大罪さんちの観察・次女
自分以外の兄弟が家にいない時の行動
次女・妬亜の場合
兄弟全員が外に出かけている中妬亜はソファの上でだらしなく寝転がっていた。友人の優美恵と出掛ける予定だったが急に都合がつかなくなったとかで電話がかかってきたのがついさっき。やる事もない妬亜はこうしてだらけているのだ。
時刻はすでに午後一時を過ぎていた。やはり双子というべきなのかだらける姿は怠美と瓜二つだ。
「ああ、もう! このままじゃ頭にキノコが生えそう」
バッと起き上がり、とりあえず自分の部屋に入った妬亜はタンスから白いシャツと淡いピンクのスカートを取り出し、クローゼットから引っ張り出してきたデニムのジャケットを羽織る。
姿鏡で髪がはねていないか、おかしくないかを確認するとショルダーバッグを肩にかけて外出した。
雲一つない青空の下を意気揚々と歩く妬亜。優美恵と行くはずだったショッピングセンターに向かうため最寄り駅の改札口を通る。片道切符に300円を使い乗車した妬亜は空いている席へと腰を置く。
車内はがらんとしており、向かいの席には人が三、四人ほどしか座っていない。妬亜側も人が少ないため広々と使える。
電車に揺られる事十数分。春の陽気と揺れにウトウトしていると
「まもなく――駅、――駅」
到着駅を知らせるアナウンスが車内に響く。
ハッと妬亜は慌てて扉の前に立った。前の扉が開くと足早に下車して階段を上がり改札口を抜ける。
抜けた先には少し広い空間があり、右から左、左から右へと行き交う人々が目に映った。
とりあえずぶらぶらとしたい妬亜は近くのショッピングセンターに歩みを進める。
「電車の中は人少なかったのに、やっぱり少し都会っぽくなると人が多いわね」
などとぼやきながら目的地に着くとそのまま自動ドアの中へ。
一階は食料品や生活品を主に、入り口付近では様々なフードを売る店が固まって営業している。
今回は一階にいる目的はない妬亜は見向きもせずエスカレーターで二階に上がった。
二階には洋服やおもちゃなどが隔てる壁なしで並んでいる。唯一区切っているのは来店したお客様が通るために空けているスペースだけ。
妬亜はまず服を見るために歩き回るが前回よりも少し小さなショッピングセンターであるためか、中々気に入ったものが見つけられない。
「うーん。やっぱり前の場所で買えなかったのが悔しいわね。もう! 怠美にしつこくついてきた奴ら、ほんっとムカつく! 何で他人に邪魔されなきゃならないのよ!」
前の休日の事を思い出して地団太を踏んだ妬亜は深い溜息をつくと一着のゆったりとした白いブラウスに目が留まった。
妬亜が特段気に入ったわけではなく、このブラウスを見ていると妬亜の頭の中には怠美が着こなす姿が浮かんでしまう。
「そう言えば結局怠美の服も一式しか買わなかったっけ」
そして手に取ったブラウスをレジへと持っていく。
「4000円になります」
レジの表示された金額を確認してから財布に手を伸ばし、躊躇いもなく金額ちょうどをカウンターに置いて商品の入った紙袋を受け取る。
「さて、次は……ん?」
何気無く向いた先に暴と強が好きなゲームのキャラクターのグッズコーナーが設けられていた。備え付けのテレビには延々とそのゲームキャラクターのCMが流されている。
「周りにもキャラが可愛いって人気だけど、こんなにもグッズがあるんだ」
グッズの中から以前努維がクレーンゲームで取ったぬいぐるみと同じ電気猫とキマイラのようなキャラのキーホルダーを選ぶと近くのレジに持っていく。
「1000円のお買い上げです」
そう言われ、財布の中から千円札を一枚置く。
「あ、すいません。出来れば小袋に分けて入れてもらえないですか?」
「はい。大丈夫ですよ」
店員は中身の判別が出来るように赤と青の小さな小袋にそれぞれキーホルダーを入れると妬亜に手渡しする。それを受け取った妬亜は鞄の中にしまい今度は本屋に向かった。
入ってすぐに雑誌コーナーへと向かったと妬亜はファッション雑誌に手を伸ばしペラペラとめくっていく。
「こんなのが流行ってるんだ。でも買うとなると少し悩むなー」
ある程度読み終わると陳列されている雑誌の表紙に目を通しながら横に歩いて行く。すると突然妬亜は足を止めて一冊の雑誌に凝視する。
”新しい自分! 異性からモテモテになるテクニックを大公開!”
