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レイン

一人の少年が草むらでウサギを追い回していた


「おー、レインまたここで遊んでいるのか?」

突然声をかけられてレインと呼ばれた少年は振り向いた


「ガイアスかぁ、また迷宮に行くの?」

ガイアスと呼ばれた男は髭が濃く、体も大きい、遠目から見たら牛に見えるのではないかと思う程だ

赤い革鎧を身につけているが鎧の縁には金色の金属ど補強されている

片手には刃が両端についている戦闘用の斧を持っていた

バトルアックスと呼ばれる物で、レインと並ぶと同じくらいの大きさだ


「ああ、まだまだ階層は深い、誰も知らない場所があるからな」

「ふーん…」

レインは何か考えると、目をキラキラさせてガイアスを見ていた

「どうしたレイン」

「僕も大きくなったら、ガイアスと迷宮に行く!そして迷宮の謎を僕が解き明かすんだ」

レインは少し興奮したようにガイアスに向かって大声で言った


「おー!そっかそっか、頑張れよ」

大笑いしながらガイアスは迷宮前の広場に向かって行った


レインの住んでいるミルト村はブレスト国の西の端、山々に囲まれた何も無い農村だ、およそ10年前に大きな地震と共に洞窟が現れた

その事がきっかけとなり、今では迷宮に挑む冒険者が毎日大勢来る事となり、村は宿屋や商店を賑わす


洞窟の入り口はかなり大きく、大人が10人横一列に並んでも楽に入れる

レインは幼いころからこの洞窟近くで遊んでいた

その洞窟は物心付くころからある迷宮で、幾人幾万の人間が迷宮に入っては戻ってこなかった

レインの父が若いころに突然現れた迷宮で父は信頼のおける5人の仲間とその迷宮に入って初めて戻ってきた人間だった

ガイアスもその一人で、父の親友だ

迷宮の中は見た事もない化け物や猛獣が徘徊し、次々に襲ってきたそうだ

父は国内で少しは名の知れた戦士であったがその父が命からがら戻ってきたのだった

父の話では化け物や猛獣を倒すと死骸にならず霧のように消えてしまう

殆どの猛獣たちは通路上に徘徊しているが、最も驚くことは、その猛獣たちは突然空間の中から現れる事があるそうだ

父の予測では猛獣を倒しても異世界から次々と現れているのではないかという事だった


事を重く見たブレスト国、国王ブリニトレス3世は国中に迷宮の謎を解き明かした者には名誉と一生遊んで暮らせる程の賞金を出す事を約束した

ブレスト国はヴァリステル大陸の西に位置し、東に大国ミンストリア、南に商業が発展しているアリストに挟まれ西側には山脈と大陸の中では小国だ

国同士は同盟を結んでおり、小競り合いすらない、王同士の仲が良いのも影響している


レインはガイアスが向かった迷宮前の広場に歩き出した

村の入り口から出ると草原が広がっているが、その草原の脇に岩壁があり、その岩壁に迷宮の入り口があった

レインは程なくして迷宮の入り口にたどり着いたが、周りには迷宮に挑み傷付いた冒険者を治療する小屋や、武器や防具を取り扱う行商人が簡易的な店を構えていたり

これから迷宮に挑もうとする、冒険者の一行など、多くの人がいた


迷宮はかなり奥深く、地下に何層も広がっていた

今まで挑んだ冒険者の努力により、迷宮の階層は8層までは確認出来ているが、まだ下に未開の階層があり、迷宮の謎は解けていない

何故、突然迷宮が現れたのか、モンスターは限りなく現れるのか、そしてこの迷宮はいったい何なのか、謎は深まるばかりだ


「お父さん!」

レインは白銀の鎧を纏い、数人の冒険者と話をしていた父に声をかけた


「レインか、見送りに来てくれたのか?」

「さっきガイアスが来たから、もうすぐ出発すると思った」

「そうか、ガイアスはいつも一番遅く来るからな」

そう言いながらレインの頭を撫でる

レインの父の名はマッシュ•グランフォール、30代半ばで体力的には全盛期と言ってもいい、グランフォール家は代々、王宮の近衛隊長を務めていたが、迷宮が現れて以来グランフォール家は迷宮探索をブリニトレス王より勅命を受けていた

