理想郷
取り合えず、他に探索する気分にもなれなかったのでバカ母の元へ戻ることにした。
外に出ると、今度は大きな木の下でバカ母はさっきとは違うイケメンとお茶を飲んでいた。
てか、さっきはテンパっててよく見てなかったけど、このイケメンどこかで見たことある。
小柄で紫色の髪を無造作に縛り、これまた愛敬のある紫色の瞳をくるくると動かして、バカ母の話をこくん、こくんと頷きながら聞いてる男の子。
この子ってもしかして…。
「貴方もしかして、瞬?」
瞬と呼ばれた男の子はパッと私の方を向き、キッラキッラの笑顔を向けてくれた。
「えっと、えっと、君は?」
乙女ゲームだと、ここで選択肢のワードが出そうだけど今は自分で言わなきゃいけないのね。
「私、リンネ」
「リンネ?君にぴったりの名前だね。よく僕の名前知ってたね。リンネはルナの友達?」
瞬は、バカ母と私の顔を見比べた。
「そう。私の友達よ。ねっ、優菜、あ、間違えた、リンネ?」
おい、普通に名前の言い間違えとかすんなよ。
自分は似つかわしくない、ルナとか言う名前を平然と使ってるくせに、私の名前が合ってないと言うように、プププと笑っているバカ母がムカつく。
「リンネも一緒にお茶しようよ?」
ゲームの中と全く同じ可愛い瞬の声。
瞬はゲームの中で癒し系のタイプで、私が二番目に好きなキャラクターだ。
今さらながら、変な感じがした。
ずっと、ゲームやテレビの中で見ていた顔が触れられる距離にある。
平面的ではなく、立体的なその顔。
瞬は私のお気に入りのキャラクターではないけど、やっぱり現実にはいないイケメンでめちゃドキドキする。
てか、私の顔ってどんなになってるんだろう?
ここに来てから一度も自分の顔を見ていないことに気が付いた。
バカ母があんなに可愛いんだから、きっと私もそれなりだよね?
現実世界にいるときの私は自分のこと一度も可愛いなんて思って無かったから、ちょっと見るのが怖いけど…。
「リンネどうしたの?何か欲しいものでもあるの?」
「ちょっと、鏡が見たくて…」
「そんなのお安いご用だよ」
瞬くんはニコッと笑うと指を鳴らした。
すると、目の前に鏡を手に持った茶髪の短髪のイケメンが現れた。
彼も見たことある…。
彼も私のお気に入りのキャラクターではないけど…。
「光希?」
「そうです。よく分かりましたね。さぁ、どうぞ」
そう言って彼は、私の前で膝まずき、顔がバッチリ映る大きなシルバーで縁取られている鏡を私の両手に握らせてくれた。
光希は、ゲームの中でもよく気の効く紳士的な人だった。
「あ…、りがとう」
少しお姫様になった感じがして、鏡に自分の顔を映した。
えーーーーー?
これが私?
想像以上。と言うかゲームの中のヒロインよりずっとずっと可愛いかもー。
肩までの栗色の髪をリボンで縛り、顔の半分以上占める大きなイエローブラウンの瞳、小さな鼻、ピンク色の唇。
これが私?
「ね、リンネは可愛いでしょう?」
瞬の声を聞いて、まだこれが現実と理解できないでいる。
ん?
瞬も光希もいるのなら、絶対拓馬もいるはず。
拓馬に会いたい。
「リンネさん、どこに行くんですか?」
急に立ち上がった私に光希は驚いていたようだったけど、拓馬に会いたい私はその言葉には応えず、走り出した。