そういうことを教えてくれ。ちょっと訳ありでな、この世界については少し疎いんだ」
俺がそう言うとほっとしたように胸をなで下ろしていた。おや、何を考えていたのやら……。うへへ。
「そういうことなら、大丈夫だよ。任せてね」
「あ、ああ。頼むぜ」
カルラが笑顔になったとき、かなり可愛かったのでちょっとドキッとしたのは秘密だ。だが、その時何かが近づいてくる音がした。そして、その音を出していた奴を俺は知っていた。
「てめえは……あの時のリーダーか!」
「ククッ、さっきぶりか?クソガキ。お前が言う、そのリーダーとはなんのリーダーか知らんがな、さっきは騙されてくれて助かったぜ」
俺がこいつの言い方にイラついていると、リーダーはカルラの方に体を向けた。
「よお、まだ買われてなかったか?ククッ、まあいい。そのまま売れ残っても俺たちがしっかり可愛がってやるからな。体はガキだが、いい顔してるしなぁ?」
「ひっ……!」
「この、ゲス野郎が……!」
「ククククッ、まあせいぜい売れ残ってくれよ?でないと楽しめない……!」
そう言ってゲス野郎は去っていったが、カルラが怖がって震えてしまっていた。俺はカルラのそばに行ってブレザーをカルラの体に掛けてやり、頭を撫でてやった。
牢屋にいるのにめっちゃさらさらしてる。それによく見ると、カルラの髪色は黒ではなく濃いめの紺色だったというどうでもいいことに気が付いた。まあ、ほぼ黒なんだけどな!
「大丈夫だ、俺がいる」
「……あ……」
かける言葉が少しキザったらしくなってしまったが、まあいい。カルラの震えはいつの間にか止まっていた。