キス
ベッドに横になってどのぐらいの時間が流れたのだろうか?
カーテンの隙間から見え隠れする三日月の位置がベッドに入った時と比べるとだいぶ東にずれていた。
眠れない…。
ここの世界の人に忘れ去られてしまったリリカの事を考えると他人事とは思えなくなり、恐怖でいっぱいになる。
いつか訪れるかもしれないここの世界との別れは拓馬との終焉を意味していた。
あれ?でも、何でだろう?
バカ母はリリカの事を忘れているのに、私は覚えてる…。
部屋を出てバルコニーに出てみると、思ったより寒くて、何か羽織ってくれば良かったなと少し後悔した。
拓馬のこと忘れたくない。忘れられたくない。
ここに来て、たくさんの拓馬を見ることができた。
拓馬と言葉を交わすことも拓馬に触れることもできた。
もっともっと拓馬を知りたい、もっともっと拓馬の側にいたい。
私は拓馬に会うためにこの世界に来たのだから。
拓馬の側にいたくて、拓馬に想いを告げたくて、拓馬に愛されたくて、この二次元に来たのだから。
だから…。だから…。
気が付いたら泣いていた。後から後からこぼれてくる涙。
すると次の瞬間肩にふわーっと暖かい風が舞い降りてきた感じがした。
「眠れないの?そんな格好じゃ風邪引くよ」
拓馬が深い緑色のストールを掛けてくれたのだ。
「拓馬…」
「何?泣いてんの?」
「…」
言葉が出てこない私の手を取り自分の方に引き寄せて、ぎゅっと抱き締められた。
え?
急なシチュエーションで心が追い付かない。
私、今抱き締められてるの?
拓馬の胸の鼓動が聞こえる。
温かい…。
拓馬はこんな近くにいてくれるのに。
私の頭を優しく撫でてくれる拓馬。
拓馬の温もりが伝わってくる。
「今日の話し聞いて不安になってるんだろう?言ったろう?もしお前が元の世界に戻ったとしたら、オレはお前の住む世界に必ず行くから、どこにいてもオレはお前を探し出すから」
ゲームで予め登録されている言葉ではない、全く予想すらできない言葉を拓馬は奏でてくれている。
「拓馬」
拓馬が私の涙を優しく拭った指を頬にずらしていき、顎に触れ、ゆっくりと持ち上げ、唇を重ねた。
時間を止めてしまうほどの長いキス。
不安がかき消されていく。
「好きだよ、ずっと前から」
唇を離した後、もう一度抱き締められる。
強くて温かい抱擁。
たとえ、もし…。
現実世界に戻ったとしても、私は絶対に拓馬と過ごしたこの時間を忘れない。
忘れる訳がない。
今この瞬間を心に刻み、もう一度拓馬からのキスを受けた。




