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大罪さんちの日常

暇な時に書いていたものを連載で出してみました。

よければ最後まで読んでください。

 桜咲き、何かと始まる春。しかし、大罪さんちはいつもと変わらない朝を迎えていた。

「おーい! 全員さっさと起きろー!」

 家中に聞こえるほど大声で怒鳴る男子高校生、努維。そして、その怒鳴りを聞いた兄弟達は次々と自分の部屋から出て、リビングに集まっていく。

「朝ごはん食う前にちゃんと歯を磨けよ。……(しき)ねえと(なま)ねえはどうした」

「全然起きないからほっといた」

 次女の妬亜がサイドテールの茶髪を揺らしながら答え、努維は深い溜息を吐いてからまだ起きてこない二人を起こしにいく。

 階段を上って大罪家の長女、色の部屋の扉を三度ノックする。

「色ねえー。朝だぞー」

 しかし、扉の向こうからは物音すら聞こえてはこない。ドアノブを捻るとすんなりと扉が開く。部屋の様子が見えるか見えないかぐらいのところで努維は一旦動きを止めて考え事を始めた。

(色ねえの部屋に入りたくねぇ。でも起こさないとまずいよな)

 心の中で決心を固め、いざ色の部屋の中へ。

 部屋の中は衣服がそこら中に無造作に脱ぎ捨てられているため綺麗な部屋とは言い難かった。

 しかし、努維がためらった理由はこの部屋が散らかっているからではない。

 部屋の隅に設置されたベッドの上で布団が膨らんでいる。妬亜の言う通り、色はまだ起きてはいない様子。

 ゆっくりとベッドに近づき、布団の上から体を揺らした。

「色ねえ。いい加減に起きろ」

 しばらくゆすっていると、布団の中から白くて綺麗な腕だけが現れ、努維の腕を引っ張り中へと引きずり込んだ。

 反応が遅れた努維は抵抗し切れず布団の中に引きづり込まれ、顔に温かくて柔らかい何かを押し付けられる。

「朝から愛しの弟君が私のために会いに来てくれるなんて。お姉ちゃん嬉しい」

 妖艶な声で囁かれ、努維の耳に入るたびに紅潮は増していく。

「色ねえ! 離せ! てか、下着姿じゃねえか!」

 ジタバタする弟が離れないように色の腕は一層力を強める。

「もう、おとなしく――」

 突然部屋の扉を勢いよく壁にぶつける音がし、二人の体は一瞬ビクつく。色は自慢の黒髪をのぞかせながらこっそり布団の外を(うかが)う。抱きしめられている努維には布団の外の様子が分からないが、怒りに満ちた声は聞こえる。

 その声の主も誰であるかも分かっていた。

「お姉ちゃん……一体何をやっているのかな」

 開いた扉に立って色に可愛らしい笑顔を見せる妬亜。しかし、その笑顔とは逆の感情が声色からひしひしと伝わり、色は引きつった笑みを浮かべる。

「いや……これは愛しの弟君とのスキンシップで」

「ふーん……努維、布団の中から出てきなさい」

「で、出たいけど」

 色の腕の中から脱出を試みるが、色は離そうとはしない。痺れを切らした妬亜は努維を覆っている布団に手をかけ引っぺがす。

 妬亜の目の前に現れたのは上下とも黒い下着を付けた色っぽい色の体と豊満な胸の中に顔をうずめられた努維の姿だった。

 妬亜の顔から作っていた笑顔が消え、真顔のままその光景を見つめる。

「……努維、いい加減にしなさいよ」

「これは不可抗力!」

「いいからさっさと離れる!」

 再度色から離れようと試みると、今度はすんなりと離れる事が出来た。努維は安堵の顔を浮かべるが、妬亜の猫のようなツリ目に睨みつけられ体中冷や汗をかく。

「と、妬亜ちゃん、あの……」

「正座」

「はい?」

「せ・い・ざ」

「……はい」

 姉が妹に説教をくらい、しかも下着姿という何ともシュールな光景である。

「二階から大きな音がしたから駆けつけてみれば……なんであんな事をしたの?」

「最近構ってくれない努維君を抱きしめて人肌を感じたかったんです」

 言い回しが微妙にいやらしいのはわざとなのかは本人以外知る由がない。

 妬亜は呆れた様子で色を見つめ一息吐く。

「……朝ごはんの時間だからここまでにする。今は怠美(なまみ)を起こす事が先。あたし達三人で起こしにいくから早く立って」

 妬亜のお許しを貰った色は立ち上がり、妬亜の気に触れないように立ち回る。

 三人はすぐに部屋を出て、すぐ隣の部屋を妬亜が開ける。

 部屋の中は色の部屋以上に散らかり、中央には布団が敷かれ、怠美が気持ちよさそうに寝息を立てて眠っている。

 部屋の様子から見て、相当ズボラな事は明らか。

怠美(なまみ)! いい加減に起きなさい!」

 かけられている布団を妬亜が引っぺがすと、美人とも可愛いとも取れる寝顔が露わになった。

 ゆったりとしたスウェットを着ているが、それでも自己主張している胸は色よりも大きい。仰向きで寝ていた事もあり、呼吸をするたびに胸は微かに揺れながら上下に動いて胸の乏しい妬亜を逆なでる。