マッシュは迷宮に誰よりも多く挑んでいたが、白銀の鎧もその迷宮探索の時に持って帰って来た物で、魔法の効果がかかっているためか、鎧全体が青白く輝いていた

モンスターが使ってくる魔法の効果を弱めると、鑑定をした魔術師が言っていたそうだ


迷宮では様々なアイテムを見つける事が出来るが、中には見たことも無いアイテムや武具が存在する

その効果を知るには普通の人には出来ないので、魔術師に頼みどんなアイテムなのか見てもらっていた

特に武具に関しては父が着ている鎧の様に珍しい物が稀にあるそうだ

更に階層が深まるにつれて現れるモンスターも強くなり強力な武具は必要だった


「よし行くか!今回は9層の探索だ、今までより強力なモンスターもいるかもしれん、気を引き締めて行くそ!」

マッシュがそう檄を飛ばすと、一緒に行く仲間が気合を入れていた

毎回、迷宮探索に行くメンバーは同じでマッシュの一行はいつも6人で挑んでいた

戦士はマッシュとガイアス、そして女剣士のミレーユ

ミレーユは華奢な体型で髪が長く切れ長の顔立ちでレインは姉の様にしたっていた

戦いでは俊敏でモンスターを翻弄させながら手傷を負わすタイプで、先行して攻撃を仕掛け隙ができるとマッシュやガイアスがトドメを刺す

他に魔術師のブラハムや傷を癒してくれる僧侶のフィーネ、手先が器用な弓術師のマリルがいるが、みんな気さくで優しい

レインには特に可愛がられていて、父マッシュやミレーユからは剣術を習い、ブラハムには迷宮にいる魔獣や魔法について話を聞いたりしていた

マッシュ達が迷宮に行くとレインは退屈だった


「沢山お土産を持って帰って来るからな!」

ガイアスだった

おそらくレインが寂しそうな顔をしていたのに気を使ってくれたのだろう

「うん、僕に似合う武器を持って帰って来てね」

レインは精いっぱいの笑顔で応えた

「ははは!わかった楽しみにな」

そう言いながらガイアスは手を振り父達と一緒に迷宮に向かった


レインは家に帰るため、村へと歩き始めたが、頭の中では今頃母がお昼の支度をしている頃だろうと考えた

母の料理は美味しい

マッシュが迷宮に行っている間は母と二人になるが、毎日美味しい料理を食べれない父よりは良いと考え始めた時だった

聞きなれない声が家の中きら聞こえたのだ

家には母しかいないはずだし、誰かが訪ねてくるなら父がいる時だけだったのでレインは慌てて家の扉を開けた


「あら、レインお帰りなさい、お父さんはもう行ってしまったのね」

レインはコクンと頷くと、すぐさま部屋の中を見回した

すると白いローブを纏った少女が1人椅子に座り暖かいハーブティを飲んでいた

レインはその少女を見つめたまま動かない

少女は肌が白く長い銀髪で、とても綺麗なブルーの瞳で、どこか神聖な感じがした

それもそのはずだ、少女はこの国の大部分が信仰している、ミリファリエ神の神官服を着ていた


だが何故、神官がしかもレインと変わらない年頃の少女が訪ねて来ているのかわからなかった

その時だった、少女はレインに顔を向け微笑んだ


「レイン、久しぶりね、元気だった?」

レインは少女にそう言われて反応が出来なかった

「久しぶり?」

この少女は僕の事を知っているのか

何故知っているのか、頭の中でいろいろ考えていると母が話しかけてきた


「レイン覚えていないの? あんなに仲良しだったのに、いつも一緒に遊んでいたでしょう?」

レインは頭をフル回転させていた

(仲良しだった…一緒に遊んだ…)


「え………あ、あ、えーーー!まさか、そんな…ミリアなのか?!!」

レインは明らかに動揺を隠せないでいた

そんなレインを見て少女は必死に笑を堪えていた


「何よレイン、幼馴染みの顔も忘れたの? 酷いわね」

少し意地悪な言い方でミリアと呼ばれた少女が立ち上がりレインに近づく


「い、いや、だって僕の知っているミリアは髪が短くて、いつも顔に泥をつけたおてんばしか知らないよー」

「なっ!なんですって!こんな可憐な乙女に向かって泥まみれのおてんばって酷い言いようね!」

ミリアは顔を真っ赤にしてレインに詰め寄った


「あ、いやいや僕の知っているミリアとは違いすぎるよ、王都の神殿にミリアが行って2年も会っていないだから」

ミリアは顔を膨らませツンとしたままだ


「ミリアごめんって、本当にミリアなんだよね?」

ミリアはゆっくりと顔をレインに向けると、とびっきりの笑顔になりレインに飛びついた


「ただいまー!」

ミリアは今にも泣きそうな声でそう言ったが顔は笑顔でいっぱいだった


2人は再開を喜び母が入れたハーブティを飲みながら、この2年の話をしていた

ミリアは父親と二人で暮していたが、ミリアの父親が迷宮から戻って来なくなりマッシュがミリアの父親の剣を持ち帰った事で、もうミリアの父親は亡くなっているとミリア自身も理解出来た、そして1人となったミリアはレインの母リリアの勧めもありこの2年、王都ブレストで神官修行をしていた

本来5年はかかる修行をミリアは2年で終わらせたのだ

その事にも驚かされたが、ミリアは既に傷を癒す回復呪文の上位魔法を使えるという事で王都では100年に一度の逸材と噂が流れる程だ

お互いこの2年の出来事や面白かった事を話し合い気付けば夜遅くなっていた


「ミリアちゃん、今日は泊まって行きなさい」

「いいのですか?」

「帰っても1人でしょ、これからはここがあなたの家と思いなさい」

ミリアはリリアの顔をじっと見つめ、今まで我慢してきたものが一気に溢れる様に泣き崩れてしまった

リリアはミリアが泣きやむまで抱きしめミリアも本当の母に会った様にリリアの胸にしがみつき泣きじゃくり、レインは笑顔でいたが涙が止まらないでいた

その翌日、ある異変が起きようとしていた

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