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大罪さんちの観察・長男

大罪さんちの観察。最後は長男の怒維です。


 自分以外の兄弟が家にいない時の行動


 長男・努維の場合


 家から兄弟達全員が出払い、一人静かにリビングに佇む努維


「皆いないな」


 この機会を待っていたと言わんばかりにニヤリと口角を上げる。


「皆がいると落ち着いて出来ないからな。それにここ一ヶ月やってないから溜まってしょうがない。どれだけストレスを感じてた事か」


 そして誰もいない事をいい事に怒維は……



 掃除の準備を始めた。



「掃除なんてこんな時にしか出来ないからな。色ねえがいると背後から近づいてくるし、怠ねえはどかないし、埃が舞うといけないから強と暴が一緒にいる時にはやりたくないし。妬亜ねえと傲は無害だからいいんだけど」


 掃除機と、水と雑巾が入ったバケツを用意し、エプロンと三角巾をつけるとおまけにゴム手袋まで装備。現代の一般家庭に加え青春真っ只中の男子高校生とは思えない過剰なまでの気合いの入れよう。


「床は最後だからまずはキッチンの掃除だな」


 そう言ってキッチンに赴くき、キッチンの様子を窺う。日ごろからある程度の手入れがされているため十分に綺麗と言えるが、ガスコンロ周りはどうしても黒くなった油や燃えカスが溜まっている。キッチンの台が白い大理石と言う事もあり余計にコンロの汚れや周辺の黄ばんでいる部分が余計に浮いていた。


「うわぁ……汚いな」


 と言葉では辟易しているが努維は目の前の汚さに一種の喜びを含んだ笑みをこぼしながら片手に雑巾、もう片手に洗剤を持って汚れと対峙する。


 20分後。

 目の前のコンロは新品同然とまではいかないが油などに拭き取られ、ビフォーアフターがはっきりと分かるほど綺麗に仕上がっていた。

 これにはやった本人も満足した様子でリビングに戻って再び往時の準備を始める。

 流石に一人でやるにはソファをや机を運ぶのは一苦労。ましてや兄弟達が帰ってくる前に終わらせようとするならまず終わらない。仕方なく物は動かさず、その下のカーペットも敷いたままで掃除を行った。

 フローリングが見える場所は箒で掃き、カーペットは粘着のついたコロコロを使って髪の毛や食べかすを取り除く。続いて掃除機で隅から隅まで吸い取る。最後に机や棚の埃を取り除いてから雑巾で軽くふき、30分程度でリビングの部屋は終了。


「ふぅー、リビング完了っと。思ったより汚れてなかったな」


 チラッと時計を盗み見ると針は午後3時を示している。帰ってくるにはまだ時間があった。


「意外と早く終わったし、他の奴らの部屋でも片づけるか」


 用意した掃除道具を元の場所に戻した後二階へと上がった努維がまず始めに入ったのは暴と強の共同部屋。

 中は努維達の部屋よりも少し大きな空間が設けられており、二人で共同で使うためベットは置かれていない。フローリングの上にはほったらかしのゲームソフトや携帯ゲーム機本体、ちょっとしたおもちゃなどがまばらに置かれている。


