『夏祭り』
次の日の午前。
「あれ?親父」
珍しく親父が来た。兄貴もいる。
親父はものすごく出不精で、めったに屋敷の外に出ないのに。
佐藤さんもいる。
車か…。電車が良かったな。
でも仕方無い。一緒に行こう。
ばあちゃんもいるし、久しぶりに家族皆で出かける。
少し大きい車の、後部座席のドアを開ける。
これは本家のお客さん達を送ったりするときに、佐藤さん達がよく使う車だ。
「って、じいちゃんは」
俺は振り返った。乗ってると思ったけど乗ってない。
「親父は賑やかなのは好きじゃ無い」
親父が言った。親父とじいちゃんは似たもの同士。
「俺はにぎやかなの好き」
俺は笑った。賑やかなの、実は大好きだ。
本家みたいにやたら静かだと落ち着かない。
…――これくらいにしよう。
俺は、親父がじいちゃん抜きで来た目的をなんとなく察してる。
親父は俺を、実家に連れ戻す気だ。
じいちゃんが来ると、その手前騒げない、かも知れないから――。
親父って、実は優しいんだけど、ちょっとずれてるからな…。
怒ると恐いし。
俺はこっそり舌打ちした。
■ ■ ■
「じゃあ行こう!サク」「うん」
兄貴にくっついていよう。ばあちゃんの手を引いて、俺は進む。
「サク!綿飴食べる?」「うん」
「金魚はすくいは?」「うーん」
「射的しよう」「うん!」
俺は親父を警戒しつつ、たまに買った物を渡しつつ、夜祭りを見た。
「佐藤さん、これ食べる?じいちゃんも来たらいいのに…。お土産届けて」
でも実は、親父が来ても、じいちゃんは来ないだろうなって思ってた…。
じいちゃんとばあちゃんは、別に仲は悪く無いけど、夫婦じゃない。
つまり、じいちゃんは父方の祖父。ばあちゃんは母方の祖母。
母さんが死んでから、少しぎくしゃくしてる…ってほどでもないけど。ばあちゃんは今更本家で暮らしたくはないと思う。
「これくらいかな。沢山買ったし」
しめて千二百円。射的代は兄貴持ち。隼人とマスターにお土産も買った。
「え。もっと買おうよ~~!」
…それにしても、兄貴はまともになったな。
パーマ?の髪の毛が伸びてきた。肩をすぎるくらい。
茶色く染めてるけど、これなら二十年後くらい?の家元襲名までには何とかなるかも。
親父もじいちゃんもまだ現役だし。うんいけそうだ。…親父が頑張ったのかもしれない。
「…」
親父がこっち見てるな。
まあいいや。
俺は祭りを楽しんだ。
特に何も無かった。
本家に帰ってこいとか言われるかと思った。
「楽しかった。兄貴またな」「ばーいチュン☆朔」
よかった。ちょっとホッとした。
「では、また明日」「ああ。これを渡しておけ」
佐藤さんがそう言った。親父がお土産を佐藤さんに持たせる。
佐藤さんが何故か親父の物っぽい荷物をトランクから出す。
「では。失礼します」「ああ」
ってえ?
親父置いてくの?
――。なんか、親父が泊まるらしい。




