お産
来た。
陣痛だ。お腹と腰回りにぎゅーっと痛みが走る。
でもまだ正気だ。一定の間隔で痛みが走る。生理痛のような、そうでないような。
悟が産婆さんを呼びに使いをやる。
だけど、まだまだそうな予感。
私は場所を赤不浄の間へと変えると、桃の手を握りしめた。しっかり握り返してくる桃。
ここから先は女だけの闘いだ。
まだ痛みもさほどなく、時間もそう早くない。
私はドキドキしていた。これから起ころうとする何かに。
産婆さんはわりとすぐにやって来た。
しかし、私を見ると
「まだまだじゃね」
と言ってどこかへ行ってしまった。
私は桃を見つめた。
「姫様、いかがいたしましたか?」
「ううん、私が母親になんて、ホントになれると思う?」
「大丈夫でございますよ。きっと立派な母君におなりあそばせます」
桃のそう言う言葉を聞くと少し落ち着いた。
痛みの間隔が徐々に短くなっていく。それと同時に痛みも増してくる。
徐々に息が出来なくなっていく。ふと思い出した呼吸方法。
「ヒッ、ヒッ、フー」
なんとか呼吸が出来るようになった。
産婆さんがどこからともなく戻ってくる。
「どらどら?始まったかの?」
産婆さんが股の間を覗き込む。
「まだまだじゃの」
と言う。これ以上痛くなると言うのか。
「ヒッ、ヒッ、フー、ヒッ、ヒッ、フー」
痛みが完全に持続する。
もうMAXだ。これ以上の痛みには耐えられない。
産婆さんが股の間を覗き込む。
「よし、そろそろいきんでええぞそーれ!1、2、さーん」
私は息もできずわけもわからず力んだ。
必死だった。
「ほれ、頭が見えてきたぞぇ」
何を言われているのかわからない。ただひらすら痛いのと力みたいのとでいっぱいいっぱいだった。
力んで力んで、力み過ぎるほど力んだ。
徐々に疲れていく身体。しかし全身を突き抜ける痛みに力む身体。
やがて
「あと少しだよ。もうしばらく頑張りな!!」
と言う声が聞こえてきて、私は踏ん張った。
にゅるり。
何かが出ていく感覚がし、産婆さんが、
「よしよし、頑張ったね!!」
と言う声が聞こえた。
「男の子だよ、跡取りだ!!」
産湯に入れられたばかりであろう身体をお腹の上に乗せられた。
私はホッとして、そのまま眠りについたのだった。
ハッと起きると、赤不浄の間で、数枚上着をかけられて眠っていた。
ごそっと起き上がると、身体中のいたるところが筋肉痛で痛んだ。
それでもようやく起き上がると、自分の股にオシメされていることがわかり、あぁ、産んだんだ……と、実感することができた。
起き上がって不浄の間の扉を開くと、桃がすっ飛んできた。
「姫様、まだゆっくりなさってください!」
「私はもう大丈夫。それより赤ちゃんは……」
「今桜さんが見てくれていますよ」
「男の子……だったの?」
「はい、大変元気な男の子です!!」
「そっか……よかった……」
私はそれだけ聞くとへなへなと座り込んでしまった。
「姫様、身体をお拭きしますから、どうぞお部屋へお戻りください」
と言われて赤不浄の間へと戻った。
身体を拭いてもらいながら昨日のことを振り返った。
「姫様はご立派でしたよ」
「そう……?自分じゃ訳口わからなくなっていたから、よくわからなくて……」
「はい、しかしご立派に産んであそばせましたよ」
「そう……?ならいいんだけど……」
私は身体を拭いてもらいながら遠い目をした。
「名前を……決めなきゃね」
「はい!ご主人様もいろいろお考えのご様子でしたよ!」
私はもう、名前を決めていた。
『悟史』と。