大罪さんちの友人関係
努維の朝は早い。
朝から7人分の朝食と4人分の弁当を作るので大忙し。そして朝に弱い兄弟達を起こしにいくのも彼の日課だ。
未だに布団の中の怠美を(表現的に)叩き起こし、寝ぼけて半裸で飛びかかってきた色を(物理的に)叩き起こしてから食事が始まる。
「ふわぁ〜、眠い」
「起こす対応の違いにお姉ちゃん不満があるんだけど」
椅子に座って頭のタンコブさすりながら米を咀嚼する怒維を不満そうに見つめるが怒維は軽くあしらった。
「下着姿の"変質者"が屋内にいたら驚くでしょ?」
「さらっとお姉ちゃんを犯罪者扱いしてる!?」
繰り広げられる茶番などどこ吹く風と箸を進めていく他の兄弟達。傲が横目で壁に掛けられた時計に目を向ける。時刻は7時30分
「暴、強。もう少ししたら学校行かないといけないから早く食べなよ」
「すぐに食べるね!」
そういって山盛りのご飯を素早く次々と運ぶ暴。みるみるうちにご飯の山が減っていく。
「傲兄ちゃん! 一緒に学校行こうね!」
キラキラと期待した目で見る強のポンと叩いた傲はにっこりと笑う。
「分かった分かった。二人を送ってくから洗い物任せてもいい?」
「いいよ。どうせお姉ちゃんは講義遅い日だし。お姉ちゃんに任せれば」
「ちゃんと私に許可取ってから承諾してくれないかな妬亜ちゃん。と言っても本当の事だし、任せて傲君」
「ありがとう色姉さん」
「食べ終わったー!」
暴の食事が終わり、小学生組にランドセルを背負わせ黄色の通学帽子を被せた傲は白い肩掛け鞄をかけて玄関に向かった。
「行ってきます!」
「「いってきまーす!」」
三人の声に「行ってらっしゃい」と返事を返した四人はゆっくりと食事を進めていく。
「努維は急がなくていいの?」
「帰宅部の俺が急ぐ必要ないでしょ」
「それもそうね」
たわいもない会話を混ぜながら時間は7時50分まで進む。
「お姉ちゃん片づけよろしくね」
「うん! 任せて!」
サムズアップで歯を見せつけるように笑う色。そんな色を見て高校生組は不安が払拭しきれない。
「家事しないわたしが言うのもなんだけど、お姉さんに任せて大丈夫?」
「うーん。どうなんだろ?」
「色ねえ。皿は料理を乗せるためのもの。決して落としたり割ったりするものじゃないからな。ましてやぶん投げたり、フリスビーにするものでもないから」
「え、努維君の中の私って本当になんなの? もしかして私が皿を割ると思ってるの? 心配し過ぎ。せいぜい2、3枚程度だから」
「割らないのが前提なんだよ!」
そんな事を言っている内にも登校時間は刻一刻と迫っていく。
「もう時間だから頼んだよ」
「はいはい。いってらっしゃ~い」
色に見送られながら歩いて学校に向かう三人。しかしどうにも怠美の足取りは重々しい。
「怠い眠い帰りたい」
「まだ家出て十歩も歩いてないんですけど」
妬亜にしなだれるように抱き付きながら歩く怠美。背中に感じる暴力的な二つの脂肪に殺意を抱きながらもしっかりと前に進む妬亜。その後ろを努維が付き添う。
「怠ねえしっかりしろよ。……って、あれ? 前から来るの前にスーパーであった妬亜ねえの友達じゃない?」
そう言って小さく指を差す。前方からは程よい天然パーマを少し短めに切りそろえた女子高生がやってくると妬亜の目の前で止まった。
「やほ、妬亜」
「優美恵!? どうしてここにいるの? 学校と反対じゃない」
「たまにはこうして妬亜と一緒に登校したいなーって」
と言う優美恵だが、その目は面白そうなおもちゃを見る子供と同じように見える妬亜。そしてその視線の先には弟の努維を捉えていた。
「……あ、優美恵ちゃん。おはよう」
「おはよう怠美ちゃん」
怠美は軽く挨拶をすると妬亜から離れて自力で立ち上がる。
「やっと歩く気になった?」
「うん、流石に妬亜の友達がいるのにわたしがくっついてるのも邪魔で悪いし」
そこら辺の気遣いは理解している怠美。しかし優美恵はこの瞬間を待っていたのか、笑顔だった顔に悪戯っぽさが混じっていく。
「なら努維君にくっつけばいいと思うよ」
「はぁ!?」
まさかの発言に動揺する妬亜。一方の怠美は、
「優美恵ちゃん……………………ナイスアイディア。とおっ」
後方の努維に飛びつく。
ここで大罪さん達の位置関係を再確認しよう。まず三人の正面には優美恵がいる。そして怠美に寄生されていた妬亜の後ろに努維が付いてきた。
その後に妬亜から離れた怠美が後ろの努維に向かって飛び込む。そこから導かれる当然の結果は……
「ちょっと! 何道端で抱き付いてるのよ!」
二人は対面でハグをするような形になる。
「さぁ、努維。れっつごー」
「れっつごーじゃねえ! 早く離れろ駄姉が!」
通り過ぎる人々からひそひそ話が聞こえてくると努維は引きはがそうと強硬手段を使う。しかしいつも「怠い」や「面倒くさい」が真っ先に出そうな怠美が努維から離れようとしない。
「なんで抵抗するんだよ!?」
「妬亜の場合は渋々で離れたけど、離れる理由がないならわたしは誰かに寄生して、あまり体力を使わないで学校に行きたいからこの手は死んでも離さない!」
「どうでもいい事に覚悟決めるな!」
顔を押しのけて離れさせようとしても必死に対抗される。その姿に妬亜は苛立ちを覚え、その妬亜を見ながらニヤニヤする優美恵。
そんな4人を気弱なおさげの少女が努維の後方からオロオロして見ていた。
「あ、あの。何やってるの怠美ちゃん」
「あ、委員長」
怠美の反応で他もおさげの少女に目がいく。
「何度も言ってるけど、私委員長じゃないよ。あ、天野沙憧と言います。怠美ちゃんとは去年も同じクラスで」
「サーコちゃんか。あたしは双子の妬亜」
「あ、私優美恵。よろしく」
「努維って言います」
「よろしくね。…………そ、そんなにくっついて登校するほど怠美ちゃんと仲がいいんだね」
若干後ろに下がったのを見逃さなかった努維はすぐさま怠美を引き剥がしにかかった。沙憧の登場で油断していた怠美はそのまま努維から離されると新たな寄生場所に向かって行く。
「すいません沙憧さん。そのヤドリギをお願いします」
「え、え? よく分からないけど。任されました」
怠美に纏わりつかれながらも健気に歩く姿を目にした努維に罪悪感が容赦なく襲い掛かって来る。
「もう、本当怠美は」
「うんうん。何が言いたいか分かるよ」
妬亜の肩に手を置いて頷く優美恵。
「あんな自然に抱き付ける事なんて羨ましいんだね」
「そうそう。あたしなんてしたくても出来――何言わせようとしてんのよ!」
掌の上で思った通りに動く妬亜に笑いが込みあがり思わず吹き出す。するとその優美恵に向かって鞄が飛ぶ。間一髪の所で避けると仕掛けてきた張本人である妬亜をさらにいじり倒す。
「大丈夫大丈夫。さっきのは愛しの弟君には聞こえてないから」
「うっさい! ぶっ飛ばすわよ!」
逃げる優美恵を追いかけて妬亜が駆ける。一人取り残された努維は気を取り直して学校へと歩き始めた。