表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
JACK+ 怪談 ショートストーリー  作者: sungen
JACK+怪談 2章 子供時代
23/23

『くらやみ男』『エピローグ』


――こういう噂知ってるか?

そいつは、くらやみ男って言うんだけど――。



『くらやみ男』


親父が帰って。今日もまだそれなりに暑い。

でもたぶん、来月からは秋になる。


その日は学芸会の練習で、帰りが遅くなった。


俺は一人で歩いていた。



■ ■ ■



……なんだろう。頭がぼんやりする……。

ごーごーという音がしている。


俺ははっとした。ここ、どこだ!?

真っ暗で何も見えない。手が動かない。思いっきり焦る。心臓がバクバク鳴って冷や汗がどっと出た。

叫ぼうとしたら、んぐーーー!!という声が出た。ガムテープだ。

目は見えない。目隠しされている。体も動かない。


ここはどこだ!?

ぐん、と曲がった感覚があった。車……!?分からない。

けど何かに乗っていて、運ばれている。トランクの中……?


(やばい……!!マジで誘拐だ……!!)

そうだ。俺は背後から、誰かに口を塞がれて。

為す術無く車の後部座席に乗せられた。あんまり不意打ちだったから、口にガムテープ貼られて、声を上げるチャンスも無かった。情けない。その後どうしたんだろう。今はトランク?詰め替えられた?

覚えが無い。どうしよう。


悪い事にちょうど誰も居ないような道だった。

本当に誰も居なかったの?一人くらい居てくれよ!!

目撃してくれよ!!


……どうしよう。


俺は途方に暮れた。



■ ■ ■


朔が、また帰って来ない!

――と連絡してきたのは朔の祖母だった。


「警察には?」

「電話したけど……ああ、朔……」

「っ……分かりました。すぐ向かいます。お義母さんは家にいて下さい」

朔の父親は義母を落ち着かせた。

「ああ、朔、きっと、前みたいに帰って来ておくれ……」

祖母の声は震えていた。


■ ■ ■


しばらくして、車が停まった。


俺はトランクから取り出された。

――ガー。ガー。

――ちちちち

――きぃー


鳥が沢山いる。ざわざわと風の音が凄い。

そのまま抱き抱えられて運ばれる。


ここって、どこ?森?

まさか殺される!?


(お、落ち着け。もう小五なんだから、重いだろう。じゃない。死ぬときは潔く死のう。犯人が後で静かに殺されたって言うような――いや!!絶対嫌だ!ふざけんな絶対逃げる!!落ち着け!!)


(くっそ今日に限ってスタンガンとか催涙スプレー持って無い。今朝いらないよなって置いてきた……!!ピッキング道具だけじゃ何もできない!)


後悔したけど後の祭りだ。

新聞の占いに『人生は身軽が良い。凶器に頼るな』みたいな事書いてあったから!


……くっそ……。


かつん、かつん、と足音が変わった。風も感じない。

俺はどこか柔らかい所に下ろされた。

ソファーか?なんか汚そうだ。

……どこだろう……?

建物?


■ ■ ■


それからしばらくして。たぶん五分くらい。


……誰もいない……?

どこ行ったんだ……?

足音もしない。話し声も聞こえない。

単独犯?

やばいそれって殺す気じゃ無いか?

それともどこか近くにいるのか。


俺は何とか手を自由にしようと頑張った。

十分くらい必死に頑張ると片手が自由になった。

ガムテープと目隠しを外す。


目隠しを取っても、部屋はびっくりするくらい真っ暗だった。

明かりも何も無い。


こ、こわ……。窓も無い……。

手で確かめると、古いベッドのようだ。

マットレスは埃まみれで咳き込んだ。

電気通ってるのかここ……?


俺は扉の鍵を難なく開けて廊下出た。


■ ■ ■


暗い……廃病院か何かだった。

廊下も真っ暗でちょっとしたホラーだ。

俺は廊下の窓からすぐ裏手に出た。真っ暗だ。

「はぁ、はぁ、はぁ……っと」

二階の窓だったから、大分疲れた。壊れかけの雨樋を伝って地面に降りた。


外から見ても……電気は付いていない。どういうことだ?

どこか別の部屋にこもって電話でもしてるのか……?


