拓馬に彼女なんて…。
「拓馬に彼女がいるってどう言うこと?」
瞬が何言ってるのか分からずに聞き返してしまう。
「ここは、何でも自分の思い通りになる二次元じゃないの?」
自分で勝手にそう思い込んでいたけどよく考えたら誰もそんなこと言ってないよね。
でも、でも。
「あら、残念。リンネは拓馬が好きだったのね。拓馬なら、今の彼女と結婚するつもりで数日後にお披露目パーティがあるらしいわよ」
何でバカ母がそんなこと知ってるのよ。
でも、万が一にもバカ母が拓馬の彼女じゃなくて良かったと胸を撫で下ろした。
だけど、拓馬に彼女がいるんじゃこの世界に来ても意味ないじゃない?
だったら家で普通にゲームしてた方が全然マシ。
ゲームなら自分の思い通りになって自分の望む言葉を掛けてくれるもの。
でも…。ここまで来て諦めきれない。
「私、今から拓馬に会いに行ってくる」
「え?」
二人とも何言ってるの?と言う顔で私を見てる。
「さっきの話し聞いてたでしょう?」
だから、何なの?そんなの関係無い。
「仕方ないなー」
瞬はパチンと指を鳴らした。
「ちょっと古典的だけど」
そこに現れたのは、真っ赤なじゅうたんとそのじゅうたんの横に立ってるこれまたイケメンの貴公子。
緑色の腰までのロン毛。
高身長の上に顔なんてめちゃ小さくて、足もめちゃ長いし。
正真正銘の王子さま。
「楓?」
「はい。楓です。リンネさま」
ヤバイ、ヤバイ、かっこよすぎる。
楓は、このゲームの中でも一番人気のキャラクターで、断トツにかっこいい。
その楓に、直接リンネさまなんて言われるなんて。
この優しい声。あー、胸がドキドキする。
ゲームで聞いてる声そのものとかどんだけ豪華なんだろう?
「この楓がリンネさまを拓馬の元へお連れいたします」
いえいえ。
こっちの方が楓さまって言うべきなのに。
こんな私ごときにそんなお言葉もったいない。
「さぁ、このじゅうたんにお乗りください」
さっきから、楓のかっこよさに見とれてて、隣で浮いてるじゅうたんのこと目に入ってなかった。
魔法のじゅうたん…。
ってーーーーーー、本当に乗れるの?
先にじゅうたんに乗った楓が、手を差し出してくれた。
おそるおそるその手につかまった。
わぁー。手のぬくもりが本物ー。
すごいすごい、すごいし、足元揺れてるし。これで本当に飛べるのー?
ぐらぐらと頼りないじゅうたんの上で不安だったけど、楓がぎゅっと手を握ってくれていたのでそれどころじゃなかった。
近いよ、近すぎる。
こんなイケメンをこんな近距離で見たら心臓止まっちゃうよ。
「さぁ、行きましょうか」
飛び出したじゅうたんと楓の急接近でドキドキが止まらないまま、拓馬の元へ向かいだした。