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大罪さんちの休日

「ようやく皿洗いが終わった」

「兄さん、ごめん。オレのせいで迷惑かけて」

「気にするな。兄ってのは弟と妹に迷惑かけられるのが義務みたいなもんだ。だから気にするな」

「……ありがとう」

 話を終え、二人でリビングに戻ると、他の兄弟はキッチンをのぞく前の状態でリビングにいる。

 家が好きだからといってこのまま何もせずに一日を過ごすのは流石にまずいと思った努維は兄弟達に提案をする。

「なぁ、家に引き込まらず、何処かにいかないか?」

 それぞれの自分のしていた事をやめ、努維に視線を向けた。

「努維兄ちゃん、何処に行くの?」

 携帯ゲームの電源を切って机の上に置いた強が尋ねる。努維は手を顎に添えて、少しの間頭の中で、あれでもなくこれでもなくとぶつぶつ言いながら色々な場所を思い浮かべていく。

「なら、近くに出来たショッピングセンターでも行くか? あそこなら、服屋やゲーセンとか本屋もあるし。昼になったら向こうで食べれば済む」

「努維にしてはいい案ね」

「妬亜ねえ、『にしては』は余計だ」

 悪戯っぽく笑う妬亜にジト目で睨む努維。

「まあまあ、妬亜も努維君もその辺にして。私はいいと思うよ」

「僕も行きたい!」

「ウチも行きたい! 色んなの食べたい!」

 暴の頭の中ではクレープ、パスタ、アイスクリームなどの食べ物がメリーゴーランドのように回り続け、うっとりとした表情で涎を垂らす姿はとても女の子のしていい顔ではない。

「オレも賛成」

「なら、決まりだ。すぐに行くから準備しろよ」

 自分達の部屋に戻り、着替えを始める。まだ小さい暴と強は妬亜が代わりに選び着せていく。

 全員が再びリビングに集まって、いつでも行ける状態なのだが、約一名がまだ準備が出来ていない。

「怠ねえ。早く行くよ」

「うん、いってらっしゃい。留守番はわたしに任せて安心してショッピングセンターに行ってきなよ」

 はなから行く気などさらさらなかった怠美はソファの肘かけを枕にしてくつろいでいた。

 こうなる事を予想していた努維は妬亜とアイコンタクトを取る。

 まず始めに怠美の体が二人によって起こされた。次に、無理やり立ち上がらされた怠美は両手をがっちりと二人に掴まれ、現状を把握できていない様子で二人の顔を交互に見る。そして最後は、怠美を連れて二階に運んでいく。

「ちょっ、二人共? わたしは行かないって」

「何言ってるんだ。怠ねえが一番外出してないでしょ」

「この機会に、もう少し遊びに行く事を覚えなさい」

 怠美の部屋の前までたどり着き、妬亜が怠美を部屋の中に引きづり込む。必死に扉を掴んで抵抗する怠美だが、努維は一本ずつ指を剥がしていった。妬亜の力に抵抗出来なくなった怠美は扉を離してしまい、勢いよく布団の上にダイブする。

 努維は静かに扉を閉めようとすると、怠美はすぐに立ち上がって扉に向かうが、ギリギリのところで扉は閉まってしまった。

 部屋から出られないように努維は扉を背もたれにして、着替えが終わるまで待つ。扉からは「開けて! お願い!」と怠美の悲痛な声と扉を叩く音が聞こえるが、努維がその要望に応える時は着替えが終わる時のためどくつもりなどなかった。

 少しすると扉を叩く音はピタリと止まり、代わりに怠美の怯えた声が微かに聞こえてくる。

「え、妬亜? 何でジリジリ近づいてきて――ちょっ!」

 どうやら妬亜が実力行使に移ったようだ。

「ひゃっ! 何処触ってるの!? ……ちょっと待って! 流石に下着は自分で着替えるから! 姉妹に脱がされるのは恥ずかし――いやああああああああぁぁぁぁぁぁ! ……」

