『お泊まり』①
「別に良いけど」
俺はぶつくさ言いながら、客間の布団を、ばあちゃんの部屋から出した。
「じゃあ、私は晩ご飯を…」「手伝います」
ばあちゃんが言って、親父が居間を出て行った。
俺は布団を、居間の隣の仏間に敷いた。
まあ、特に何も無い…と思いたい。
『帰ってこい問題』は良くある事だし。
でも今さら転校とか。もう小学校高学年だし。
こっちにはダンススクールもあるし、ばあちゃん一人じゃ寂しいだろうし。
うん。このままで良いな。
俺はそれで決意をまた固めて、仏壇に向かった。
「ん?」
仏壇には、鈴がふたつ、置いてある。
親父にあげようか。
仏壇には、母さんの位牌がある。写真が飾ってある。
御鈴をならして、手を合わせる。
「…母さん、なんで親父と結婚したの?」
俺は呟いた。
…きっとあの顔に惚れたんだろう。
お化けとか多いけど。
俺はとても、今の暮らしが気に入ってる。
ずっと続くかは分からない。
けど、中学卒業くらいまでは、ばあちゃんが生きてる間は。
ずっとこっちにいても…って思う。
じゃあ、もしばあちゃんが死んじゃったら?
俺はこの家には居られない。
元々…この家に来たのは、病気の治療の為で。専門の先生がこの県に住んでたからだし…。
「朔」
親父に呼ばれて、俺は立ち上がった。
何も無いことを祈る。鈴を手に取った。
「親父コレ、もらったやつ一個あげる」




