瞬の想い
瞬から語られる言葉はどこか切なくてやるせない話だった。
「僕にとって初めからルナさんはとても魅力的な人だった。パートナーとして支えるうちにその魅力に吸い込まれるようにどんどん彼女に惹かれていった。でも、僕はルナさんにとってただのパートナーに過ぎないから。この世界でルナさんが幸せに過ごせるようにいつもサポートすることしかできなかった。ルナさんの好きな人が拓馬だって知った時も見守ることしかできなかった」
窓の外は突風が吹き、木々の枝を揺らしていた。
瞬の視線はそちらを見ていたが、その大きな紫色の瞳には何も写していないようだった。
ぎゅっと結んだ唇が僅かに震えていた。
常に私たちを元気にしてくれて笑顔しか見せたことのない瞬のこんな切ない顔初めて見た。
瞬がバカ母のこと好きだったなんて…。
思い当たる節が無かった訳じゃないけど、それはライク的なものかと思ってた。
パートナーとして支えるうちに…。
その言葉を聞いて、楓の事が頭をよぎった。
楓もこんな私を好きでいてくれた。
でも。私は…。
私は拓馬を諦めることできなかった。
「昨日ルナさんが自分が別の世界から来たこと、そして、本当の自分はただのおばさんで、そんな自分がこの二次元でこんな夢のような生活を送ることができて幸せだって話してた。ルナさんにとっての現実世界からは考えられない素晴らしい世界だと…ルナさんの生きている現実世界は刻々と変化していく時間の中で自分を無くさぬ用に毎日を必死で生きていくのが精一杯だって話してた」
そこで、瞬は私の目を見て言葉を続けた。
「それでも、僕はこっちの世界よりルナさんの住んでいる世界の方がずっとずっと素敵だと思った。だって、僕達は自分がどうして存在しているのか、全く知らないまま不変の時間をただただ淡々と永遠に生きているだけ、誰も愛することも愛されることもないままただ生きるだけ。ねぇ、リンネ、永遠に生きられるとしたらキミは永遠に生きる?」
バカ母の言葉はまんま自分の気持ちだった。
そんな現実世界が嫌すぎて、毎日逃げたい逃げたいって思い続けてた。
だけど、ただ逃げることしか考えていなかった私にとって瞬の言葉はあまりにも重いものだった。
ここの世界は何もかもが夢のような時間だけど、もし永遠にこの世界にいることができたら、永遠に生きることができたら…。それは最早残酷な時間でしかないだろう。
「そんな中で僕はルナさんに恋をして、ルナさんも僕に愛を返してくれた。それはこの世界での違反行為だった。それを分かった上で、ルナさんは僕に『愛してる』と想いを打ち明けてくれた」
「…。まさか。それで、ママは消えてしまったの?」
コクんと首を縦に動かして、さっきまでの穏やかな表情が消え、大きな瞳から涙が溢れ出し赤くなった顔で一気にまくし立てた。
「僕がルナさんを覚えているのは最後の瞬間まで一緒にいたからかもしれない。僕の記憶がいつまで続くか分からない、嫌だよ、ねぇ、ルナさんの事を忘れるなんて絶対に嫌だよ、ルナさんのこと忘れたくないよ」




