『鈴屋』
…プールからの帰り道。
神社のすぐ横の道を歩いていたら。
チリンチリン…と鈴の音が聞こえた。
俺は自転車が来た?と思って振り返った。
けれど夏の道には自転車は来てなかった。
いつもの、かもしれない。
日差しがまぶしい。
セミの声がする。これは本当にそこで鳴いてる。
俺は歩いて行く。
チリ…チリ…とまた鈴の音が聞こえた。
風鈴じゃない。
「ん?」
大きな木の陰に…なにかある。
神社の出張販売みたいだ。巫女さんと神主さんがいて。
木の台に赤い布が敷いてあって、その上にたくさん鈴とか、招きねこ、とかお守りが並べてある。
台の上に鈴屋、と書いた紙が置いてあった。
さっき後ろから鈴の音が聞こえた気がしたけど、気のせいだったみたいだ。
きっとあれは風鈴とかだったんだろう。
それとも、誰か買った子の鈴の音か。
プール帰りの小学生が数人いて楽しそうに見てる。…まあ、俺も小学生だけど。
俺は興味が無かったので、そのまま通り過ぎようとした。
暑いから早く帰りたい。
「君、どうだい見て行かないか」
「お金無いです」
俺は言った。
そしたらお姉さんが。
「あ、大丈夫、今―」
そう言って、箱を取り出した。
神主さんがそれを幾つかつまんで。
「この鈴をタダで配ってるんだよ。たくさん貰ったから。はい皆に」
と言った。
「わぁ」「かわいい」「ありがとう!」
チリチリ、と神主さんに小さな鈴を貰った子達がはしゃいだ。
「じゃあ君にも」
「…どうも」
俺は鈴を貰った。紫の紐を通してただ結んであるだけの鈴。
ばあちゃんにあげよう。
と思ったら。
「あ、そうだ君のおばあさんにも」
そう言われた。赤い紐のやつも貰った。
…まあ、家すぐそこだし。知ってたんだろう。
「えっと…、ありがとうございます」
俺は鈴をふたつ、受け取った。
■ ■ ■
「お帰り朔。スイカがあるよ」
ばあちゃんに言われた。
「ん!――あ、そうだこれ!神社で配ってた」
俺は鈴を渡して、水着とタオルを洗濯機に入れた。
「ばあちゃんに二つともあげる」
「いいのかい」
「うん。鈴って五月蠅いし。スイカ食べよう」
俺は二つ渡した。
「ばあちゃん、明日どっか出かけない?あ。明日花火大会か…。あ。そうだ。本家の方でお祭りもあるっけ…」
テレビをつけて俺は言った。せっかくの夏休みだって、皆がはしゃいでる。
人混みに紛れて花火を見に行く事も無いかな。
明日は確か、本家の近くで納涼の祭りがあったはずだ。
「花火はいいや。お祭りもちょっと遠いかな。でもどっか出かけようよ。買い物でも良いから」
「おやおや…じゃあ、どこにしようか」
どこにしようかな。
……どこへ行こうか。鳥たちが導くままに……。
「…んー?」
何か聞こえた?俺は首を傾げて目を擦った。
――。
眠いから少し寝ようかな。体もちょっと重いし。プール気合い入れすぎたかな。
でもすぐにご飯だし…。
眠い…。
俺はご飯を食べてから二階に上がった。




