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さよなら、楓

「リンネを迎えに来た」

長い前髪から覗く真っ直ぐな茶色の瞳が拓馬の真剣な気持ちを現している。

楓より若干背丈が低いから、見上げる感じが見方によっては挑発的に見える。

「…。これまでリンネさまに支えてきた身として、彼女の事をお願いします」

そんな拓馬の目線に負けないぐらい、鋭い目をして言葉を続ける。

「ですが、正直、彼女を手放したくありません、あなたのような中途半端な男にリンネさまを任せられるなんて思いません」

「中途半端って…。何でお前にそんなこと分かるんだよ」

口調は穏やかだったけど、その声の低いトーンと表情から拓馬の心情が手に取るように分かった。

「あなたから一度もリンネさまへの気持ち聞いてないので」

「は?そんなことで中途半端とか言われたくないんだけど…。逆にオレからしてみれば、好きだとか愛してるとか軽々しく言う男の方が信じられないけど」

しばらく二人のにらみ合いが続いていたけど…。

「最終的に決めるのはリンネ自身だよ、どうする?リンネ」

二人の側で何も言葉を発声なかった私に答えが求められた。


こんな状況の中、自分の気持ちがもう決まっているなんて私って本当に最悪の人間なのかもしれない。

それでも、ここで気持ちを言わなければ、私こそ一番中途半端な人間になってしまう。


「私は…。拓馬と一緒に暮らしたい」


乙女ゲームの中では自分から想いを告げることはできない。

ただ淡々と決まっているシチュエーションの中で決まっているエンディングが流れるだけ。

そう考えるとここでの掟の意中の相手に自分から想いを告げることができないと言うのは至極当然のことなのかな?

それでも、この世界では想いを告げることはできないけど、好きな人と一緒にいることはできる。

一緒にいたいなら、そうしたいと言うことはできる。


「できることなら、拓馬と一緒に暮らしたい」


拓馬に逢うために、拓馬の側にいるためにこの世界に来たのだから。


「改めてリンネさまの事を宜しくお願いします」

拓馬の前で深々と頭を下げた楓は、『最後に…』と視線を拓馬と私の間に置いて、敢然と言った。


「もし、リンネさまを泣かせるような事があれば私はすぐにでもリンネさまを奪いにいきます、それとリンネさま」

楓が私の耳元に口を近付け、

「契約更新の際に書いた想い人とのメリットですが…、あれは書いた相手と今よりも近い関係でいられる環境を手に入れるメリットなんですよ、だから、後はリンネさま次第です、応援しています」




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