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JACK+ 怪談 ショートストーリー  作者: sungen
JACK+怪談 通常版
5/23

『雪降る山』②

――今から話すのは、あの雪山で本当にあった話だ。

ノアは怖がるかもしれないから、君だけに話そう。



■ ■ ■



「うぅ~限界だ…さむい」

ドサ、と兄貴がうつ伏せに倒れた。


「兄貴!寝るな!寝たら死ぬぞ!」

俺は駆け寄り兄貴の頰を叩いて叫んだ。

「出雲さんしっかり!」

隼人がだらりとした兄貴の腕を引きあげ、肩に担ぐ。


彷徨って、数時間。


俺達は、まだこの雪山から抜け出せない…!


ビュービューと風が吹き荒れ、粉雪が舞い、視界はせいぜい10%

下っているハズだが、自信は無い。…ルートも外れてしまったようだ。

ちなみに地図は風でやぶれて飛ばされた。携帯は通じない。


――もうすぐ日が暮れる。


「やばい暗くなってきた、隼人…、どうしよう、――兄貴!しっかりしろ!」

さすがに俺も困った。

「――せめてこの風が無ければ…」

隼人も珍しく焦っていた。


と、左を見て動きを止めた。


少し登った所に、山小屋があった。


「―小屋だ」



■ ■ ■



俺達は、もちろんそこへ向かった。

…古い感じの、丸太小屋だ。造りはすごくしっかりしている。

明かりが付いている…!!人がいる?!


「ごめん下さい!」

隼人がドアを叩いた。チャイムは無い。


「どなたか居ますか!」

居るのは分かっている。だから隼人はそう言った。



「…はい?」

しばらくして、中から人が出て来た。細い感じの、長い黒髪のお姉さんだ。

ジーンズに、ベージュのセーター。その上に白い割烹着を着ている。


「良かった。すみません、道に迷ってしまって、少し休ませて頂けないでしょうか。…、いえ、出来れば、今日は泊めて貰えると助かるのですが。子供もいます」

「…」

子供の俺は大人しくしていた。

ここで帰れとは言われないだろう。…言われたらどうしよう。


「あら…!どうぞ上がって下さい。早く…」

良かった。俺はほっとした。

「助かります」

俺達は、靴を脱いで小屋に入った。小屋の真ん中には薪ストーブがあって、凄く暖かい。

小屋と言うよりは小さな家、という感じだ…。


「――クシュン!」

俺はクシャミをした。暖かい…。

「はぁ…」

「ほら、早くストーブに当たって」

「どうも…兄貴、生きてる?」「何とか…」


俺と兄貴は火に当たった。

「旅行に来たんですが…帰りに、突然吹雪いてきて…」

隼人は荷物を置きながら事情を説明している。


「ああ、この辺りは、結構寒の戻りが激しいんです…、ほら、貴方も暖まって下さい」

「そうですか…、どうも」


「寒かった…、ありがとうございます。急にすみません…」

俺はお礼を言った。いきなり男三人が泊まるとか…すごく迷惑だろう。

お姉さんは微笑んだ。

「いえ。今、すぐに暖かい物を用意するから。あ、甘酒があったわ…」


お姉さんは甘酒を温めてくれた。

飲みながら聞いたけど、ここには一人で住んで居るらしい。

「おばあさんといたんですけど、去年…」

そう言っていた。


「お風呂沸いたら、皆さん、どうぞ先に入って下さい。狭いので一人ずつしか入れないですが…」

「じゃあ、兄貴先入って。死にそうだぞ。俺は隼人と入れるかな??」

俺は言った。

「ちょっと無理かもしれないわ…」


そして俺は二番目に風呂を借りた。というか、こんなに小さいバスタブは初めて見た。

真四角で。足も伸ばせない。使い辛いのではないだろうか?


俺が風呂から生き返って上がると、復活した兄貴が布団を敷いていて、隼人は食事の支度を手伝っていた。キッチンというか、調理場は大きな部屋にあって、トイレと風呂と鏡の小さな洗面所だけが別だ。洗面台は、学校のプールのトイレにあるやつみたいに小さい。水が細く流れ続けている。寒いところでは、水は止めてはいけない、隼人に言われたことを思い出した。


「隼人、出たぞ」

俺は言った。

「じゃあ…朔、手伝ってあげて」

「ん。分かった」

「あら、良いのに…」


俺は手伝って、その後皆で食事をした。

「食材とか、大丈夫ですか?」

兄貴が聞いた。赤モヒカンだが、兄貴はまあまともな時もある。

「気にしないで下さい。いつも多めに買い出しするんです。こんな場所ですから…備えは万全にしてあります。明日も吹雪くようでしたら、何か装備お貸ししますよ。もちろん麓までお送りします」