「もう少し片づけてほしいな。まぁ、このぐらいの歳にしては片づけてるほうではあるけど」


 そう言いながら分かりやすい所に片づけてその部屋を出た。


「さて、次は何処にしようか。妬亜ねえは片付いてるだろうし、傲は……やめとこう。あいつも思春期だ隠したい事の一つや二つはあるだろう」


 傲の部屋に入った事で気まずい空気になった事を思い出しながら二人の部屋を通り過ぎる。


「残ったのは怠ねえと色ねえ、か」


 溜息をつきながら怠美の部屋の扉を開けた。想像通り散らかった部屋に呆れながら足を踏み入れる。

 お菓子の袋や脱ぎ捨てられた服で足場をとられた床。テレビにつなげっぱなしのゲーム機。机の上にはスリープモードのパソコンが小さな光を点滅させる。


「ああ、もう。これは酷いぜ」


 流石の努維も弱音を吐いてしまうほどの怠美の部屋。機械製品には触れないようにせめて服とゴミだけはなんとかしようと作業を進める。


「たく……ん? なんだこれ?」


 おもむろに白くて丸まった布を持ち上げる努維。一体何なのかマジマジ見ていると突然布はハラリと解けて三角形の布になった。

 一瞬何か分からなかったが正体に気づくと口をパクパクとさせる。

 それは明らかに女性ものの下着。しかも部屋に丸まっておちていたと言う事は――それ以上考える事を止めた努維はすぐさま服などで包むと一階に下りて洗濯機へ叩き込む。


「生々しすぎだろ!」


 叫ばずにいられない努維。少し落ち着きを取り戻してから二階に上がり色の部屋に入る。

 怠美ほどではないが衣服が散らかっている部屋。お菓子の袋や下着が無造作に置かれていないだけましだと思いながら努維は脱ぎっぱなしの衣服に手をかける。


「……………………はぁ」


 出来れば見つけたくなかった。しかし、見つけてしまったのだからしょうがない。

 色の部屋に置かれたガラスのテーブルに茶封筒が置かれている事に気がつく。ただの手紙などなら溜息などでない。だが、そこに置かれている茶封筒にはデカデカと『愛しの努維君へ♡』と書かれている。色仕組んだのだろう。


「あの脳内ピンクが。一体何なんだ?」


 たちが悪いのは努維の行動を先読みして茶封筒を残している事だ。その点は流石長女というべきなのかと言った議論は一旦放っておく。問題はこの茶封筒が何なのか。

 備え付けの手紙を開いて内容を確認する


『努維君へ

 努維君の事だから私達がない間に掃除や片付けをしていると思ってこうして手紙を残しました。

 いつも私達兄弟のために家事をしてくれてありがとう。お姉ちゃんの私が本当はしなきゃいけないのに努維君がこうして支えてくれて本当にうれしいよ。

 それは妬亜ちゃんも怠美ちゃんも傲君も強君も暴ちゃんも一緒の気持ちだと思うから。

 たまには体を休ませないとだめだよ。


 P.S 多分泣いてると思うからこれで拭いてね。私は慰める事しか出来ないから』


「なんだよこれ。いまさらそんな事言わなくてもいいのに」


 目尻に熱と頬に冷たい水が流れ落ちると努維は目元を袖で拭う。

 茶封筒に手を伸ばす。厚みと感触から布がはいっている事は容易に判断出来た。


「色ねえ。ありがとう」


 中身を取り出して拭こうとした瞬間努維の動きが止まる。先ほどまで泣いていた努維だったが、手元の布を冷めた目で凝視していた。

 見覚えのある形。というかほんの数分前にも見た覚えのある形が努維の手に握られていた。

 茶封筒の中にはもう一枚手紙が入っている。


『これを使って。

 前に努維君の部屋にお邪魔した時エロ本の一冊もなくて驚いたけどお姉ちゃんで事足りてたんだね。

 ほら、これで慰めて。私は気にしないから! むしろバッチコイだから!』


 所々鼻血が垂れた後が残っている手紙を折り畳むと努維は静かに憤怒の炎を燃やして下着を置く。そしてスマートフォンを取り出すと色に電話をする。


『もしもし努維君? どうしたの?』


 何も知らない色の声が聞こえると努維は怒りを抑えてこう返答した。


「いえ、色さんがいつ帰ってくるのか知りたかったので」


 不自然な喋り方の努維に焦りが色の声に現れていく。


『ど、どうしたの努維君。いつもみたいに色ねえって――』

「前からこうでしたよ? あ、それとお手紙ありがとうございました。読みましたよ。読んだからではないですけど、今日は友人の家に泊まりに行ってきます。夕飯は各自で用意してください」

『え……待って努維君! 謝るから考え――』


 ぶつりと電話を切ると今度は別の人物に電話をかける。


「あ、もしもし。らくか? 今日はおまえんち泊めてくれ。…………分かった準備したらすぐ行く」


 着替えを鞄に入れて友人の家に向かう努維。

 その日の夜に色から事情を聞いた兄弟達(主に妬亜)に責められ、後日帰ってきた努維に必死に謝る色の姿が。

 怒っていた努維だがすぐに色を許してしまった自分に嫌気を差しながらまた兄弟達のために家事をするのであった。


読んでくださりありがとうございました。


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