披露宴
三日目の晩、兼平は酒を片手にやって来た。
私にも飲めという。私は遠慮なくいただくことにする。
「でも珍しいわね。お酒を持参するなんて」
「今日は明日の前祝いってことで」
明日……今晩兼平が帰ってから、後朝の文が届いたら、披露宴だ。
そう思うと少し緊張してきた。
「緊張するだろ?だから、酒」
なるほどね……
「貴方はお酒は強いの?」
「弱くはないけど……強い方でもないかな。」
「百合はどうだ?」
「私はお酒をいただくことはほとんどありませんから……」
「弱いと?」
「えぇ、多分」
「よし、それなら飲み比べでもしようか」
「飲み比べ?」
「お銚子を十本用意してもらおう」
そういうと、梅を呼び、お銚子を十本用意させた。
「いいのかしら……?これって明日の分じゃないの?」
「明日のことは明日準備すればいいさ。さ、まずは一献」
「それならいいんですけど……」
序盤は兼平のほうが強かった。飲みっぷりはいいし、勢いがあった。
私は明日のことなどおしゃべりが楽しくてちびちび飲んでいた。
お銚子四本目となると、ろれつがまわらなくなってくる。
同じ四本目な私とは対照的だった。私は四本飲んでも酔ってはいなかった。いや、酔ってはいるが、酔っぱらいにはならなかった。
五本目に差し掛かるとき、兼平はもう寝ていた。春とはいえ、肌寒いこの季節。机に突っ伏した兼平に、私は数枚上着をかけてあげた。
結婚の最中に酒の飲み比べだなんて、聞いたことがなかった。
兼平らしい心遣いに、私は深く感謝した。
そうしてその日の晩は過ぎていった。
夜更けに兼平を起こすと、まだ眠いと言って聞き入れない。
無理矢理起こすと、まだ酒臭かったが、出仕へと送り出した。一苦労だった。
兼平から後朝の文と唄が届いた。兼平らしい素直で無骨な唄だったが、一生の宝物にしよう。そう、思った。
今朝は女官たちもあわただしく働いている。昨日飲んでしまったお酒はもう補充されたようだった。少しホッとした。
今夜は親戚も集まっての披露宴。親戚と言っても悟の親戚が集まるのであって、私の親戚はこない。というか、ほとんどいないから遠い親戚である悟に面倒を見てもらっていたのだが……
「百合!」
その声にハッとする。
綾だ。
「百合、結婚おめでとう!」
言われて思い出す。
「ありがとう。」
「これで百合も在原家の一員か……」
「まだ実感はないけど……」
「当分はこっちにいるんだよね?」
「それが、ぜひ屋敷に来てほしいって言われてて……」
綾は寂しそうに、
「そっか……それなら仕方ないか」
と言った。私も寂しかった。
「でも、綾にはもうすぐ家族が出来るじゃない」
「そうだね、えへへ……」
綾は照れて笑った。
「百合にもすぐできるよ、家族」
「そうかな……そうだといいな」
宴会が始まる一時間前に到着した兼平は、見事なまでの二日酔いだった。
「ちょっとちょっと!あと一刻すぎたら、宴なんだよ?どうするの!?」
「大丈夫。二日酔いには迎え酒って言うし」
「そんなこと、ホントにしんじてるの!?」
かくして披露宴は開催された。
席を一巡りして、お酒が回ったところで、誰からとなく踊り出した。
義姉さんによる舞の披露。腕の確かなものたちによる局の披露。
披露宴は成功した。
これで心おきなく、兼平の妻となった。