毎年、この時期吹雪はしばらく続くらしい。

「助かります…」


その後、少し雑談した。

隼人が話すのを、俺は毛布にくるまって…眠くなったけど、なんとなく聞いていた。

兄貴は寝てた。


『この山は――』

『で――、なんです』

『それで――』


うとうと、して俺はハッと目を開けた。

俺はなぜか兄貴の布団に入って寝ていた。どうやら眠ってしまったらしい…。


起き上がると皆、もう寝ていた。


がたがたがたがた。

小さな窓のガラスが揺れている…。


「兄貴、起きてるか?」

…兄貴は寝ている。

俺はとりあえずトイレに行ったり、洗面所で口をすすいだりした。


そして俺は溜息をついた。


がたがたがたがた。がたっ!がたがたがた!


困ったな。

外に出られるかな…。今。


俺は戻って、ドアを見た。


けど…そんな馬鹿な話がある訳無い。

でも…。もし本当だったら?


ここは、片捨山かたすてやま

友達か、兄か、どちらかを捨てないと下山できない――なんて伝説があるらしい。

それは…本当に俺達の状況にそっくりで。

違うのは話の中で「弟」が、兄と二つ違いだった…そのくらいだった。

だから俺はなんとか、話を最後まで聞こうと起きていた。


結局、最後の方で寝てしまったけど…。


がたがたがたがた!


俺は風の音にびびった。


この吹雪の中を、外に出る?――かなり、自殺行為だ。

下手したら死ぬ。それは分かる。

けど…俺はお姉さんが準備してくれた明日の装備の中から、コンパスを取り出した。


隼人…寝てるな。

俺は用意された上着や手袋を借りて、キャップをかぶって小屋の外に出た。

書き置きは残さない。探されて、迷われても困る…。



■ ■ ■



「…っ、」

風は冷たく、強かった。顔に雪がばしゃばしゃと当たりまくる。

そんなに遠くない場所だ…。普通に五分も掛からないって言ってた。方向は合ってる。


大きな木が見える…。あれだ。

まだ少し先。

そこでふと、なぜ、俺はこんな馬鹿な事を?

…そう思った。


引き返して、寝た方が良いんじゃ無いか?

明日になれば、下山できるし…。

やっぱり、戻ろうかな…。うん。やめて戻ろう。


「あ」

びゅうう!と風が吹いて帽子が飛んだ。

俺は慌てて追いかけて拾った。


「…」

俺はその帽子を見た。

そして、溜息を付いた。――。


…仕方無いな。

この帽子、…憧れの、ブレイクダンスの神様…ユーディレッティが触った帽子だけど…。

じゃなきゃ朝には、兄貴か隼人が居なくなる、なんてさすがに嫌だ。


俺はまた歩き出した。

そして。木の下で、雪に埋もれた、小さな祠を見つけた。

あまりに埋もれてたので、少し雪を払う。…雪が固くてあきらめた。


―俺は祠に手を合わせた。


「山の神様、どうか兄貴と隼人を助けて下さい、助けてくれたら、…俺はもう兄貴を冷遇したりしません。ケータイのメモリも、携帯を買い換えてきちんと登録します。この帽子で何とか…これは俺が一番大切にしてるものです。えっと、あと――」



■ ■ ■



翌朝、未だ雪はしとしと降っていたが、吹雪では無い。

「この様子なら、大丈夫そうですね。さて、行きましょう!」

準備万全のお姉さんが楽しげに言った。

「ええ、麓までお世話になります」「よし!」

隼人も兄貴も俺も、装備は万全。


帽子は忘れたか、どこかで落とした事にすれば良い。

とりあえず、皆で無事に帰らないと。


そして、俺達は丸太小屋の扉を開けた。


――ひゅぅぅぅぅ!!!

一際、強い風が吹く――。


「よし、行きま――」

隼人が言って、振り返った。俺も振り返る。

そこには何も無かった。



ただの雪原。



「…」

兄貴も目を疑っている…。

そして。

あの女性の名を…聞いたけど…忘れてしまった。



「――、行こうか、朔」

隼人が前を向いて言った。


俺達は、下山した。



■ ■ ■



――それでね。


俺達は、無事下山して、…その後に隼人がぽつりと言った。

『朔、心当たりじゃないけど。あの話』


俺が寝てしまって聞けなかった最後を…隼人は聞いていた。



山の神様に、何か一つ、願いも叶えて貰える。

そこで、「弟」は雪女の幸せを願った。


その部分を、聞けなかった俺は。


『兄貴がモヒカンじゃ無くなりますように!あれのせいで俺、ヤンキーの弟だって言われて困る!兄貴のばか!』


――なんて言ってしまったんだ。おかげで寝込んだ。


連れて帰れなくて、ごめんなさい。




「と、そんなお話」


〈おわり〉

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