拓馬のもとへ
「リンネさまは拓馬に会ってどうなさるつもりですか?」
不安定に揺れるじゅうたんの上で、楓が聞いてきた。
「え?そんなこと言われても…」
確かにそうだ。
拓馬に会ってどうしようと言うつもりなのだろう?
拓馬は私の事を知らない…。
あれ?
「何で楓は私の名前を知ってたの?」
そうだ、楓は当たり前のように初対面のはずの私の名前を言った。
「それは…。リンネさまが受付けされたからです」
そこは、何か現実的な返事で拍子抜けした。
「じゃ、拓馬も私の名前知ってるのか」
「…。本当に拓馬に会うつもりなのですか?」
「もちろん。拓馬に会えないならここに来た意味がない」
例え、ゲームの中の人だと分かっていても、私は拓馬の事が本当に大好きだった。
てか、実際にあんな人いないって思えるから余計に惹かれたのかも。
実際のクラスメイトの男子なんて、草食系過ぎて男らしくないし、自分の事で精一杯みたいな感じで、話してても全く面白くない。
それに比べて拓馬は、いつもはドSで意地悪ばかりだけど、肝心な時は私を守ってくれて、私の望む言葉を甘い声で囁いてくれる。
理想の人。
何度も何度も自分の好きなシーンをリピートしてそのシチュエーションを繰り返していた。
ただ一つ納得のいかないことは、ゲームの中のキャラクターが自分の名前を呼んでくれないこと。
画面上では、自分の名前が記述されているのに、名前を呼ぶシーンには、『おい。』とか、『お前。』とか。
ゲームの性質上仕方ないけど、拓馬
名前を呼んでもらいたい。
ずっと思ってた。
それが今ようやく叶えられるとこまできている。
「拓馬に名前を呼んでもらいたい」
拓馬に会いたい、ただそれだけ。
「分かりました。では、拓馬の元へ」
じゅうたんの速度が上がる。
「降り飛ばされないでくださいね」
楓が風から私を守るように私の肩を抱き締めてくれた。
だから、このシチュエーション本当やばいって。
と思いながら、赤くなった頬のままうつむいた。