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次女ちゃんの苦悩

妬亜は目の前に置かれている布を凝視し、頭を抱えていた。


「どうして買っちゃったのよ。あたし」


その布は女性の象徴である胸を支えるためのもの。所謂ブラというものだ。しかし、そのブラが妬亜のものであるには不自然な点があった。

それは胸囲。

Bに届いているのかも疑わしいほど慎ましい丘を包む事など出来ないブラ。

何故こんなものを買ってしまったかのか。それは一言で済む。

嵌められた。

妬亜の頭にデパートにいた当時の光景が蘇る。


『ねぇねぇ、妬亜。このブラ可愛いよ。買ったら?』

『え? サイズが合わない? 大丈夫大丈夫。そんなに変わらないから。それに男ってこういうの好きなんだよ』

『誰に見せるのかって? そんなの怒ーー』


頭をブンブンと振って映像を抹消。


「うー、こんな事なら優美恵の口車に乗らなきゃ良かった」


買ってしまったブラのサイズはDカップのもの。

今にも思えば店員の困惑した笑みと何度も「これでいいですか?」と尋ねられていた事を思い出しても後の祭り。

どうしよか悩んでいると部屋の扉が数度叩かれる。


「うひゃあ!」


突然の来訪者に変な声が出てしまった。


「妬亜ねぇ? どうした変の声出して」

「な、何も! それよりも何か用?」

「昼飯が出来たから呼びに来ただけ」

「そう、すぐに行くから咲に行って」

「分かった」


足音が離れていき階段から降りる音が聞こえると、深く息を吐く。


「取り敢えず今はこれを隠して後から考えよ」


さっと袋に入れてクローゼットに投げ込む。しっかりと閉めてから一階で昼食をとる。




「さて、どうしようか」


食事を済ませて再び不釣り合いなブラと対面して考えるが。方法は一つしかない。

すぐさまスマホを取り出して「胸を大きくする方法」と検索をかける。

検索結果がずらりと並ぶと表示された文字を適当にタッチした。


「マッサージか」


タッチしたサイトに飛ぶとそこには成長促進のためのマッサージ方法が分かりやすく説明と一緒に絵が貼られている。

それを見ながら両手で胸を包み、グニグニと手順通りに揉む。

悲しいほど胸の肉のなさに劣等感を覚えるも成長を信じて揉み続けた。


「ん……ふ、ぅん。こんな感じでいいの、かな?」


ほのかに胸に熱を感じ、効果が出ている事を実感(錯覚)しながら画面をスライドさせていく。

サイトの終盤に"大きくより効果的な方法"とでかでかと書かれている文字に妬亜は釘付けになった。

画面をなぞり、その方法が妬亜の目に映る。


"異性に揉んでもらう事!"


「い、異性に!?」


確かにそんな事を聞いた事はあるが、実際に触らせられる人物など少ない。

妬亜が思いつくのは怒維と傲の二人。

だがその二択は次に書かれている事で消し飛ぶ。


"好きな人なら効果絶大!!"


頭の中から傲が消え去った。


「む、むむ胸を大きくするためだもんね! しょうがないのよ!」


頭がぐるぐるとして正常な判断が出来ていない妬亜は震える手で扉を開けて、おぼつかない足取りで怒維の部屋まで歩く。

他の部屋と比べて厳重な鍵が掛かっている部屋をノックした。


「誰だ?」


部屋から怒維が応答する。


「あ、あたし」

「妬亜ねぇ?」


鍵を開けてガチャリと扉が開く。

部屋の主の怒維は妬亜を不思議そうに見つめる。


「どうしたんだ急に」

「あのー、その」


どう切り出せば分からない妬亜。


「胸の肉って、揉めば柔らかくなるのかな?」


突拍子もなく聞くと怒維は平然とした態度でこう返す。


「胸(鶏の肉)は揉んだためしないから」

「あったら困るわよ!」

「はぁ?」


妙に焦っている妬亜を不自然に思い首を傾げた。


「だったら試すか?」

「た、試すって?」

「今晩揉んでやるよ」


その瞬間、怒維の頬に鮮やかな紅葉が浮かんだ。




「冷静になってみると、あたしとんでもない事をしようとしてた」


自室に戻った妬亜は頭が冷えた事で冷静さを取り戻し――


「怠美とかまだ家にいるじゃん!」


ているわけでもなった。


「あー、ダメダメ! もっと別の方法を……そうだ!」


スマホをいじくり、検索欄に「バストアップ サプリメント」と素早く打つ。


「確かこういうのがあるって聞いた覚えが」


検索結果が羅列されるとタップしてサイトを開く。

そこには「人気ナンバー1!」「効果絶大!」とデカデカと書かれ、「まな板と呼ばれてさんざん皆にいじられましたが、今じゃ一番の巨乳になりました」使った人の感想も書かれていた。


「これよ! 早速」


ショッピングサイトにアクセスして自宅に注文した。

それが届いたのは2日後。

受け取りの対応をした傲が中身を聞いたのだが、鬼気迫る妬亜の形相に最後まで聞く事が出来なかった。


「ようやくこれであたしも」


箱を破り捨て、中身のサプリメントの服用方法と注意書きを穴が開くほど読み込む。

そして、この日から妬亜のバストアップの始まったのだ。

1日3粒。食後に服用し、時間が余っている時はマッサージを怠らない。カップ向上のため熱が入る。

食事は努維に頼んで豊胸のための食材を使った料理を頼んだ。もちろん豊胸のためとは言っていない。

そしてさらに1週間が過ぎたある日の事だ。


「ふ、ふふ」


鏡の前でメジャーを胸に巻いた妬亜は不気味に笑いながら測定値を確認している。


「3mm大きくなった! この調子ならDカップも夢じゃない」


鼻歌交じりに1階に下りる妬亜。今の自分ならどんな事を言われても許せると思えるほど心が降伏で満たされている。


「やっぱりだめみたい」

「そう。困ったわね」


何やら話し声が聞こえ、リビングに入ると怠美が何やら色に相談事をしているようだ。


「どうしたの?」

「あ、妬亜」

「実はね。怠美ちゃんが胸のサイズ変わっちゃったみたいで」


妬亜の中で何かが砕け落ちた。


「前買ったばっかりよね?」

「でも、もうきついし――」


二人がまだ話をしているが肩を落として部屋に戻る。そしてサプリメントを手に取るとゴミ箱にシュート。次に色の部屋に赴き、ブラと一緒に「あげる 妬亜より」と書いた手紙を置いて部屋に籠った。

改めてバストを測るが、結局大きくなったのは妬亜の測りミスである事が発覚。枕を涙で濡らしていると、扉をノックして色が部屋に入ってきた。


「妬亜ちゃん。これなんだけど」

「ブラ買ったけど、サイズ全然違うからお姉ちゃんにあげる」

「それは嬉しいんだけど、そのー……これ入らないの、小さすぎて」


この後、妬亜は濡れている枕をさらに濡らしたらしい。

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