絶対防御
白煙で何も見えない
悪魔が放った魔法が、レインとミリアに直撃した様に見える
もし、直撃なら二人はもう生きてはいないだろう
ガイアスとミレーユは悪魔との戦闘中だ、フィーネが一番近い位置にいたが爆風で吹き飛ばされ、マリルに起こされたところだ
ブラハムは悪魔に魔法を唱えさせない様に沈黙の呪文を詠唱していて、レイン達に構う余裕はなかった
この悪魔は下級でバフォメットと呼ばれている、この迷宮では主に8層で目撃されていたのだが、何故か4層でレイン達の目の前に突如現れた
その悪魔が炎の魔法でレインとミリアを襲ったのだった
そして徐々に煙が晴れていく、そこにはレインとミリアの姿があった
レインは両腕をクロスにして、ミリアの前に立ち守る様な体制をしていたが、実際には魔法の障壁に守られていた
半円状の障壁が二人を包む様に展開されていたがレインがミリアを見ると疲労困憊で青白い顔色のミリアがいた
レインはすぐにミリアを支えたが、同時にその場に座り込んでしまった
「レイン……ありがとう」
「一体何が起きた」
「私が…絶対防御の魔法を…使ったの、全精神力を使うからあまり使わないのだけど…」
そう言うとミリアは意識を失った
「ミリア!」
レインが意識を失ったミリアに声をかける
「大丈夫よ、精神力を使い果たして意識を無くしただけだから」
フィーネが二人のそばに駆け寄って来た
「絶対防御の魔法って一体…」
レインがフィーネに聞いた
「後で話すわ、今はとにかくミリアを部屋の端に連れて行って守ってあげて、先ずは、あの悪魔を倒すのが先だから」
フィーネに促されレインはミリアを抱え部屋の端に来た
悪魔を見ると、ガイアスとミレーユによってかなりの傷を負っていた
それでも悪魔と呼ばれるだけあって、抵抗は凄まじく素手の攻撃にもかかわらず床の石を砕く程の力があった
だがブラハムは悪魔の動きが鈍くなったのを見逃さなかった
つぶやく様に呪文詠唱を行い魔法発動の行動をとる
「万物の法力を司る、魔術の神リヴェラよ、我が願いに応えよ……黒き鎖にて我と対峙する生命の行動を抑せ」
ブラハムが魔法詠唱を完了させると、悪魔の足元から黒い蔓が伸び悪魔の下半身に絡みつく
この瞬間、悪魔はその場から動く事が出来なくなった
「今です!」
その合図と共にガイアス、ミレーユ、マリルが一斉に攻撃を仕掛ける
まず、ミレーユが悪魔の横から一線に剣を振ると、横腹を深く切り裂く
そこにマリルが素早く連続した矢を放ち左右の肩に刺さると悪魔は呻き声をあげて体制を大きく崩した
その瞬間をガイアスは見逃さなかった
「うぉりゃぁぁー!」
ガイアスは大きくハンドアックスを振り上げ悪魔の眉間に狙いを定めた
一瞬の出来事であったがガイアスの攻撃は寸分たがわず悪魔の眉間を捉えた
悪魔の絶叫がこだまする
大きな体が前のめりに倒れた
悪魔は徐々に姿を消していき、完全に消えた
ガイアス達は悪魔が消えたのを確認すると急いでレインの元に駆け寄る
「大丈夫か?」
「俺は大丈夫だけどミリアが…」
レインはミリアを見つめる
そこにフィーネがやって来てミリアの状態を確認する
「大丈夫よ、強力な魔法を使ったから精神力を使い過ぎたのよ、少し休めば直に目が覚めるわ」
「ねぇフィーネ、ミリアが使ったあの魔法は何だったの?」
フィーネは記憶を辿り話し始めた
「あの魔法は確か神官でも最高位にしか使えない魔法とされていて、ディバインプロテクション(加護)と言うものよ、神の加護とも言われていて、どんな攻撃も弾くと言われているわ、私も直に見たのは初めてよ」
「そんな凄い魔法をミリアは使ったのか…」
レインは眠っているミリアの頭を優しく撫でた
「よし、とりあえずみんな疲れただろう、今日はここでキャンプを張ろう」
その言葉を待っていたかの様にミレーユはマリルとブラハムを連れて適当な場所にテントの準備を始めた
「じゃ私は食事の準備をしますね」
と言ってフィーネが立ち上がる
ガイアスはレインにミリアについててやれと一言告げるとミレーユ達のいる場所に行きテントの準備を手伝った
こういった迷宮で、キャンプと言うのも変な話だが、食事や仮眠は必要だ
なので各自、背負い袋にはキャンプに必要な道具を分けて入れている
また、倒した魔物からの戦利品を入れたりしていた
少なくとも今はミリアをゆっくり休ませる必要があった
レインはみんながキャンプの準備をしているのを眺めながら、ミリアを守れず逆にミリアに助けられた事を考えていた
(もっと強くなって俺がミリアを守らなきゃな…)
「レイン、寝れる場所を作ったからミリアを連れて来てくれ」
ガイアスの声でレインは考えるのを辞めた
ミリアを抱き上げガイアス達のいる所に向かう
ミリアは思ったより軽かった
そんなに背が高くなく、どちらかと言うと低い方だろう
腕や腰を見ても華奢な体をしている
なのに、あんな凄い魔法を使うのだから驚きだ
ミリアを寝かし横に座ったレインだが、不甲斐ない自分を情けなく思いミリアから離れる事が出来なかった
ガイアスがそんなレインに気づき近づこうとしたが、ミレーユがガイアスを掴み首を横に振る
ガイアスは少し考えた後にわかったと頷いた
ようやく全ての準備が終わり、あとはフィーネの料理を待つだけだ
美味しそうな匂いがする中、レインだけは下を向いたまま動かない
(俺は何も出来なかった…ただの足手まといで、ミリアすら守れず逆にミリアに助けてもらった…俺はこの先どうすればいい…)
そんな考えをしていたレインだったが、ほのかに右手に何か触れるものがあるのに気づいた
よく見るとミリアの手がレインの手に触れていた
レインはミリアを見ると、うっすらだが少し目を開いていた
「ミリア、大丈夫?」
「うん…ありがとう、ずっと一緒にいてくれたの?」
「ごめん…守るはずの俺がミリアに守られて、こんな事になって…」
「レイン、気にしないで…私がレインを守りたかったの、だから…」
「いや、ミリアは俺が守らな」
そこまで言いかけてレインは止めた
ミリアがレインの手を強く握って来たのが分かったからだ
ミリアは首を振る
「違うよレイン、その時に守れる人が守る、今回は私の番だっただけよ、でも次は私の事をレインが守ってね」
ミリアは笑顔だった
レインは気持ちが楽になった
おかげでミリアに笑顔を返す事も出来たし、これから自分がしなくてはいけない事も分かった気がする
だからこそ、強くならなくてはいけないと改めて思った
その後ミリアは起き上がれる程に回復し、フィーネの作った料理を美味しく食べた
他のみんなも、フィーネの料理を腹いっぱいに食べ、ガイアスやミレーユは、酒が飲みたいと叫んでいたが、流石に迷宮の中ではと二人とも我慢した
地上にいたら酔い潰れるまで飲んでいただろう
二人一組で交代で見張りを行い睡眠を取る
起きたら迷宮探索がはじまる
レインは疲れたのか、横になると一瞬で睡魔に襲われ体が地面に吸い込まれる感覚を覚えながら眠りについた