「……前から思っていたけど、妬亜ちゃんと怠美ちゃんは双子の姉妹なのにここまで違うなんてね」

 先ほど説教をくらったはずの色が火に油を注ぎ、傍にいた努維がすぐに手で色の口を押せるが、された本人は満悦の様子。

「何でよ……」

 妬亜はボソリと呟くと、怠美の胸倉を掴んで往復ビンタをし始めた。一回一回全力で叩き、乾いた音が何度も部屋に響く。

「ぶっ! ぶっ! ぶっ!」

「妬亜ねえ! 何やってるんだ!?」

 動きを止め、顔だけを努維に向けている妬亜の目に光は感じられず、絶望した人がする目をしている。

「何って……ただ純粋に起こしてるだけよ」

「いや、不純でしょ! 八割は嫉妬でしょ!」

 色から離れ、妬亜を怠美から引き探してから怠美の安否を確認するため顔を覗き込んだ。

「怠ねえ。大丈夫か?」

 心配そうにする努維をよそにあくびをし、タレ目をこすってからようやく努維の存在に気づいた。

「あれ、努維? どうしたの? ……なんだか頬がヒリヒリするんだけど」

「聞かない方がいいと思う。それよりも朝食出来てるから早く起きてくれ」

「分かった……ん」

 怠美は仰向けのまま両手を努維の方に向けて伸ばす。一方の努維はそれが何を意味するのかは全く理解が出来ていない。

「何してるんだ?」

「めんどくさいから早く運んで」

「自分で歩けよ!」

 怠美は不貞腐れながらそばに置いてあった眼鏡をかけてだるそうに立ち上がる。腰まで伸びたボサボサの髪はいつものように放置し、努維達と共に他の兄弟たちが待つ一階へと下りていった。

 一階では(ごう)(つよし)(ぼう)の三人が席についている。

「兄さん。今日はずいぶん騒々しかったけど、何かあった?」

 キリッとした顔立ちをした弟の傲が心配そうに尋ねるが、少し感じるチャラ男の雰囲気と言葉遣いにギャップがあり、兄の努維でも違和感があってしょうがない。

「何でもない。おかず持ってくるからそのまま待ってろ。色ねえ達もおとなしく座っててくれ」

 朝から疲れた様子でキッチンに向かい、作り終わっている魚の塩焼きと味噌汁をお盆に乗せて二回に分けてリビングに持っていく。

 次に、お椀にご飯をよそって全員に配った。自分も席に着こうとした時、誰かに袖を引っ張られる。振り向くと、ウェーブのかかった金髪の妹の暴が山盛りによそわれたご飯を努維に突き出していた。

「どうした暴?」

「これ、ウチのじゃない」

「……どうしてそう思う?」

「ご飯が少ない!」

 山盛りご飯で満足のいかない暴。しかし、これ以上よそうとなると、お椀に入る体積よりもお椀から出ている米の体積の方が上回る。

 努維は諭すように暴に言い聞かせた。

「暴、いっぱい食べる事は悪い事じゃないが、食べすぎもよくないからな」

「でも、近所のおば様達からはいっぱい食べなさいよって言われてるよ?」

 努維はたまに暴を連れて食材の買い出しに行く。その時近所に住む人達とばったり会うと、暴を見て「あんなに細いけど、ちゃんと食べさせなきゃだめよ」と口を酸っぱくするほど言う。暴の体型はほっそりとしているため勘違いされるが、大罪家で最も食べるのはこの暴なのだ。