……よく分からないけど、身代金だけが目的で、受け取りに行っている最中とか。

高飛びでもしたんだろうか。

良心的な犯人で良かった。いや良くない最低だ。


でも油断できない。早く離れよう。

……正直山とか最悪だけど。多分そんなに遠い所じゃ無い。

時間からしたら不帰山か、屍山のどっちか……?違う山かもしれない。


俺はとにかく歩いた。

今時、人里に近い山で、下山して全然明かりが見えない、道路が無いって事は無いだろう……。

そうだ多分、車が通ってきた方向に道があるはずだ。

足元だけにはよく注意して。だいぶゆっくりだけど歩く。


程なく道が……。


ない。なんだこれ。迷った?

俺は泣きそうになりながらこわごわと戻った。

夜の山って、こんなに暗いんだ……ヤバイ。


「隼人……」

よし。行こう。

俺は思い直して、もうこっちでいいやと思った、さっきの方向へ進む。

やっぱり、多分、こっちだと思う。車はバックしなかったし。こっちから進んできたはずだ。

つまずきながら歩いていると、少し開けた道に出た。


――どうする?

走るか、歩くか。

体力的な問題だ。


「……早歩き」

俺は間を取った。走ると疲れるし。


それにしても、どうしてこんなに暗いんだろう……?

でも、月も明かりもないからこのくらいだよな……。


■ ■ ■


「よかった!道だ!!」


俺は道に出た。ちゃんとした車道だ。シカ注意の標識もある。

明かりもあって心底ほっとした。

人里が見える。


俺は一歩踏み出した。


ぐにゃ。

ってした。


……今の何?


俺は振り返った。

俺は進んだ。


……早足で進む。


……かけ足で進む。


……すごく頑張って進む。


……街が遠ざかる。


「――!!!!ええええええ!?」


俺は声を上げた。


――ぜんっぜん進まない!!


これ、こんな、こんな所で、まさか『いつもの』!?

「うわガチまじやば」


俺は本当にそうなのか、ひたすら歩いたり走ったりした。

今ちょうど、車道にいるんだけど。俺が端まで歩くとまた初めの位置に戻っている気がする。

だってこの標識、もう七回見た。シカ注意って。


(なんなんだよーー!!)

俺は頭を抱えて地団駄を踏んだ。


……怪異なんてのは、誰かが悪戯しているんだって、ばあちゃんが言ってた。

またコットン水かもしれない。いや思い出すのはやめる。

――こうなったら、根比べだ。

俺は一晩でも歩く。絶対勝つ!


そのちょうし


背後で誰かがクスクスと笑った。

こんな時に。


「うるさいな!助けろよ!」

俺は怒った。さすがに疲れてるし。

このくらいでへこたれたりはしないけど。


ひたすら何回も歩いた。

途中、逆に戻ってみたけど、戻ってる気がしたのでやっぱり進んだ。

気分はアスリートだ。

マラソンの選手になったと思えば良い。

走らなくて良いんだから楽だ。よく考えれば一晩だって九時間くらいだし、そのくらいなら足が折れるって事も無いだろう。しんどいけど。


お腹が減ったので、道ばたの良くある木の葉っぱを千切って口に入れた。隼人が教えてくれた知恵だ。こうすると多少元気になるって。でも不味かったのですぐ出した。


「はぁ……」


くらやみ。

という声が聞こえて、暗闇という言葉が浮かんだ。

疲れすぎてておかしくなったのか……。


目の前に男が一人立っていた。


■ ■ ■


「!!!」

誘拐犯!?俺はそう思った。


咄嗟に身構えた。まだ大分距離がある。

……でも、違う。


あれ、たぶん人じゃ無い。

だって影だけだし……。こわっ。


――クスクス。


また笑われた。むかつく。


――わすれたのか?ほら、ヒント。


(ヒント?……何だっけ?そんなのあった?)

