この世界で生きていくこと
「これはこれはルナさま。おはようございます」
一度、居間に戻っていた楓が部屋の物音に慌てた様子で私の部屋に入ってきた、バカ母の姿を見ると、ホッとした感じで笑顔を見せた。
「おはよう、楓ーどうどう?私の格好?現役のJKより全然可愛いわよねー?」
バカ母は楓の前でクルクルと身を翻した。
「とてもお似合いですよ、ルナさま」
回転する度に当たるツインテールの髪を受けながら答えた楓の言葉にバカ母は大喜びしていた。
「やっぱり、私って可愛いー」
「そうです、ルナさまは世界一可愛い女性です!」
バカ母と一緒に、空飛ぶじゅうたんに乗ってきた瞬はバカ母の手を取りピョンピョン飛んでいた。
ゲームの中では、結構硬派なイメージもあった瞬なのに、全然違う。
もしかして、パートナーによって登場人物のキャラって変わってゆくのかも?
もちろん、そんなこと本当のゲームじゃできないけど。
ここの世界では何でもありなのかも。
「で、何しに来たの?」
テンションマックスのバカップルのような二人に少しイライラしていた。
「そそ、あんた、契約更新した?」
突然さっきまでのキャピキャピした声から現実のオババの声に戻った。
「う、うん」
歯切れの悪い返事にバカ母は、訝しげに私の目を見た。
「あんた、もしかして悩んでるの?もしかして、現実に戻りたくなってるとか?」
現実?
いや、現実なんて戻りたくない。
私にとって毎日息が詰まりそうなほど何も楽しくない現実。
現実の世界でも、私の癒しの一時は拓馬の存在だった。
学校から帰って自分の部屋で拓馬のゲームをしている時だけが私の至福の時間だった。
「私はここに残る」
意を決意した私の言葉にバカ母は、うんうんと頷いて、
「それを聞いて安心したー、じゃ、今日は取り合えず帰るーまたね、楓ー」
バカ母は楓にウィンクすると、瞬と手を繋いで乗ってきたじゅうたんにピョンと座って行ってしまった。
「本当、うちの母親が騒がしくてごめんね」
自分勝手な母親の去りゆく姿を見送ってから、楓にペコリと頭を下げると、楓は私の頭を優しく撫でた。
「リンネさまがこの世界に残ってくれて本当にうれしいです」
そう言ってから、急に抱き締められる。
「貴女がこの世界からいなくなると思うとそれだけで私は悲しくなります」
きゅ、きゅ、急にラブシチュエーション。
ドキドキが止まらない。
時間も呼吸も止まってしまう感覚。
「あ」
一瞬の後パッと我に返り、私を放し、
「失礼いたしました、申し訳ありません」
来たときと同様慌てて部屋を出ていく楓を見ながら、心が痛んだ。




