覚醒の兆し
八月十八日。書き直しました。
「とにかく、春はここにいて!」
「んなことできっかよ! 俺だって戦える! その拳銃貸してくれよ!」
俺が戦闘に参加するっていいだしたら、さっきまで泣いてた美依が俺に戦闘にでるなとか言い出す。そんな泣き虫なやつ一人で戦闘なんていかせられるかよ。
「これは貸せられないわ。おもちゃじゃないのよ? いいから、春はそこにいて!」
そう言って俺を置いて、美依は一人で走って路地から抜けていく。
「……ん? これって」
どうしようかと辺を見てみると、さっきまで美依のいた場所に赤黒……血が垂れた跡があった。
「なんもできねえのかよ! 力があるのに、使い方がわからねえなんてよ!!」
目の前じゃ、さっきから何度も建物が崩れる音がする。発砲音はそれに比べて少ない。
これって不味いんじゃ?
―――なにか、なにか俺にできる事はないのか?
そう思った時だった。目の前に、拳銃が落ちてきた。
落ちてきた先を見ると、それは美依が怪鳥の攻撃で取り落としたものだった。美依の左腕に鳥の羽が刺さっているのが見える。恐らく痛みで離してしまったんだろう。
「こんなんでも……やってやる!」
俺は走りながら拳銃を拾い上げ、怪鳥に向かって全力で走る。
倒れて動けない美依に、怪鳥がまた攻撃を仕掛けようとしているのがわかる。
「うおあああああ!!」
雄叫びなのかなんなのかわからない声を上げながら、俺は無我夢中で拳銃を発泡する。
反動で手に痺れるような感覚が伝わるが、そんなの関係ない。俺は撃てる限りを連射した。
「こっちを向けよ! 無視すんなよバケモン!!」
俺が叫ぶと、やっと怪鳥はこっちを振り向き、まるで鬱陶しいと言いたげな様子で声を上げ、俺に向かって羽を飛ばそうと発射体制に入る。
「しまッ!?」
気づいたら開けた場所に出て、俺は身を隠せそうな場所はない。
「―――突っ込んでリン!」
その声と共に突如俺の真横に現れた狼の突進によって、俺は壁際まで突き飛ばされる。それと同時。無数の羽が先ほど自分が居た場所を通過した。
「ってて。あぶねえッ! ありがとな」
俺は自分を助けてくれた狼の撫でる。
「リン! そのまま春を安全なところまで運んで!」
美依の指示を聞いて動こうとした狼の動きが変だと思って見てみると、後ろ足に何枚か羽が命中していた。
きっと俺を突き飛ばした衝撃で失速し、予定外の攻撃をもらってしまったのかもしれない。
「ダメだ美依! こいつ動けない!」
「……もうっ!!」
美依は駆け出しながら俺の捨てた拳銃を拾う。
「それにはもう弾なんて!」
「リチャージ。フラッシュバレット」
美依の持つ拳銃が仄かに光り、次の瞬間には発泡していた。
着弾した弾は怪鳥の顔のあたりで弾けるように光った。恐らく目くらましのような役目なんだろう。
「早く隠れるよ春!」
しかし怪鳥が狂ったように羽を乱射する。適当な分、威力と数は今までの比じゃない。
美依は座り込んで狼の下敷きになっている俺を、引きずりながら路地に逃げたせいで、所々に怪鳥の羽が刺さってかなり出血していた。
「ねえ、本当に言う事聞いて? 私が食い止めるから、逃げて、ね? お願いだから」
美依は振り返らず怪鳥の様子を伺いながら言った。
「逃げない! 俺は戦う。 武器なら……幻武ならここにある!」
俺は無我夢中でリンに手を当てる。宛ら、あの時の美依のように。
「なっ!? そんな訳……そんな事ありえない!」
美依が驚くのも無理もない。さっきまで戦えない俺が、気づいたらリンを武器の姿に変えてたのだ。それは美依のものとは少し違う。
―――白銀のライフル銃。
「……俺が倒すから、そこで待ってろ。それまで、借りとくから」
美依の肩を掴んで座らせて、俺は白銀のライフルを持ち、怪鳥を仕留めに出た。
やっと見つけたとばかりに怪鳥が羽を飛ばすが、そんな攻撃はもう見飽きた。
「何度も通用するか」
俺は集中力と視力を全力で使い、必要最低限の羽だけを撃ち落とす。
「覚悟しろよ? 借りは徹底的に返すのが俺の覚悟だからなあ!」
俺は左手に持っている漆黒のナイフを構える。
「あれって私のナイフ? いつの間に!」
俺は武器を狼に戻して、ビルの屋上まで狼に乗って走った。
狼と共にビルの屋上かか、怪鳥の頭に目掛けて飛んでいく。
「人間は空中じゃ身動きない? そう思うだろうな! 鳥!」
案の定、ゆっくりと浮遊する俺に、怪鳥は羽を飛ばしてくる。
「だけどな! こう言うやり方もあるんだよ!」
俺はナイフを持ち、狼から飛び降りると同時に武器に戻す。
そして飛んでくる羽を、遠いモノをライフルで、撃ち落としきれないものをナイフで全身を使って斬る。それでもダメなものは体を捻って掠り傷程度にしてやり過ごす。
途中から狼から離れたことで、落下スピードは通常に戻っている為、そんな長い時間羽とは戦闘しない。すぐに奴の頭部まで接近する。
そうなれば、もう奴も下手に攻撃はしてこれない。この距離なら避けても遅い。
完全に俺達の独壇場だ。
「地に落ちろよ、俺達に会ったのがお前の運の尽きだ!」
俺は怪鳥の頭にナイフを刺し、ありったけの弾丸を撃ち込んだ。
だが怪鳥も必死の抵抗をして、暴れた事でいくら銃身が短くても、大きなライフルじゃ上手く狙えない。
「いつまでもジタバタもがいてんじゃ―――ねえッ!!」
俺は左手に意識を集中して、まだ形の覚束無い光の集まっただけの拳銃で、止めの思い一発を放った。
やっとの事で怪鳥は断末魔と共に地に崩れ落ち、俺達はその前に離脱した。
不思議な事に、地に落ちた怪鳥は、しばらくして光となって消滅した。手応えはあったから、たぶん死んだんだろう。
俺が、怪鳥が消えるを見届けてから美依のもとに向かうと振り返すと、心配して、血だらけの体を引きずってまで美依が駆け寄って来るのを見えたが、それを最後に俺は気を失った。