『動く人形』他4編
『動く人形』
おもちゃコーナーを通りかかった。
別におもちゃが見たい訳じゃ無くて、近道だったから。
猿?ゴリラ?がシンバルを鳴らすおもちゃ。ひたすらシンバルを叩く。
キャンキャン吠える白い小さな犬のおもちゃが、少し進んで、キャンキャンキャン。
電池の入ったカラスのぬいぐるみ。これは鳴くのかな?ちょっと欲しいかも。
俺はカラスを手に持ったまま、その棚を見てみた。
このカラスはどうしよう。
上の方には女の子用の人形。欲しいとは思わないけど、種類が多いな。へぇ。
あれ?この人形。
「ああ、なんだ。ただのこびとか」
そう小さく呟いたら、まわりの子供が一斉に振り返った。
■ ■ ■
『火の玉』
「隼人。そういえば昨日、火の玉見た。見間違いかも知れないけど」
ここは隼人の家。
俺は思い出して言った。
しゃく、と口に含んだラムネ味の棒アイスが美味い。真ん中で割るやつ。
…学校帰りにフッと視界を横切った物、あれは火の玉だったのかな。
「へえ。どんな?」
隼人も棒アイス。二人で半分こにして食べてる。
「中心が黄色っぽくて。オレンジのぼやっとした光…すぐ消えた」
「調べてみよう」
隼人が調べてくれた。
「――プラズマっていう、自然現象だって言う事もあるんだって」
「へぇ。自然って凄いな」
俺は棒アイスを食べ終えた。
■ ■ ■
『金魚』
金魚が死にそうだ。
「どうしよう…係なのに」
そこで俺は色々調べて、色々改善した。
水槽も大きくした。水草も増やした。
がらっと変わった水槽で、金魚は快適そうだ。
新しい餌も良いらしい。美味そうに食べてる。
俺の顔を覚えたのか、餌の時間になると近寄ってくる。
俺の方を見て、何か言いたげにしてる。
耳を近づけてみた。なんだろう?
…いや。さすがに金魚の言葉は分からないって!
イルカなら…いや、それも意味は分からなかったけど…。
…『Blue Bird』で隼人に相談した。
隼人は何でも知ってる。
「なあ隼人。いちごが最近、何か言いたそうにしてるんだけど。何だと思う?」
いちごというのは金魚の名前だ。
「うーん…。あ…。もしかして。いやさすがに無いかな」
さすがの隼人は心当たりがあるようだった。
「何!?」
「ほら水槽に一匹で寂しいとか」
「あ…」
そう言えば、あの水槽はやたらでかかった。
横幅大体70㎝。
大きい水槽無いですか、って先生に聞いたら…。
「寂しいって、俺だけじゃだめか?ちゃんと世話してるけど」
「いつも一緒って訳じゃ無いよね」
「クラスメイトは?沢山いるけど」
「やっぱり、友達は金魚同士がいいんじゃないかな」
「ふうん…」
そこで色々水槽に足したら、落ち着いたみたいだ。
好きな金魚もできたらしい…。
俺はしぶしぶ報告した。…楽しそうで…ちょっと寂しい。
「ほらやっぱり」「…」
そうじゃないかと思ってた、なんて。
…隼人はやっぱりイジワルだ。
■ ■ ■
『白鷺』
「隼人、しらさぎがいる!」
「へぇ。どこ?」「あそこ!」
隼人がそちらを見た。
白鷺は田んぼにいる。
「ホントだ。可愛い!」
隼人が笑った。隼人は鳥が好きらしい。
「あ、スズメだ!見ろよ!」
俺は指さした。
「君って、鳥が好きだね」
――隼人にそう言われた。
■ ■ ■
『お出かけ』
「速水君、高校生とまた遊んでるんだって?いけないよ」
「兄貴の友達なんです」
「えっ…それはもっといけないよ!」
先生はそう言った。
俺は黙り込んだ。それは…兄貴はモヒカンだけどさ。
…下校中、なんだか悲しくなってきた。
いろいろ我慢してるのに…。
兄貴だって、一応大好きなのに。
隼人ともっと遊びたいのに…隼人と、親友になりたいのに。
カァカァ、とカラスが俺を馬鹿にして、俺はさらに項垂れた。
アホウドリじゃないだけマシか…。
「んーー!!」
俺は頭を抱えて考えた。どうすればいいのかと。
「あっ!!」
そして閃いた。
「速水君。高校生とまだ遊んでるんだって?いけないよ」
「隼人は青鳥高校の生徒会長なんです」
■ ■ ■
『暗やみ男』
「くらやみおとこ?」
親父が俺を本家へ呼んで、話し始めた。
「って何?」
俺は首を傾げた。…なぜか親父はドヤ顔をしている。意味不明だ。
「ああ、というのは」
ざっ。とふすまが開いた。お手伝いさんだ。
「お茶をお持ちしました」
「ち――場所を変えるぞ」「え?」
俺は手を引かれて、本家の庭に出た。手が痛い。
「そこに正座しなさい。だからな、良く聞け」「はい」
縁側で、俺は正座させられた。返事する。
「いいか、くらやみ」カッコン「を聞いたら」ニャー「あ、ねこだ」「なさい」
「??何て言った?」
俺は聞き返した。親父は俺を引っ張って、なんか玄関へ向かった。
「先生、坊ちゃんとお出かけですか?」
庭師の人が笑って言う。
結局、喫茶店でケーキを食べた。
〈おわり〉