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JACK+ 怪談 ショートストーリー  作者: sungen
JACK+怪談 2章 子供時代
6/23

『前書き』他4編


…これは俺が、まだ子供の頃の話だ。


何かとかぶってたら、ご愛敬。

だって、世界はいつでもブレブレだろ?



ほら、カラスもそう言ってる――。




『出席』



速水、おはよう。

…おはよう。

声を掛けられて、そう言って、俺は席に着いた。


時刻は8:19分。もうすぐチャイムが鳴る。

ここは三階。俺の席は窓際で、グラウンドと校門が見渡せる。



今一人のクラスメイトが、走って来た。


キーンコーンカーンコーン。


ガー、ガー。


あ、チャイムが鳴った。ついでにカラスも鳴いてるな。

あいつはまだ門の外だ。

凄い走ってるけど。間に合うかな。


「出席を取るぞ」


だけど俺のクラスは全員そろっていて、出席は何事も無く終わった。


「あれ…、あいつ」


あいつはグラウンドの、どこにも居なかった。



■ ■ ■


『真似っこ』




「~からすがないたらかえりましょう♪」




    「―からすがないたらかえりましょう~」




…真似っこされている。


誰だろう?




俺は振り返えったけど、誰も居ない。



「うーうー?」 




       「―うーうー~」


「ら~、らー♪」




     「―ら~、らー~」




誰だよ、お前。


俺は少しむくれた。




カッコー、


――ちょうど鳥の声が聞こえた。腹いせに真似しようかな?

かっこう、って俺がまた言って。真似されて?



「カ…」

俺はあほらしくなってやめた。



ふと立ち止まる。



カッコウ?




「…あ、カッコウが鳴いたら、雨が降るのか」


そう言ったら、本当に、急に降り出した。



■ ■ ■


『佐藤さん』



急に雨が降り出して、俺は慌てて走った。



カランカラン。と扉を開けて、避難する。


「あ、朔おかえり。急に降ってきたね」

カウンターには隼人がいる。


「うん。あー、すごく濡れた。隼人、…誰がか俺の真似して、カッコウが鳴いて雨が降ってきた…」

俺は帽子を脱いだ。隼人は少し首を傾げた。

「?そう。タオルいる?」「大丈夫」


速水朔。

それが俺の名前。ごく普通の小学五年生。


ここは、雨宿りに入った、おなじみの喫茶店、『Blue Bird』。

ルリツグミって読むのが本当らしいけど、みんなブルーバードって呼んでる。

地元の高校生になった友達の隼人は、ここでバイトを始めた。


隼人は黒髪ショート、前髪はふわっとしてて、後ろの髪はシュッとしてて、毛先は天然パーマ?切れ長のタレ目で、背もそこそこ高くて、美形。

俺からしたらすごく大人っぽい。

今は白いYシャツを着て、お店のエプロンをしてる。


外は…雨がすごく降ってる。

冷房で少し寒くなって、やっぱりタオルを借りた。


「サンキュー。なあ隼人、傘持ってるだろ?…けど、一緒に帰れないよな…」

隼人が置き傘しているのは知っている。隼人のシフトも把握済み。

…今日は確かラストまで。


無理だろうけど、一応聞いてみた。


「うん。今日、僕はラストまでだし…。やっぱり佐藤さんを呼んだ方が良いんじゃ無いかな。ほら、この前みたいに…神隠しにあったら大変だ」

「だよな…」

俺は溜息をついて、親父にぶたれた事を思い出した。


平日の、この時間はあまりお客さんが居ない。今いるのは常連さんが一人。

ちょうどお会計を終えて帰るところ。雨だし、今日はもうお客さん来ないかも?

これでこの店は大丈夫なのか――それはもちろん、二号店とか三号店が大繁盛しているから大丈夫。けどこの店だけはいつも閑古鳥だ。


「…じゃあそうする。佐藤さんか……」

乗り気じゃない俺はまた溜息をついた。子供用の携帯を取り出す。


――どうやらこの界隈には、お化けが沢山いるらしい。

今日はけっこう沢山でた。


ガァー…。ガー。ピューチちち…。

そして鳥達も沢山いる。今日はカラスと何かよく分からない小鳥?が何羽か雨宿りをしている。



鳥の声。


これは昔から俺だけに聞こえる鳴き声で、病気らしい。

たまに頭も痛くて、俺はとても困っている。


…さっき聞こえたカッコウの鳴き声、あれは雨が降る合図だ。

振り返っても――もちろんそこには何もいない。別に害は無いけど。いつもあいつら騒がしい。


…家族はもちろん、この病気の事を知ってる。

隼人は知らない。

いつかは隼人に話さないといけない。ずっと隠してはおけない。

それは分かるけど。まだきっと大丈夫…。


……悩みは尽きない。


「んー…」

俺は難しい顔をして、カウンターの側に立ったまま、『佐藤さん』にメールを打った。



『すみません。カッコウが鳴いて雨が降って、何か色々ヘンなので迎えに来て頂けませんか?』



そして、邪魔にならないように、カウンターの一番端っこに座って、頬杖をついて、しばらく隼人が働くのを見ていた。


「なあ隼人」

鳥の事は置いておいて。


以前から…不思議な、これお化け?妖怪の仕業?という事はたまにあった。

けど、近頃増えてきた気がする。これは…どう言う事だろう?