「お前は食べすぎだ。それで我慢――」

 暴の大きな目に次第に涙が溜まっていき、決壊秒読みのところまで訪れている。流石の努維もこの顔を見てしまったら強くは言えない。

「……とりあえずそれを食べろ。足りなかったらよそってやる」

 さっきまでの表情から一変、太陽のようなまぶしいぐらいの笑顔になり、上機嫌の暴。努維は自分の甘さを恨みながら席につき、手を合わせる。

「いただきます」

 努維の後に続き、兄弟達も手を合わせて食事前の挨拶を済ませると箸を持って食事を始めた。

「やっぱり努維君の料理はおいしいなー」

「あ、強! ウチの魚食べないでよ!」

 暴の魚を可愛らしい少年がつまむ。

「ちょっと位いいじゃん!」

「こら、強。オレの分けてやるから暴の魚取るな」

「……ごめんなさい」

 傲に叱られ、シュンとした強は素直に自分がやった事を謝った。

「あー、めんどくさい。妬亜、食べさせて」

「自分で食べなさいよ」

「とか言っても食べさせてくれる妬亜。大好き」

 魚の身をほぐしてから箸で魚の身を猫背になっている怠美の口に持っていく。怠美はそれを頬張って満足そうに笑みを浮かべる。

 この食事の光景は(はた)から見たら仲睦まじい兄弟なのだが、実はこの七兄弟は血が繋がっていない。

 この家族構成を説明すると、母親と父親、大学一年の色が長女、高校二年で双子の姉妹である妬亜と怠美が次女と三女。高校一年の努維が長男。中学二年の傲が次男。小学二年の暴と強がそれぞれ四女と三男といった構成。

 母親と血が繋がっているのは色。父親と血が繋がっているのは双子の姉妹の妬亜と怠美。他の四人は孤児院から引き取った子供だった。

 最初のころはやはり孤児院から引き取られた子の中には警戒心を持つ子もいたが、一緒に過ごすにつれて次第にわだかまりは消えていき、現在の良好な関係を気づく事が出来ている。

「努維兄様! おかわり!」

 一番多くよそわれたはずのお椀の中は米粒一粒も残されていない。空になったお椀を努維に突き出しておかわりを催促するように上下に動かす。

「はいはい。量はさっきよりも少なくていいか?」

 首を横に振り、否定のジェスチャーをする。

「さっきと同じかそれ以上でお願い!」

 キラキラと目を輝かせている暴を見て、苦笑いを浮かべてしまうも要望通りにご飯をよそって暴に渡した。

「ありがとう、努維兄様!」

 嬉しそうに顔をする妹の顔を見るとどうでもよくなってしまうあたり、やはり暴の兄だと実感しながら微笑む。

 二十分後には全員が食べ終えて食事後の挨拶をした後、努維は皿洗いを始め、傲がその手伝いをする。色はソファに座ってテレビの情報番組を見ながらくつろぎ、隣では怠美がソファに体を預けて倒れている。妬亜は椅子に座って最近買ったファッション雑誌に目を通す。暴と強は携帯ゲーム機で今はやりの育成ゲームに夢中。

「せっかくの土曜日なのに誰も用事がないのかよ」

 水が流れる音でリビングにいる兄弟には聞こえないが、隣で皿を拭いている傲が他の兄弟の代わりに答えた。

「みんな、家にいたいんだよ。逆に兄さんはどうなの?」

「……まぁ、俺も家にいたいけど、お前は友達とかと一緒に何処かにいかないのか?」

 動きがピタリと止まり、傲の表情がどんどん暗くなっていく。

「どうせ……友達なんてオレにはいないから」

「す、すまん」

 地雷を踏んでしまい、どうやってフォローすればいいのか分からず、努維はあたふたする。

「いや、兄さんは悪くないよ、悪いのはオレだから。人と話すと緊張してつい見下してるような言い方をするオレが悪いんだ。見下せるほどの人間でもないのに」

 学校での自分を話して、乾いた笑いをしている傲の方を大きく揺らして気を確かに持たせようと必死になる努維。

「おい! しっかりしろ! 傲!」

 焦って大声を出す努維が気になった他の兄弟はこっそりとキッチンをのぞく。

「あはははは、どうせオレは皆に嫌われてるんだ。これじゃあ、彼女も出来ないよ」

「大丈夫! だから気を確かに持つんだ!」

 努維と傲の様子をジッと見つめる五人。

(前に傲兄ちゃんと同じ中学校のお姉ちゃんに傲兄ちゃんのペンを持ってきてほしいって頼まれたんだけど)

(お菓子と交換で傲兄様のハンカチを中学生のお姉様達に渡しちゃったけど)

(傲に彼女がいるかを同級生に聞かれた事があるんだけど)

(『怠美の宿題をやってあげる代わりに傲君の下着が欲しい』って言われて新品の下着を買って、それを渡しちゃったけど)

(偶然傲君を見かけた同じ大学の子に『弟さんをください!』って懇願されて、土下座までされたけど)

(((((言わない方がいいかな?)))))

 兄弟達の裏事情など知る由もない傲はどんどん暗くなっていき、努維が必死に励ますが、立ち直って皿洗いを再開したのは三十分後だった。

読んでくださりありがとうございました。

暇な時に書いていたものを投稿しました。機会があれば、どんどん投稿していきたいと思います。

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