『一緒』他4編
『一緒』
俺の家には人形がある。
日本人形。
床の間に飾ってある。
ずっと飾ってある。
いつまでも、飾ってある。
■ ■ ■
『お風呂』
夕飯の後、俺はお風呂場の蛇口をひねった。お風呂沸かさないと。
まずは栓無しで。
…しばらくは赤っぽい水が出てくる。
ウチは古いから、水道管の鉄サビが溶け出しているらしい。
じゃばばば、と勢いよくお湯が流れる。
…赤さびが出なくなってから栓をした。
テレビを見ながら十五分くらい待つ。丁度良いくらいだ。
「ばあちゃん、風呂先に入って良いよ」「はいはい」
ばあちゃんが入った後、俺が入ると。
「あ」
「ばあちゃん!―お湯足すなら、最初は捨ててって言ってるのに」
俺はぶつくさ言いながら、赤い湯に浸かった。
「シャワーまで赤い。っとにもう」
俺はぶつくさ言いながら、頭を洗った。
■ ■ ■
『庭』
綺麗に咲いたツバキ――を眺めていたら、葉に虫コブがあった。
「ばーちゃーん、虫コブあった」
俺は畑仕事をするばあちゃんに、ちょっと遠くから言った。
「おや。まあ、ほっときなさい」
「うわ…なんか沢山あるんだけど」
「まあ、ほっときなさい」
「…うん」
気になったけど俺は放っておいた。
次の日。ツバキが枯れた。
ぼたばたと、花が地面に落ちていた。
咲いたばかりなのに。ちょっと可愛そうだった。
葉っぱも茶色い。こぶはどこかへ行った。
「枯れちゃった…」
「病気だったんだねぇ…明日、庭師さんに来てもらおうね」
「うん…」
俺はとぼとぼと、家に戻る。
玄関の壁に手をついて――。
俺は、はっと手を離した。
…こぶがある。
■ ■ ■
『部屋』
二階にはふた部屋ある。
俺の部屋は階段上がってすぐ。右隣は兄貴の部屋。
俺の部屋は、六畳くらいの和室。
畳の上にブルーの絨毯が敷いてあって。入って右手が机と本棚。ふすま。
ふすまを半分塞いで勉強机があって、反対側にベッド。
窓があって、カーテンもブルー。俺は窓に足を向けて寝てる。
壁は土壁じゃなくてふつうに壁紙。痛んで少し崩れるようになったから、防かび塗装してもらって、変えたらしい。柱があって、白い壁紙。
ユーディレッティのポスターが貼ってある。
…悪くない部屋だと思う。
ちなみに、日が暮れて…。俺は今部屋の中心にいる。
カーテンも閉めた。風呂にも入った。
後は寝るだけだ。
ふすま…。
前、ここに『こっとんすい』がいたけど、しばらく出てきてない。
…もう二度と出てこないで欲しい。
天井を見ると、手形みたいなシミが付いてる。子供くらいのサイズ。
いつからあるっけ?というくらい薄かったけど、最近少し濃くなった。
他には特に何も無い。
このくらいなら…。佐藤さんがくれたお守りもあるし。
最近はいつも、寝るときは首にかけてる。
さて。寝よう。
「――げっ」
ベッドの方を見て、俺は思わずそう言った。
壁に『こぶ』がある。
玄関にあったあれだ。
俺がツバキの敵と思って、思いっきり叩こうとしたら消えたあれ。
……こっちに来たのか?
手のひらくらいの大きさ。壁紙が盛り上がってる。
どうしよう。
けど、もしかしたら今度のは、湿気…とかかも?
壁が全体的にたわんでる気がする。
「…よし」
カチカチカチ。
俺はカッターナイフを持ちだして、とりあえず刺そうかと思って、それはやめて、カッターで周りを切ることにした。
少し盛り上がってるくらいだし…、これはたぶん『湿気によるたわみ』だ。
けど、意外に周りは固くて切れない。跡は付くけど。
「うーん…」
俺はどうしようか考えて、何となくカッターで目、目、口と。軽く引っ掻いた。
すぐ後悔した。
なんかやっぱり、真ん中辺りは。中身がぶよっ、てしてる。
玄関のやつと同じだ。あと、ツバキの虫コブと一緒。
あれも虫コブにしては結構大きかった。
―ツバキの枯れた葉っぱから、虫こぶは綺麗サッパリ無くなってた…。
俺は見なかったことにして、布団かぶって、お守りを握って寝た。
きっと、明日は、きっと消えてる…。
しばらく、家に羽虫が多かった。
■ ■ ■
『理科室』
理科室は好きじゃ無い。
だってたまにカエルがいるから。
だって……鳴き声がする。
〈おわり〉