隼人なら分かるかも?


ちょうど隼人がカップを拭き終わった。

「なあ、隼人、おば」「何だい。あ、今日は何がいい?いつものでいいかな」

ここで飲むときは、隼人のラテアートの練習になるように、いつもデザインカプチーノを頼む。

「あ!うん!―カラス描いて!お金はツケといて」

ワクワクしながら俺は言った。


言いそびれた――まあいいや。飲みながら話そう。


…俺はツケ、つまり月の終わりに小遣いから、まとめて珈琲のお金を払ってる。

この店はたまに常連さんがそうしてるから、マスターに聞いてみたら…いいよと言われた。


なぜそうしてるかと言うと、小学生は、お金を学校へ持って行ってはイケナイから。


高校生の隼人とばかり遊んだらいけなかったり、一人で電車に乗ったらいけなかったり。

犯罪に巻き込まれたら危ないって、まあそれはよく分かるけど――。


「ハァ」

早く大人になりたいな。…ちゃんと大人になれるか不安だけど。


「お待たせ」

「ありがとう、あ。すごい!」

俺は言った。ちゃんとカラスだ。

四月…隼人がバイト始めた時はもちろん下手だったけど、最近、凄く上達した。

「うん、練習したんだ」

隼人が笑う。


「俺も頑張らないと…あ」

そうだった。忘れるとこだった。

隼人にお化け?の事を聞こうと思ったんだ。


「なあ、隼人……去年は二回?くらいだったけど…最近、変な事が多」

「おお、来たのか」

「あ、マスター!お邪魔してます」

俺は笑って頭を下げた。この店のマスター、磐井さん。

俺はこの店にしょっちゅう来てる。


宿題があるときは奥でやらせてもらうし、店が休みの日は隼人と一緒に珈琲の煎れ方を練習させて貰う。

マスターはまだ子供の俺にも丁寧に教えてくれる…。

…この店はとても緩すぎて心配だ。


「雨宿りか。急に降ってきたよな」

「…ごめんなさい」

俺は少し謝った。もしかして俺のせい?


「??まあ、もうすぐあがるだろう」「朔のせいじゃないと思うけど」

マスターが首を傾げて、隼人が苦笑した。


「うん。偶然――」

俺は笑った。珈琲を飲む。


カランカラン。


「佐藤さんだ」

振り返って。席を立つ。


「じゃあな、隼人、マスター、さよなら」


■ ■ ■



外は小雨になっていた。


店の駐車場に、黒に近いグレーの車が停まってる。佐藤さんの車だ。


佐藤さんは本家の運転手みたいな人。病院の送り迎えとかしてくれる。

いつもスーツで、白い手袋してる。


ええと、色の濃いめの茶髪で、ショートカットで、真ん中分けで、右側の耳の前の髪を、顎くらいまで伸ばしてる。たぶん未来の隼人とおなじくらいの美形。

…優しい人だけど、姿勢もしゃきっとしてるけど、なんか暗い?

ずいぶん背が高いから、そう思うだけかな?

俺はいつも見上げてる。


親父は困ったら、何かあったらとにかく、佐藤さんを呼べっていつも言う。



いやだから『何か』って何?



俺はそう聞き返すけど――肝心なそこを聞けた試しが無い。

丁度トラックが通りかかったり、茂みからねこが飛び出してきたり。

お手伝いさんがふすまを開けたり、突風が吹いたり。


…そもそも、何がヘンなのか、よく分からない…。

だって…最近は全部変だし…。


「お待たせしました」

「佐藤さん、ありがとう…」

俺は誰も見てないか、キョロキョロした。

ただでさえ俺は…兄貴が『金持ちの馬鹿息子』とか言われてるのに…。

クラスメイトに指さされるのはやっぱり嫌だ。


…良かった誰もいない。

俺はさっさと乗り込んでドアを閉めた。



「あ」

車に乗って。

――だいぶ後で、俺は、隼人にまた相談しそびれた、と思った。





また明日『Blue Bird』に行こう…。




■ ■ ■







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