記憶
いつか元の世界に戻らなければいけないのなら。
私は拓馬との事を忘れたくない。
拓馬と過ごした大切な時間をずっと覚えていたい。
「…つ」
重い瞼を開けると心配そうな顔をした拓馬と目が合った。
「お前どんだけ寝てるんだよ?大丈夫か?」
窓の外の景色は既に真っ暗になっていた。
私、そんなに眠ってたの?
「リンネ、あー、良かった」
カウンターテーブルの横に座っていた母親が私が目を覚ました事に気付き、側に駆け寄ってきた。
「あんたどうしたの?どこか痛いとことかない?」
「うん…大丈夫」
「もうびっくりした、あんたが倒れることこんて今まで無かったから」
いつもは自分中心の母親が目に涙を溜めていた。
「何か最近貧血気味で…」
「貧血って?あんた健康だけが取り柄だったじゃない?大丈夫なの?」
「うん…。大丈夫」
母親はまだ何か言いたそうに口を開いたが何を言っていいのか
拓馬がキッチンから暖かいココアを持ってきてくれた。
「取り合えずこれ飲んで。夕飯は今から作るから」
「あ、私が…」
「病人は寝てろ」
そして、私の頬に手を触れた。
「熱は無いみたいだから、やっぱりただの貧血なのかな?」
拓馬の手が暖かくて、このまま時間が止まって欲しいと思ってしまう。
「大丈夫か、ハニー?」
あれ?
何故かレントもここに来ていた。
肩より長目の髪を無造作に1つに縛り、深く椅子に座っているだけなのに、キラキラオーラが炸裂していて、イケメンパワーが半端ない。
「ハニーが倒れたって聞いて飛んできた!もう大丈夫なのか?」
相変わらずのチャラい服装はそしてチャラい言い方だったけど。
心配していたのは嘘じゃないようだ。
黄色の瞳が優しく私を映してた。
「ありがとう、もう大丈夫だよ」
そう答えると、レントは安心したように微笑った。
「そう言えば、リリカはどうしたの?一緒じゃないの?」
「え?リリカって誰?」
レントの一言が私の耳を突き刺す。
つい先日まで拓馬のパートナーだったが、レントのパートナーになったリリカ。
この世界に来てから、拓馬を取り合い何度も張り合ったリリカ。
現実世界で私のクラスメイトのリリカ。
「何言ってるの?ねぇ、拓馬?」
私は隣にいる拓馬を見上げた。
「ごめん、分からない」
バカ母でさえもキョトンとした顔で首を振っていた。
みんながそろって私を騙そうとしているんじゃないかと思うほど、思いもしない返答で私は狐につままれたような感覚になる。
しばらく考えてはっとした。
リリカは契約更新しなかった。
つまり、契約更新しないと言うことはこう言うこと?
ここの世界に住むみんなの記憶から完全に消されてしまうと言うこと…。
私が…、私が元の世界に戻ってしまったら…?
拓馬は私のことを忘れてしまう…?