 しばらく部屋の中は静かになり、怠美のすすり泣く声だけが聞こえてきた。

「せめて……この服装だけは許して……」

「……しょうがないわね」

 二人の会話で着替えが終わったと判断し、扉から背中を離す。

 扉が開き、中から黒色に所々青い線があるジャージを着た怠美と妬亜が現れた。

「終わったわよ」

「なら、急いで皆のところに行かないとな」

「ほら、怠美。行くわよ」

 怠美の手を引いて一階に下りると、玄関には傲だけが戻ってくるのを待っていた。

「あれ? 色ねえと暴と強はどうした?」

「先に車に乗ってる。怠美姉さん、大丈夫?」

 最後尾にいる怠美を覗き込むようにして様子を見る。

「うう……二人にイジメられた」

 傲はまだ少し涙目の怠美に近づき、頭を数回撫でる。

「……やっぱり味方は傲だけだ。これからもわたしのそばにいてね」

「いや、流石にずっとは無理だよ。オレだって奥さん貰いたいし」

 ガーンと効果音を出してもおかしくないほどショックを受ける怠美。

「そんな……傲までわたしを見捨てるのか!」

「えー……兄さん助けて」

 本気で困っている傲の姿を見て、さらに暗くなっていく。

「いい加減行くぞ。強と暴が心配だ」

 少し焦っている努維に対して三人の頭にクエスチョンマークが飛び交う。

「何言ってるの? 二人はお姉ちゃんと一緒にいるでしょ」

「……純粋無垢な二人と淫魔がいる状況を見たらどう思う?」

「「「……」」」

 四人は一斉に玄関を飛び出す。

 妬亜が玄関のカギを掛け、残りの三人が車庫に向かった。

「色姉ちゃん。努維兄ちゃん達まだ来ないの?」

 いつでも発進出来るようにワンボックスカーのエンジンをかけて運転席に座っている色に待ちきれない様子で二列目に座っている強は尋ねる。

「もうちょっと待ってて。もうすぐ怠美を連れてくるから」

 後ろを振り返ると、つまらなさそうな顔をする強。強の隣に座っている暴も同様な顔をしている。

「色姉様。何か話して」

「急に言われても、お姉ちゃん、困っちゃうなー」

 困ったような笑みを見せると、二人はふくれっ面になってしまった。だが、まだ小さい二人がやると、可愛らしく見えてしまう。

 強はふと、今まで持っていた疑問を思い出し、兄弟の中で年長者である色に疑問をぶつける。

「ねぇねぇ、色姉ちゃん」

「ん、どうしたの?」

 色は強の目を真っ直ぐと見た。強の瞳の中に自分の姿が写る。

「赤ちゃんって何処から来るの」

 無垢な子供に聞かれて困る質問ランキング上位に入ってくるであろう質問に色の顔は固まってしまった。

(どうしよう。流石にここで本当の事を言うのは純粋無垢なこの子達を汚す事になっちゃう。でも、どうやって誤魔化そう。ここは定番のコウノトリで)

「ウチも知りたい! 教えて、色お姉様」

 穢れを知らない純粋でつぶらな瞳が色に注がれる。

(この子達を汚しちゃいけないわ………………でも、汚したい。汚して背徳感を味わってみたい)

 色は荒い息遣いをし、艶めかしく頬を紅潮させた。二人は姉の異変に気づき心配そうな眼差しで色を見るが、逆に色の欲望を駆り立てる。

「色お姉様、大丈夫?」

「具合悪いの?」

 心情を悟られないように色はにっこりと笑みを浮かべた。

「ううん。お姉ちゃんは大丈夫よ。逆に元気な位。……それで赤ちゃんだったわね。二人は植物のめしべとおしべは分かる?」

「うん! 前にテレビでやってるのを見た事ある!」

 元気いっぱいに強は答えた。

「うんうん。それでね。男の人にはおしべがあって、女の人にはめしべがあって、それをくっ――」

 運転席側の窓を数回たたく音が聞こえる。いいところを邪魔された色は文句を言ってやろうと窓の方に顔を向けると、窓越しに努維の満面の笑みがあった。青筋が立っているのは気のせいではない。

「色ねえ、窓を開けて」

 色は震える手でスイッチを押して窓を全開にした。

「どうも……で、何の話をしてた? 男のおしべが、女のめしべがどうとか」

「やだなー、努維君。思春期だからといって、めしべとおしべでエッチな想像しちゃだめだぞ。私は普通に植物について話してたんだから」

 声を震わしながら乾いた笑いをする色だが、後ろから援護射撃をくらう。

「お姉様? ウチ達は赤ちゃんの事を話してたんだよ?」

 血の気がサーッと引いていき、視線を努維からそらす。一方の努維は笑顔のままだが、目は真逆の感情が見え隠れしている。

「そもそも、植物の話で男の、女の、とかの単語が出るのはおかしいよな。色ねえ」

「あっれー? 何で出てきちゃったんだああああああぁぁぁぁぁ! 努維君! アイアンクローはダメ! 蟀谷(こめかみ)に指をめり込ませせちゃ、らめええええぇぇぇぇぇぇ!」

 綺麗に決まったアイアンクローは親指と薬指でがっちりと蟀谷を捕え、締め付ける強さを増していく。

「ごめんなさい! ごめんなさい! 許して!」

 パッと離し、アイアンクローから生まれる地獄の苦痛から解放された色は両手でこめかみを押さえてうずくまる。

 そんな状況の姉に気にせず、後から来た妬亜を含めて、全員が車に乗車した。

 結局、色から質問の答えが返ってこなかったため、強は隣に座った怠美に答えを聞く。

「怠美姉ちゃん。赤ちゃんは何処から来るの?」

「近いうちに嫌でも知る事になるから、今はコウノトリが運んでくる事にしといて」

 とりあえずそれで納得した二人はそれ以上聞く事はなかった。

「あ~、痛かった~……あれ? 助手席に誰もいないけど」

「全員後部座席に乗ってるからな」

「ひどくない!?」

「お姉ちゃん、早く出してよ」

 姉に対する扱いが酷い事にシクシクと泣きだす。努維は溜息を吐いてから外に一度出て、助手席の扉を開ける。

「俺が座る。これでいいだろ」

 先ほどまでの暗い表情を打ち消すぐらいの笑顔になる色。

「努維君大好き!」

 苦笑を浮かべながら助手席に座り、やっと出発する事が出来た。


読んでいただきありがとうございます。

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