考えたけど、心当たりは無い。


――クスクス。==は。ちゃんと言ったぜ。


『暗闇男』


「あっ!!」


俺は思い出した。そうだ、今日、いつもの洋館の前を通った時。

ツタだらけの門の向こうから。誰かに声を掛けられた。


「おいちょっと待った!お前、くらやみ男って知ってるか?」

「わっ!?何?」

俺は立ち止まって左右を見た。


「いいから、えっと、噂だけど。お前じゃ無かったか?」

「え?」

俺は門の方を見た。背の高い誰かだ。

「――あ、いや、いいや。ちょっと聞いてくれ――こういう噂知ってるか?そいつは、くらやみ男って言うんだけど――、真っ暗闇に住んでる、寂しいヤツだ」

凄く早口だった。


「そいつを見つけたら、こう言え。くらやみ男さん、ぼくのお家はどこですか?で、適当な方向を指さして、こっちですか?って尋ねると朝が来る!いいな?ほら行け!」


「???」

俺はそのまま学校へ行った。


「……ヒントってあれ?」

呟いたけど、返事は無い。でもやってみるしかない。


前を見るとくらやみ男がいる。

「くらやみ男さん!ぼくのお家はどこですか?――こっちですか!!?」

俺は思いっきり言って、明後日の方向を指さした。


途端にガぁー!!とカラスが鳴いて。


……朝が来た。


■ ■ ■


その後、俺はしばらくポカンとしたけど、走って、すぐにコンビニを見つけて、コンビニの裏に隠れて店員さんが来るのを待った。

座り込んだ瞬間に眠ったらしくて、起こされた。


「ちょ、君、大丈夫?!」


「なんとか……。俺、誘拐されて……」

事情を話すと、すぐに警察に電話してくれた。

「おにぎり食べる?!お茶飲む?!とにかく入って!」

事務所に通してくれて、お茶とかパンとかお菓子とか貰った。

とにかく食べた。


「朔……!」

一時間くらいして、親父とばあちゃんが迎えに来て、今度は殴られなくてほっとした。

警察の人にざっと事情を話して、山の廃病院みたいなところにいた、と言ったら、コンビニの店員さんが知っていて、警察の人に後はもういいから、診察を受けて異常が無かったら、お家に帰って休んで下さいと言われた。

「本当に助かりました。お代を払います」

親父がお金を払っていた。その後は速攻で寝たので覚えていない。


■ ■ ■


「速水、すっげぇ大変だったな!」

四日ぶりに登校すると皆が群がって来た。ちなみに車で送ってもらった。

しばらくは送迎付きになるらしい。

「大丈夫だった?!」「まじ大丈夫か?!」


「いやもう、疲れた……。助かって良かった本当に」

俺は本音を言った。診察を受けて家に帰った後は泥のように眠っていた。

「だよな、ホント良かった……」「めっちゃニュースになってたんだぞ!」「犯人は捕まったっけ?」「まだだって」「恐いね」「身代金目的?!」


「分からないけど、まあよかった」

俺は席に座った。


■ ■ ■


(蝋燭が揺らめき、柱時計の振り子が揺れる)

(壁にはカレンダーが掛かっている)


「……はぁ」


速水朔は溜息を付いた。


「何とかなった……のか?これで」

速水は目の前の男に話かけた。


(クスクスと笑うJACK)


――ギリギリって所だな。あいつがちょうど通りかかる時間、よく覚えてたな。

――そういえば、鈴は使わないのか?


「最後まで残しとく。凡庸アイテムで良いだろ」


――なるほど。良い考えだ。

――ところでこの件の真相。今のお前は、知ってるよな?




『エピローグ』


校長、教頭、担任教師が刑事と話している。

「……とにかく、朔君が無事で良かった」

「本当に。色々不可解な事も多い事件ですが。全力で捜査します!不可解な事が多いですが!いつもの事です!」

刑事は息まいていた。


いつもは用が終われば刑事はそのまま帰るのだが。

たまたま今日は昼休みで時間があった。校長、教頭、担任教師は見送りに出て、刑事を最後まで見送った。その駐車場で。


「っと。すみません」

担任教師は髪の長い誰かとぶつかった。

軽くぶつかっただけなので顔も見なかった。真っ黒で……本当に人だったのか?

柱だったかもしれない。見ても近くには誰もいない。


――ぶつかった拍子に、担任教師の懐から何かが落ちた。


「「え?」」

近くにいた校長、教頭があっけに取られた。


見覚えある生徒の写真だった。


■ ■ ■


……秋になった。


クラスの女子が話している。

「そう言えばさ、結局、××先生、何で辞めちゃったの?」

「よく分からないけど、具合が良くなかったんだって。うつ病みたいな感じで……」

「そっかー」


(××先生、心配だな……)

速水はそれを聞いて、担任教師の心配をした。


〈おわり〉

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