勝手にその雑誌を手に取ろうとする自分に気がつき、その手をもう一方の手で押さえる。
「いやいやいやいや。なんでこんなの見ようとしてるの? モテモテになる必要なんてないじゃない。というか本命が好きになってくれなきゃ意味ないし。いや、いないわよ。あたしは好きな人とかいないし。べ、別に、努維に少しでもよく見てもらおうなんて思ってないし」
そう言いながらも横目でチラチラ見ている妬亜。いつの間にか押さえていた手も離し、ゆっくりと雑誌に手が伸びる。
「何かお探しですか?」
「うぇい!」
不意に店員が話しかけてきたので思わず横っ飛びしてしまう。その姿に店員の方も驚いている。
「あ、あの……」
「え、あ、いや。何でもないです! あ、あはははは!」
引きつった笑いをしながら雑誌から離れていく。
「はぁ、あたし何してるんだろう」
考えず行き着いた先は漫画コーナー。漫画は兄弟達から借りて読む程度で妬亜はあまり買う事はない。
「さっさと出よ。……あれ、これって」
新刊コーナーに置かれている漫画を取り上げる。週刊少年誌ジャスティスの一番人気の推理漫画でもある”犯人は名探偵”。探偵である主人公の向かう先で事件が起き、それを見事に解決していくのだが、事件があると必ずいるので「あれ? こいつ事件があるたびいつもいるな。こいつ黒幕じゃね?」「こんな少ない証拠でなんで分かるんだ? もしかして……犯人?」と思われ警察に逮捕される。そのため数週間に一回のペースで主人公が変わり、現在の主人公はすでに10代目だとか。
「確か傲が買ってる漫画よね。しかも今日は発売したばかり」
そう言いながらそのままレジに運んで会計を済ませた妬亜。次に向かった先は隣のCDショップ。J-POPから洋楽まで幅広い種類のCDが並べられている。
「あ、これって最近やってるドラマの主題歌よね。……そう言えばドラマ見てる時お姉ちゃんがこの曲欲しいって言ってたっけ」
そのCDを手に持って会計を済ませる。
「いつの間にか時間も結構経ってるわね。結局色々買っちゃた」
左手首に巻いた時計を見て呟く妬亜。時刻は午後5時。もう兄弟達は家に帰っているだろう。妬亜はすぐ駅に戻って電車に乗り込だ
家の最寄り駅まで着くと下車した妬亜はその脚で自宅に帰った。
「ただいまー」
「「おかえり妬亜お姉様(姉ちゃん)!」
お出迎えしてきた小学生組が抱き付くと二人の頭を撫でる。
「ただいま。そうそう、二人共これあげるね。二人の好きなキャラクターのキーホルダーだよ」
「「わーい!」」
受け取った二人はすぐに自分の携帯ゲーム機に付けるために自分の部屋に戻っていった。
リビングに扉を開けると残りの兄弟達がくつろいでいる。
「おかえり妬亜姉さん」
「ただいま。はい、傲。あんたが読んでる漫画の最新刊売ってたから買ってきてあげたわよ」
「え、本当? ありがとう」
紙袋に入った漫画を手渡すと傲の隣でソファに寝転がる怠美に袋を押し付けた。
「はいこれ。怠美の新しい服買ってあげたからちゃんと着なさいよ」
「え、別にいいのに」
キッと睨みつけ人差し指を突きつけながら怠美に迫る。
「あんた服の種類少なすぎるのよ! せめて外出用の服を何着か買いなさいよ! いいわね!?」
「あ、そ、その、わかった」
怠美が首を縦に振るのを確認すると今度は別のソファに座っている色に買ってきたCDを渡す。
「お姉ちゃんが欲しいって言ってた曲が売ってたから買ってきたよ」
「ありがとう。後でお金渡すね」
「いいよそれぐらい」
テーブルから椅子を引いて座ると冷えたオレンジジュースを注いだコップが妬亜の前に置かれる。
「妬亜ねえは買い物行ってたのか?」
「まぁね。色々買っちゃったわ」
「ふーん……で、自分のものは?」
「…………あ、そう言えば皆のものしか考えてなかったから自分の分は買ってなかった」
苦笑いを浮かべながら向かいの席に座る努維。
「まぁ、そこは妬亜ねえのいい所だな。んで、俺にも何か買ってきてくれたのか?」
「あんたはどうせ何もいらないでしょ。それに」
スッと立ち上がった妬亜は努維の背後に立つと両手を努維の両肩に置いて力の強弱を繰り返す。
「家事とか色々やってくれてるあんたはこっちのほうが嬉しいでしょ?」
「流石、妬亜ねえは兄弟の事分かってるな」
「うっさい」
しかし、妬亜の表情は言葉とは裏腹に笑みを浮かべていた。