楓との別れ
ガヤガヤとする教室。
今日も来たく無かったこの学校。
別に仲間外れにされてる訳ではない、まして、いじめにあってる訳でもない。
それでも、ここは自分のいるべき場所じゃないと思ってしまう。
どうして、私はここにいるのだろう?
『榎本、放課後までに進路希望書を出すように』
朝のHRの後、担任に呼び出された。
私の大嫌いな大人の一人。
そんな有名な進学高でもないのに、毎日八時間授業の上、土日も補習やら試験やらと…。
受験から解放されたばかりなのに、何でこんなに毎日勉強させられるんだろう?
自分の将来のために大学に行けって、大学以外の道なんてないって。
私の夢は大学にはないのに…。
『優菜、大学行かないのー?』
きた、パリピ女。
私の嫌いな平山いづみの姿がそこにあった。
この場所では大学には行きたくないとは言えない。
私は適当な愛想笑いを浮かべ席を立った。
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「リンネさま?」
いつの間にか居間のフカフカのピンク色のソファーで眠ってしまっていた。
「ああ、また私寝ちゃってた?」
何だろう?こっちの世界に来てからよく睡魔に襲われるようになっていた。
「うなされていたので声を掛けてしまいました」
眠りの邪魔をして申し訳ありません、と言うように楓は落ちそうになっていたブランケットを掛けてくれた。
優しく私を見つめる楓の瞳を見ていたら切なくなってくる。
私はこんなに優しい楓を置いて、拓馬と一緒に暮らそうと考えていたのに。
中途半端な優しさは一番人を傷付けてしまう、分かってはいるけど。
「楓、ごめんね」
私の言葉にふぅーと小さく息を吐いて、楓は優しく私の頭を撫でた。
「最近謝られてばかりですね。リンネさまはリンネさまの好きなように生きてください。と言っても、私がリンネさまの足かせになっているのかもしれませんが…」
「足かせだなんて、そんなことない。この世界に来て何度楓に救われたか分からない」
分からないのに…。
「それでも、拓馬には勝てないんですよね?」
え?
楓がそんなこと言うなんて思わなかったから、何て答えていいか分からない私に、イタズラっぽい笑顔を見せたかと思ったら次の瞬間頬にキスされた。
「隙がありすぎですよ。リンネさま」
え?え?え?
い、いま、キス?キスされたの?
「お別れのキスです」
「…。え?」
「拓馬と暮らすのでしょう?そのこと私にずっと言えなかったんでしょう?」
知ってたんだ。
「私は大丈夫です」
楓は窓に近付き、目を閉じた。
「拓馬が迎えに来ましたよ」
「楓?」
「今までありがとうございました、リンネさまがこれからも幸せでありますように」
私の前で膝をついてじっと私を見つめ、笑顔を見せてくれた。




