死神
ここは出会いBAR知らない人と知らない人が出会うBAR。
今日も顔も知らない者同士が一緒に酒を飲む。
カランカラン
一人の男が店に入ってくる。
「お客さん、お一人で?」
と出会いBARの店長が声をかける。
「あぁ。」
少し無愛想な客だ。
「お客さん当店のシステムはご存知ですか?」
「いや。俺は酒が飲めたらなんでもいい。早く席に誘導しろ。」
「かしこまりました。ではこちらのカウンターへ」
とカウンター席へと案内したのだが満足いかないのか周りをキョロキョロ見ている。
「おい。テーブル席も沢山空いてるだろう?テーブル席にしてくれ。」
と少し不機嫌そうだ。
「しかし、当店初のお方はテーブル席に座るのは少し気まずいかもしれませんよ?」
「あぁ?どういうことだ?」
「当店は出会いが目的のBARでありまして、テーブル席は必ず相席となりますがよろしかったでしょうか?」
「なんだそのふざけたシステムは?なめてんのか?」
「いえいえ、ですからカウンター席をオススメしたのですが?」
「チッ!わかったよ。」
と言い無愛想な客はカウンターに座った。
「お飲物は何になされますか?」
「ウィスキーのロックをくれ。」
「かしこまりました。チェイサーはいかがなさいますか?」
「いらねー。・・・あとここは禁煙か?」
「いえ、すぐに灰皿お持ちしますね。」
少し忙しそうな店長だ。
灰皿とウィスキーが手元に届いて少し場に馴染んできた男。
この男裏の世界では凄腕の殺し屋、別名『死神』という名で恐れられているのだ。
ー数分後ー
「お客さん、常連でもないのにこの店入るの緊張しませんでした?」
と店長が話をふる。
「まぁ少し変わったBARだなとは最初は思ったけど、酒が飲めれば俺はどこでもいいさ。」
と言いグラスの中のお酒をぐいっと飲み、「もう一杯!」と注文した。
その時に一人の男が入って来た。
「いらっしゃいませ。お一人で?」
「はい。一人で」
「ではカウンター席へどうぞ。」
と言われるがままにカウンター席へ座らされる。『死神』の隣だ。
『死神』は気持ち少しだけ壁側に寄った。
「お飲物何になさいます?」
と店長が聞いたので「ビールで!」と答えた。
『死神』とは違い愛想があり、元気のある若者である。
この男は若手の敏腕刑事であり、拳銃の腕前も凄腕である。
この二人、まさか仕事敵であるとはつゆしらず隣に座っているのである。
「お客さんも当店は初めてですよね?」
店長が聞いた。
「そうなんですよ。前から一度入ってみたいと思ってたんだけどなかなか入れなかったんですよね~」
ビールを飲みながら話す。
「実はですね。当店は出会いが目的のBARなんですよ!だからせっかくお二人が隣に座ったのも何かの縁かもしれないので、まずは乾杯して、お話してみてはいかがですか?」
そう進める店長を尻目に「俺はいいよ。」と拒む『死神』。
「えー面白そうじゃないですか~!やりましょうよ~」
なぜか乗り気な若者。
「いいじゃないですか~!僕は護衛の衛と書いて『まもる』っていいます!乾杯!」
もう勝手に乾杯をする衛。
「いや、だから俺はしないって言ってるだろう?」
「お願いします。乾杯だけ付き合ってください!ね?」
衛は必死だ。
「わかったよ。乾杯だけだからな。」
グラスをカチンと合わせて二人は乾杯した。
「で、お隣さん名前は?」
衛が問いかける。
「もう乾杯したんだからほっといてくれ!」
少しムキになる『死神』。
「わかった~!変な名前なんだ~!だから言えないんでしょう?」
「違うわ!」
「じゃあ名前くらい教えてくださいよー!」
その時『死神』は考えた。(そういえば、俺人に名乗れる名前なんてないな。)
「ねぇ~!聴いてますか~?」
衛はすでに酔っ払ってるようだ。
(まぁ酔っ払い相手だ適当に言っとくか。)
「仕方がないな。俺は神様の神と書いて『しん』って言う名前よ。覚えとけ。」
少しかっこつけた感じで衛の方を見る。
「でさ~!隣に座ってるおっさんが話無視するんだよ~」
通りすがりのお姉さんに泣きながら状況を話している衛。
「てめぇー聞いてなかったのか?」
「え?なんか言いました?」
「もう知らねーからな!」
少し拗ねた神。
「冗談ですよ~!神さんでしょ?聞いてましたって!」
「いや、もう知らねー。話しかけるんじゃねーぞ?」
壁の方を向いて飲みだす。
ー数分後ー
「ねぇー神さん!聞いてますか?」
