表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/56

契約更新

「おはようございます、リンネさま、入ってもよろしいでしょうか?」

珍しく朝早く目が覚めて、部屋で着替えていると、ノックのあと楓の声がした。


「あ、ちょっと待って」

着替え途中だった私は慌ててワンピースの背中のファスナーを引き上げた。


「どうぞ」

ドアノブを回し、楓を招き入れた。

楓はいつものように温かい笑顔を浮かべながら、手に持っていたトレーを中央のテーブルに置いた。

「今日は大切なお話しがございます」

日差しを浴びてティーカップにお茶を注ぎながら口を開くその様子は、どこかの国の伯爵のように美しく、ついつい見とれてしまう。

「リンネさまがこの世界に来られて早一ヶ月が経ちますが、契約更新のこと聞いていますか?」

ん?契約更新?何か携帯のCMのような単語が出てきたぞ。

「何それ?聞いてないけど…」

「やはり、そうでしたか…。何もおっしゃらないのでひょっとしたらご存知無いのかと思い聞いてみました」

淡々と語り、『熱いので気をつけてください』と私にティーカップを差し出した。

「この世界では2ヶ月置きに契約更新がございまして、ここの世界に残るのであれば最初にサインした用紙にもう一度名前を書き…、更に今回は今最も気になる人物の名前を記載しなくてはいけません」

「え?何それ?そんなのあのお婆さん何も言って無かったよ」

そう、あの登録の場所にそんなこと一つも書いてなかった。

「契約しないとどうなるの?」

「この二次元世界的から元の世界に戻り、この世界のこと、この世界で過ごしたこと全てが記憶から消されてしまいます」


え?…今、何て?

つまり、今、こうして楓と話してることも…、拓馬とのことも…?


「この世界に来られたほとんどの方が2ヶ月で現実世界に戻られ、契約更新しないので、登録の時にその話しはしなかったのかもしれませんね」


よく分からない。

どうして?どうしてみんな戻れるの?

やっぱり現実世界の方が大切だから?

私は?


「私はここに残りたい」


心は決まってる。現実世界から逃げてる、そう思われても構わない。


私は拓馬の側にいたい。


「そうですか。そう言われると思ってました、では、この契約書にサインをお願いします」


さすが、楓、私のこと分かってる!


楓の差し出してくれた契約書にサインを書き始める。


「リンネさま、よほど慌てて着替えられたのですね?ファスナーが上まで上がってないですよ?」

そう言って私の背中に楓の指が触れる。


ドキン。

私が好きなのは拓馬なのに、ドキドキしてしまう。


「ここの気になる人物、名前書かないとダメなのかな?」

その気持ちを悟られないように問いかける。

「それは乙女ゲームの鉄則ですから」


涼しい顔で楓に答えられてしまった。


楓は私よりずっと大人で、きっとこんな風に私がドキドキしてること気付かれてるんだろうなーって思ってしまう。


「それと…書くことによってメリットがあるんですよ、それは、まだ話せませんが…」


何で話せないのだろう?

振り向いて楓を見ると、楓が私の唇に白くて長い指を置き、


「それはリンネさまのメリットになるからです。私の気持ち存じあげてるはず。私は今でも拓馬に貴女を渡したくないのです。なので、まだ言いたくありません」


唇から楓の熱が伝わってくる。

切れ長の瞳が私を映す。

ああ、ここで楓を選ぶことができたなら楽になれるのに…。


でも…。


ごめんなさい、私はやっぱり拓馬が好きなの…。


どうせ、楓にはバレてしまうのに、隠すような姿勢で、拓馬の名前を書いた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