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大罪さん、ショッピングセンターに行くpart3

「「おいしー!」」

 デザートのクレープを頬張りながら顔をほころばせる傲と暴。そしてその二人を世話する傲を上の兄弟達が少し離れたベンチで座りながら眺める。

「ほんと、暴ちゃんの胃袋はどうなってるのかしら」

「ま、そのおかげで臨時収入が入ったじゃない」

「流石に店側からこれ以降の暴の挑戦を辞めてほしいって泣かれたけどね」

「小学生に泣かされる大人ってなんだよ」

 クレープを食べ終えた二人を連れて兄と姉達の傍まで近づくと、今後の予定を話し始めた。

「ご飯も食べ終わったし、ここからは買い物の時間でいいのかな?」

「妥当だと思うよ。あたしも服とか買いたいから」

 他の兄弟もこの後は買い物をする事に異論はなく、二人の姉の話を割って入る事をしない。

「なら、皆で一緒に行きましょうか」

「えっ」

 反射的に声を漏らし、困惑した表情を浮かべる人物がいた。意外にもその人物は長男の努維だった。

「ん? 努維君どうかしたの?」

「お、俺は別行動を」

「何言ってるの! 怠美でさえいくのよ?」

「どうせわたしはどちらかというと諦めてるんだけどね」

「わ、分かったって。一緒に行くよ」

 妬亜に押し切られ、渋々一緒に服屋に向かった。

 何故、努維が一緒に買い物をする事を渋っていたのか。兄弟と歩く事で自分が浮いて見えてしまい、劣等感に似た感情を抱いてしまうからだ。

 長女の色は性格を除けば長身、首まで伸びた漆黒の髪、キリッとしたツリ目に加えて出るとこは出ている理想的なプロポーションを持っているため異性同性関係なく好かれる美人。

 逆に次女の妬亜は色とは違い、茶髪のサイドテールと猫のような大きな目持ち、可愛いらしさが前面に出ている。

 三女怠美はボサボサの長い髪で顔が隠れてしまうがそれでも顔が整っていることを隠し切れない。姿勢を良くすれば主張の激しい胸が男達の釘付けにし、見た目を気にすれば色と妬亜と同等かそれ以上のポテンシャルを持つ。

 次男傲は一見してチャラそうには見えるが、実際は豆腐メンタルと言っても過言ではないほどメンタルが弱い。見た目は言うまでも無く美形で、黒髪の毛先を立たせてクールな印象が際立っている。

 三男四女の強と暴はまだ小学生ではあるが、短髪が活発な美少年の雰囲気を醸し、ウェーブのかかった金髪は何処となくお姫様を連想させられる。どちらも将来が有望だ。

 そんな一癖も二癖もある兄弟達の中で最も常識人である努維は背はそこそこ高く、遊ぶことを知らない髪は染めることなく黒に近い茶髪を維持している。二重のツリ目がクールな雰囲気を出しているためどちらかと言えばいい線言っているのだが、他の兄弟達が近くにいるとそれは霞んでしまう。