数分間ずっと神に話かけていた衛。
(こいついい加減鬱陶しいな)
と思い店を出ようとした神。
「お会計でよろしかったですか?」
店長がたずねる。
「あぁ」
「もう帰るんですか?神さん?僕奢るんでもう少し飲みましょうよ?幸い今日は金曜日で明日は仕事休みでしょ?」
(明日?明日はターゲットがこの街に出没する日だ!寝過ごすわけにはいかねぇ。しかしタダで酒が飲めるのに黙って帰るわけにもいかねぇ。)
「衛とか言ったな?本当に奢りか?」
「はい!奢りますとも!」
「0時までだぞ?そのあとは帰るからな?」
そう告げ席に着いた。
「神さんって現金な人ですね。」
と言われ席を立ち帰ろうとする神。
「嘘です、嘘です。座ってくださいよ。」
ー数分後ー
すっかり意気投合し、フランクに話す二人。
「~でですよ?神さん?その時どうしたと思います?」
「そりゃお前顔面グーパンよ!」
さっきからは全然想像もつかないような仲の良さだ。
そして話はついにあの話題に
「おう!衛お前仕事は何してるんだ?」
「僕ですか?僕は人にはあまり言いたくないな。」
「なんだ?人様に言えないような仕事か?」
「いや、そういうわけではないんですが・・・そう言う神さんはなにしてるんですか?」
「う!お、俺はあれよ~、そう!人の命に関わる仕事をしてるんだよ!」
「なんかカッコいいっすね!お医者さんか何かですか?」
(真逆だよ。)
と神は心では思ったが
「まぁそんなもんかな?ガハハ!」
「カッコいいなー!じゃあ僕も正直に話しますね!僕は刑事なんですよ!」
(え?嘘だろ?こんなひよっこが刑事?やばいな正体バレないうちに帰るか!)
「あー今日はよく飲んだな!そろそろお開きにするか?」
わざとらしく話をふる。
「神さんなに言ってるんですか?0時まで飲むって言ったの神さんじゃないですか?」
「うっ。あれは、あれだよ。長くいられてもの話だ!妻が心配してるかもしれないし。それにお前も結構酔っ払ってるじゃないか?な?」
「本当に帰っちゃうんれすか?うっうっ僕を一人にして帰るんですか~。」
泣き出す衛
「わかった、わかったよもう少し一緒に居てやるよ。」
『死神』と呼ばれていたのがだいぶ丸くなったと思う神。
「うわー!優しいんですね神さんって!」
「気持ちわりーなー早く飲んで帰るぞ!」
「そうそう!思い出したんですけど、この街になんでも凄い殺し屋が、来てるらしいですよ。」
(俺のことだよー)
「そ、そんな内部の情報教えて大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ~そんな悪そうな人ここには居ませんから~」
(だからここにいるんだよー!)
「やっぱりお前酔いすぎだよ!もう帰ろう!タクシー代出してやるから!な?」
「大丈夫ですって!そいつが狙うターゲットももうわかってますし、狙撃する場所もわかってますから、すぐに逮捕できますよ~!」
(えーなんでばれてるの~?でもこれは使えるな)
にやりと顔が緩む神。
「ヘェ~そうなんだ!でどこで狙撃するんだ?」
「ここからまっすぐ行くと大型デパートがあるんですけど、そのデパートの屋上からですね~」
(正解だよ!あぶね~)
内心ビクビクの神。
衛がまだ話す。
「ですから逆にこのビルの屋上から狙撃されると盲点なんでピンチなんですよね~」
(なるほど!このビルの屋上ね!プランを考え直さないとな!)
「ま、衛。もういいだろ?帰ろう!もう少しで0時だからな!」
「そうですね~!では僕は帰ります!神さんも気をつけて!また明日~!」
「衛またどこかであったらまた飲もうな?じゃあな!」
(明日なターゲットは楽勝だなこのヤロー!)
と上機嫌で帰った神であった。
ー翌日ー
(そろそろこのビルの真下をターゲットが通るはずだ!チャンスは一度落ち着けば楽勝だな!)
とライフルを構えた時だった。
「そこまでだ!警察だ!『死神』両手を上げろ!」
「け、警察だと?なぜだ?なぜここがわかった?」
と振り返るとそこには見覚えのある顔がいた。
「昨日はどうも、神さん!楽しかったですよ~!まさかこうも簡単に引っかかるなんて思いませんでしたけどね!」
「お、お前、衛!まさか全部演技だったのか?」
「はい!すいませんね!でも一応また明日とは伝えたはずなんですけど?」
と言い警察関係者が大笑いしている。
こうして凄腕殺し屋は簡単に捕まってしまったのであった。
終わり。