ターゲット
ここは出会いBAR知らない人と知らない人が出会うBAR。
今日も顔も知らない者同士が一緒に酒を飲む。
オープンと同時に一人にの客が店に入ってくる。
「あぁ。いらっしゃい。今日もカウンターにしますか?」
どうやらこの男常連のようだ。
「いや、今日はテーブルがいいな。」
辺りをキョロキョロ見ながらテーブル席に座った。
「どうしたんですか?今日はやけにオドオドしてますね?」
「まぁいろいろあってな。そうだこの店の未払い今日払うよ。」
と言いカバンから大金を出してきた。
「いくらだった?」
「確か5万くらいでしたかね?端数はサービスしますよ。」
5万を差し出す男。
「お飲物はどうされます?」
「じゃあ、芋焼酎のロックをくれるか?」
「かしこまりました。」
そうこうしているうちに客がポツポツと増えてきた。
「お客さん、お一人で?」
と出会いBARの店長が声をかける。
「あぁ。」
少し無愛想な客だ。
「お客さん当店のシステムはご存知ですか?」
「いや。俺は酒が飲めたらなんでもいい。早く席に誘導しろ。」
(あの人と相席だったら怖そうだな)
などと考えていると男はカウンターへ座った。
(良かったー。)
この内心ドキドキしている男、名は藤堂。会社で少し横領したのがばれて追われる身だ。なんでも有名な殺し屋『死神』に狙われているのだとか。
「お客様お一人で?」
また客が入ってくる。
「はい。一人です。テーブルでお願いね。」
なかなか色っぽいお姉さんだ。
「そうですね~。相席になりますがこちらにどうぞ。」
藤堂の向かいに案内された女性。
「はじめまして。」
と軽く藤堂に頭を下げる。
「あぁ!どうも、どうも!はじめまして!さぁさぁ!座ってください。」
メロメロの藤堂。この時ばかりは命を狙われてるのを忘れている。
店長が近くに寄ってくる。
「お飲物何になさいますか?」
「そうね~。どうしようかしら。」
「ぼ、僕がここは奢りますよ?」
「え?いいんですか?ではお言葉に甘えて。」
と言い藤堂と一緒の物を頼んだ。
「あの、お姉さん?僕は藤堂というものですが、お姉さんお名前は?」
「私は絢香といいます。藤堂さんこんばんは、よろしく。」
「はい!こちらこそよろしく!」
(こんばんは楽しくなりそうだな~)
下心が表情にもろにでてる藤堂。
「絢香さんはよくこの店に来るんですか?」
「はい。私出会いが少なくて。だからこういったお店に来るのが楽しくて。今日も最高に楽しいですよ。藤堂さんのおかげで!」
「いや~参ったな~!」
デレデレしまくりである。
「藤堂さんはいつもテーブル席に座ってるの?」
「いや今日はたまたま。少し理由があって。」
話を聞いて欲しそうな言い方の藤堂。
「理由ってなんですか?」
「いや~。これを言うと絢香さんにも危険があるといけないから言えないな~」
「まぁそんな危ないことなんですか?」
「実は命を狙われててね」
一瞬場が凍りついた。
「ははは~!藤堂さん冗談が面白い~」
「あれ?面白かった?あはは~」
(事実なんて言えないしなぁ。)
「藤堂さんは明日は仕事休みなの?」
「はい。明日は休みですね!」
(仕事クビになったからね。)
そうこうしているうちにもう一人店に入って来た。
「いらっしゃいませ。お一人で?」
「はい。一人で」
「ではカウンター席へどうぞ。」
と言われるがままにカウンター席へ座らされる。
「お飲物何になさいます?」
と店長が聞いたので「ビールで!」と答えた。
その男の顔を見るや血の気の引いた顔をする絢香。
「どうしたんですか?絢香さん?顔色悪いですよ?」
「少し体調が良くないみたいでして。」
「大丈夫ですか?」
「いえちょっと今日はダメそうな・・・」
「家近くなんですか?送りますよ?」
「本当ですか?藤堂さん優しい!大好き!」
藤堂に抱きつく絢香。
(こんな幸せなことがあっていいのだろうか~)
幸せを噛み締める藤堂。
「じゃあ出ましょうか?店長お会計お願い!」
お会計を済ませて店を出る二人。
「家どの辺ですか?タクシー捕まえてきますね?少し待っててください。」
「あの体調悪いので少しあそこで休みたいんですが・・・」
と指を指したのはラブホであった。
「いや、しかし、ぼ、僕達さっき出会ったばかりなのにいいんでしょうか?ってかいいんですか?」
と尋ねると恥ずかしそうに「はい」と答えた。
藤堂のテンションは一気に急上昇した。
ーラブホー
「体調大丈夫ですか?」
藤堂が心配そうに聞く。
「はい。だいぶ楽になりました。」
それは良かったと缶ビールの飲み口を開ける藤堂。
「私も飲んでいいですか?」
絢香が聞いた。
「いいですけど、大丈夫なんですか?」
「心配ありがとうございます。本当に優しいんですね。」
と言い缶ビールの飲み口を開ける。
「かんぱーい」
二人は缶ビールで乾杯をする。
そこで藤堂が
「ちょっとトイレ行ってきます。飲み過ぎかな~」
小走りでトイレにむかう藤堂。
その時藤堂の缶ビールに薬を一錠入れる絢香。
トイレから出て来て薬が入っているとは知らない藤堂はグビっとビールを飲むほした。
「すごーい。強いんですね。」
褒める絢香。
すると
「あれ、おかしいな。意識が遠のい・・て・・・」
ドサッと床に倒れこむ藤堂。
「藤堂さん?藤堂さん!」必死で声をかける絢香だが、顔は笑っている。
ー数時間後ー
テレビのニュースがついている。
「あの伝説とまで言われた、別名『死神』ついにつかまりました。」
ニュースキャスターの声で目が覚める藤堂。
体はロープでがんじ絡めに柱に結ばれている。
(どういうことだ?昨日のことを思い出せ。昨日はいつものBARで飲んで、その後、そうだ!絢香さんは無事なのか?)
幸い口は自由に動かせる。
「絢香さん?いる?大丈夫?」
必死で声をかける。
するとひょいと隣の部屋から絢香が出てくる。
「あれ藤堂さんもう目覚ましたんですか?」
(この状況でこの喋り方、こいつなにか知っているな。)そう確信した藤堂。
「俺に何をした?説明しろ!」
「薬を飲ませただけですよ?睡眠薬をね!」
「ふざけるなよ!なんでそんなことするんだ?・・・まさかお前も俺の命を狙ってるのか?」
ふふふと笑うかのように絢香は答えた。
「逆よ。私は警察。暗殺者からあなたを助けてあげたの。もちろんこの後あなたは私が逮捕するけどね!」
「け、警察だと?じゃああの時なぜ捕まえなかった?なぜわざわざラブホに連れ込んだ?」
「あれはね、あの場に『死神』さんと私の仕事仲間が居て作戦実行中だったの。で、その作戦の邪魔をしないようにあなたを外に連れ出したのよ!お・わ・か・り・?」
「クソー」
こうして藤堂も逮捕された。
この一軒のBARのおかげで人殺しは回避できて、二人の悪党を逮捕できた。
果たして偶然なのか必然なのか。
終わり