『お化け屋敷』 『帰り道』他2編
文化祭ネタです。
『お化け屋敷』①
「へぇ、ここか…」
「朔、早くイこう!!」
俺は短い茶髪の兄に手を引かれて、文化祭、と書かれた派手な風船つきの門をくぐった。
「どうぞ」
入った所で学生にパンフレットを渡された。やたら鳥のイラストがついている…。
さすが隼人だ。巻末には野鳥観察の豆知識が付いていた。
「隼人君は何組?」
「2-A。お化け屋敷やるんだって。張り切ってたから教室に行けば会えるかな…」
兄貴は去年くらいからなぜか急に丸くなって、今ではスッカリありふれた茶髪短髪のチャライ感じになってる。モヒカンで刈り込んだ部分もようやく人並みになって来た…。
「隼人のクラス見たら帰る」
俺は言った。
テレビで『たのしい外国語』を見ないと。
「ええ?折角だし他も全部見ようよ。たのしい外国語は録画しておいたし」
兄貴は言った。録画しておいたらしい。案外ぬかりない…。
「ほら、劇もある」
「見てどうするんだよ…」
と言いつつ俺は案内を見る。
「…『赤頭巾』?…ちょっと童話には興味無いな」
「えー面白そうなのに。童話って言うか時代劇?―江戸時代、赤頭巾と言われた伝説の人斬りがいた―。義理と人情…罰点黙々ハラハラのサスペンス。だって。おりょ、今からだ」
「あ、こっちだ。まだ人居ないな」
階段を上って直ぐ、2-Aと書かれた教室を見つけた。
「あ、隼人!」
受付ではちょうど隼人が、誰かと話してる。
「あ。来た来た。朔、いらっしゃい」
「うん。もうやってる?」
「ああ、君が一番。今日は出雲さんも一緒?」
「うん…ってあれ?また居ない――あ、そうか劇見に行ったんだな…赤頭巾だっけ?」
「ああ、あの劇か。練習見せてもらったけど良かったよ。午後の部もあるから朔も後で見ると良い」
「ん…」
…お化け屋敷って大抵大盛況だけど、そこはまだ誰も並んで居なかった。
雰囲気出しなのか、夜風が吹きすさぶ荒野、という感じのBGMが掛かっている。
「静かだけど、もうやってる?」
入り口はカーテン。
「やってるよ。君の感想を聞きたいな」
お化け屋敷は隣のクラスも借りてやっているようだ。
ちなみに2-Bは劇をやるクラス。
「分かった」
「いらっしゃいませ。ええと、ここは廃病院です…」
入り口のお姉さんが、ちょっと慣れないカンジで俺に話しかけて来た。
N県の病院で、殺人や自殺が立て続けに続いた…。
肝試しに来たあなたは、入り口で眼鏡をカラスに取られてしまう…。
「という訳で、このサングラスを掛けて入ってね。眼鏡は一番奥にあります」
「えっと、はい」
なんでギャグチック。
俺は受け取って、ちょっと大きめのサングラスを掛けた。
ただでさえ暗いのに、さらに暗くなる。
お化け屋敷か。ちょっと恐いな。
まあ、作り物だし――。
まずは待合室、って言うか入って直ぐの待合室こわ。椅子が三つ。
だれだよこのばあちゃん。普通に蜜柑食ってるけど。
段ボールで仕切られた暗い細道を通ると…段ボールに手術室→と書かれていた。
なぜかその下に、実験中、と書かれている。
「先生、このままだと麻酔が切れます…」「まだ大丈夫だ」
という会話が聞こえる。カチャ、カチャ、と。血まみれの医者と看護婦が音を立てる。
黙々として。手術を続ける。「あっ」と看護婦。
「俺の内臓がぁあーー!」
「うわぁっ!?」
俺は驚いた。というかいきなり患者が起き上がってびっくりした。
血糊も、脳みそと胃と腸が出てるっぽいのもやたらリアルだ…!
患者はすぐにまた寝て、実験は続いた。
…ちょっとドキドキした。
次は病室
ベッドが二台。もしかしなくても保健室の…たぶん治療用の幅の狭いやつだ。
もう一つは何かの台にシーツ掛けたヤツ。多分机。
血糊にまみれた、浴衣を着てミイラ状態の入院患者が痛みに呻いている。
なるほど…スプラッタ系か。
と思ったら、片隅の車いすが勝手に動いた。
「うわっ動いた」
意外とびっくりした。
廊下ではなぜか血まみれの手がいきなり出て来て、しかも足元からも出て来て、うわあっってなった。
廊下の端っこに立ってた、三角布を頭に付けた女の人に追いかけられた。
慌てて逃げた。
そのまま教室のドア――半分塞がれてて、段ボールの通路になって、這ってくぐっていく感じの道――を通って次の教室へ。
気合い入ってるな。
次はナース室。看護師さんが座って…?
っていうかこの看護師さん、めっちゃ死んでる!