 自分はこの兄弟には不釣合いなのではないかと考えていると、努維の額にデコピンがはいった。

「イテッ!」

 額をさすると、目の前には手を開いた妬亜がムスッとした表情を浮かべている。

「コラ! また人の目気にしてたでしょ」

 図星を突かれた努維は否定しようとするがうまく言葉が思いつかない。そんな努維の様子を見た妬亜は深く溜息を吐いた。

「あのね! あたし達は兄弟なんだからそんな事で仲間外れにしたり、よそよそしくなったりしたくないの!」

「わ、分かってるよ……俺が悪かった」

「分かればいいのよ……それに」

 恥ずかしそうに頬を少し赤く染める妬亜。

「努維は……カッコいいと、思うわよ……少し! 少しだからね!」

 励まそうとしてくれている妬亜に感謝しながら元気が出た努維は笑顔を見せた。

「ありがとう妬亜ねえ」

 恥ずかしさが限界に達した妬亜はプイッと顔を背けて、怠美の近くに駆け寄る。話を聞いていた怠美が口を開く。

「珍しいね」

「……何がよ」

「妬亜はクラスの男の人どころか芸能人ですらカッコいいなんて言わないからさ。案外本心だったりして」

「……知らない」

 数十分のウィンドーショッピングが続くと、色は突然ぴたりと止まってからくるりと体を兄弟達に向けた。

「はい、ストップ!」

 色の号令と共に兄弟達の動きが止まる。止まった場所はちょうど服屋の目の前だった。

「さて、今から服を買うんだけど、愛しの弟君達は服買う?」

「俺はいい」

「オレは見る程度で」

「僕もいい」

「ほんと、家の男共は服に興味ないんだから」

「まぁまぁ、なら服を買う私達優先で動きましょう」

 そう言い終えると、色と妬亜は怠美の両腕をがっちりと掴む。同じ経験を出掛ける前にも受けている怠美は困惑せざるをえない。

「え? ……え! ちょっと待って! わたしも別に服は――」

「怠美ちゃんは何を言ってるのかな? 一番服が少ないのは怠美ちゃんなんだからこの機会に買わないと」

「絶対逃がさないわよ」

「妬亜、もしかしてさっきの怒ってる?」

 返事を返す事なく、二人は怠美を連れて見せの奥絵と歩く。

「傲! 助けてええええぇぇぇぇぇぇぇぇ…………」

 怠美の叫びが服屋に消えていく。

「……後を追うぞ」

「そうだね」

「なんで怠美姉ちゃんは大声出したんだろう?」

「前にテレビで見た事あるよ。いやよいやよも好きの内らしい。だから本当は、怠美姉様は喜んでるの!」

「そっか!」

 四人は先行った三人の後を追う。すぐに追いついたはずなのだが、そこには怠美の姿が見当たらなかった。

「怠ねえは?」

 色と妬亜は無言で親指を立て、後ろの試着室に向ける。

「よく怠美姉さんが嫌がらなかったね」

「自分で着るのと無理やり着せられるの、どっちがいいか聞いたら涙流しながら率先して着にいったわよ」

 出発前に辱めを受けた怠美の顔が努維の目に浮かぶ。

「き、着たよ」

 試着室の扉が開かれ出てきたのは、ジャージ姿から一変して白いワンピースにデニムのジャケットを羽織り、短めのスカートを穿く、眼鏡を外した怠美だった。

「怠美ちゃん、いいじゃない!」

 だらけたイメージが強い怠美だが、恥ずかしさで顔を赤らめてモジモジとしている姿は可愛らしい乙女であり、様になっている。

 流石の変わりように努維と傲は言葉を失った。

「おお! 怠美姉ちゃんカワイイ!」

「お姫様みたい!」

「そ、そう?」

 最年少組の率直な感想に照れてながら小さな笑みを浮かべる。

「ところで、そこのお二人さんは怠美に何か言うことはないの?」

 ニヤニヤしながら黙ったままの二人に感想を催促したが、二人は気恥ずかしさから中々素直な感想が言い出しづらい。

「えーと、そのなんだ……似合ってると思う……なぁ」

「え、う、うん」

 ふわりと漂うような感想に深い溜息を吐かざるをえない妬亜は呆れた顔で二人を見る

「……あんた達ねぇ。もっと他に言葉があるでしょ?」

「まぁまぁ、許してあげなよ。努維君も傲君も恥ずかしいんだから」

「そうだよ妬亜。それにわたしは今の言葉で十分嬉しいから」

 怠美は目を細めて笑顔を見せる。今の服装と表情が相まって少しドキッとする努維と傲。

 いつも過ごしている二人でさえこんな気持ちを抱いてしまうのだから赤の他人は一瞬にして虜にしてしまうに違いない。

 大罪さん達が気づいた時には、可愛いい少女を一秒でも長く、欲を言えばお近づきになろうと男女関係なく人々が大罪さん達を囲んでいた。

「あの子、カワイイ。モデルさんかな?」

「良ければメアドを!」

「この後一緒に何処か行きませんか?」

「アイドルに興味ないですか?」

「とりあえず名刺だけでも」

「付き合ってくれー!!」

 大罪さん達を逃がさないように囲っていた包囲網がじわりじわりと狭まっていく。

「ど、どうしよっか、この状況」

 冷や汗をかき始める色に努維は打開策として指示を送る。

「……走れ!」

「え!? でもわたしは靴履けて――」

「傲! 怠ねえを抱えろ!」

 返事する時間すら惜しんで傲は怠美をお姫様抱っこで駆け、妬亜が怠美の靴を持ちながら強をおんぶして走り、努維は暴を抱えて疾走する。

 急に抱えられた怠美は顔が茹蛸の如く真っ赤に染まり、言葉にならずにあわあわしながらされるがままだった。

 怠美達の後を追った野次馬を横目に一人だけ走らなかった色は落ち着いて店員に怠美が着ていた衣服の代金を渡すとスマートフォンを取り出して努維に電話をかけた。

読んでくださり、ありがとうございました

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