突然、ガタガタガタガタ!と部屋の無線機みたいな機械が揺れて、プルルルルプルルルルプルルルルプルルルルビービービーと一斉にナースコールが響く。助けて、はやくきてぇえ、いたぃぃぃっ!と録音だが恐い。行かなきゃ~と看護師さんが復活した。
もちろん段ボールだけど、揺らしてるのは中に生徒が入ってるんだろうけど。
あれ?出口が…無い?
よく見ると、看護師さんが、出口は↓とダイイングメッセージを書いていた。
箱の横に取っ手が付いてて…扉になってる?
「次の部屋へはここからどうぞ」
「あ、どうも…」
開けたら、段ボールの中にいた血まみれの人に言われてビビッた。
「君が速水君?」「あ、はい…」
…段ボールの中の人は、懐中電灯で傷メイクのある顔を下から照らしながら、出口を開けてくれた。
「あ、この傷は本物」
「えっ」
嘘っぽいことを言われて、とりあえず這い出した。
これって、大きい人は通りにくいよな。
副院長室。院長室…。趣向を凝らしたお化け達と、なぜかゾンビ達がいた。
院長はドラキュラだった。そういえば看護師さん十字架持ってた。
――眼鏡はない。
「おかしいな」
と、矢印は続いてる。室内だけど外っぽいカンジで花の咲いたプランターがある。
また鈴虫の鳴き声。
「あ、あった!」
井戸の縁に眼鏡が置いてある。
「カラスは?いないのかな」
後ろでガー、と鳴き声がして、そこに居たのか、と俺は思った。
■ ■ ■
『お化け屋敷』②
「お疲れ様です~。眼鏡はありましたか?」
「あった。ふう…疲れた」
俺は段ボールで出来た眼鏡を受付の人に渡した。
出口にはわいわいと、クラスの非番?の人達が集まってる。
「朔、おかえり、どうだった?」
隼人も待ち構えていた。
俺は声を潜めた。
「えっと…院長ドラキュラだったのか?」「うん、そう言う設定。なんかヘンで楽しいよね」
院長は棺桶に入ってた。
あと院長室で、こちらに手を入れて下さい、と書いてあった四つ並びの箱に手を入れたら…カラスのミニキーホルダーが入ってた。当たり、プレゼントと書かれていた。
なんでだ、と心の中で突っ込んだ。貰ってきた。
「隼人、あれってギャグオチ?」
俺は少し脱力した。
どんな結末だろうかとワクワクしてたけど。ドラキュラって…。
箱は四つあって、隣は豆腐??とか、お決まりのこんにゃく、蜘蛛のおもちゃとか。
「何か成り行きで」「午後は私達もお化け役。後でメイクするの」
「まあ、面白ければいいんじゃないかな」「君が朔くんかー」
「なあ隼人、生徒会の仕事は?今から一緒に回れる?」
俺は言った。
「少しなら大丈夫――、何が一番気に入った?」
「ええと、―非常口?看護師さんの」
「ああ。アレか。後は?」
「そう言えばあのおばあちゃん、誰だ?」
「ああ、あれはクラスの子のおばあちゃん」
「―げ。そんなのアリ?」
「早く来ちゃったから。折角だしって悪ノリ?さっき帰ったよ」
隼人が苦笑した。
「なんだ。あ。後は―井戸かな。のぞいたら」
「井戸?ラストの?」
鏡が入ってて、後ろに誰か映って、地味に恐かった!
■ ■ ■
『お化け屋敷』③
「結構恐かった。――いや、楽しかった!」
俺は笑って言った。
「うーん、さすがに君はガチだね」
たこ焼きを食べながら隼人が言った。
「カラスも居た。たぶんメガネ取ったヤツ」
「へえ…あ」
隼人の携帯が鳴って、隼人は電話に出た。
『会長~!』
「ああ、いま行く―、じゃあ、今日はコレで。楽しんで行って。お兄さんは?」
「メールした」
俺はしばらくたこ焼きをつついていた。
あの女の人は、どうやら仕込みでは無かったみたいだ。
皆がびっくりしてた。
俺は――もしかして、意外と見やすい体質?
……よく分からない。
幽霊って脈絡無く沢山いるんだろうなきっと。
…俺は、そんな事を考えた。
■ ■ ■
『帰り道』
当たりのキーホルダーを眺めながら、俺は帰った。
隼人と一緒が良かったけど、やっぱりまだ学校があるみたいだ。
こんなキーホルダー、だれも入れてないって言ったけど。
本当は、だれかがこっそりサービスしてくれたのかも。
「~からすがないたらかえりましょう♪」
「―からすがないたらかえりましょう~」
…だから、誰だよ、お前。
――。兄貴を忘れて来た。
■ ■ ■
『オバケヤシキ』④
「ただいま戻りました!ばあちゃん!お土産あるよ」
家に帰ってきた。
兄貴とは、一緒に住んでない。
親父とも、一緒に住んでない。
「おかえり、朔」
ばあちゃんがいる。
母さんは、いない。
ここが俺の家。……暗くて怖い本家なんて、知らない。
「おや…?」
「あれ?」
――椿の花が、ひとつ。玄関に落ちていた。
〈おわり〉
一番のホラーはなんで速水さんはお父さんお兄さんと暮らしてないの…?
別邸って?という謎の設定ではないかと…。




