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百合、初夜を迎える。

初夜。

それは緊張と歓喜の両方を持った言葉だ。


今までにも兼平が通ってきたことはもちろんあったけれど、こんなに緊張した夜はなかなかなかった。

今日から三日間、兼平が通ってきたら結婚だ。

私は緊張しながらもそのことが嬉しくてしかたなかった。


今まで結婚を考えたことはなかった。悟は綾にご執心だし、通ってきた殿方はみんな奥さん持ちの人ばかりだったから、嫁ぐつもりもなかった。

そんな中で、兼平だけが私を見つけてくれた。救ってくれた。

私を孤独の海から、抜け出させてくれた。


だから、兼平には感謝せずにはいられないのだ。


そして今度はそんな私をお嫁さんにしてくれるという。

私はなんという幸福者だろう!!


その想いは今日、伝えきれるのだろうか?




夜になり、牛車の音がする。

兼平だ。

私の緊張は高まった。

ドキンドキンと鼓動が聞こえる。


「百合?入るよ」

兼平が御簾の内にはいってくる。しゃらすると鳴る衣擦れの音。

何度も聞いたはずのその音に心臓がバクバク言う。

「いらっしゃいまし」

そう言う私の言葉は少し上ずっていたようにも思う。


兼平と目が合う――

――逃げられない――


逃げてはいけないのだけれど、なんだか怖くなってしまった。

そんな私の頭をポフポフと撫でる兼平。どうやら緊張しているのが伝わったらしい。

「大丈夫だから、心配するな、な?」

私はほんの少しべそをかいてしまった。


「待たせたな。これからもよろしく頼む」

頭をポフポフしながら優しく(ささや)いた。





夜更けに、牛車の音がして、兼平が帰るのがわかった。

私はふと悟を見やると、ぐっすり熟睡中だった。


「そっか、無事に終わったか……」

と呟いて再び眠りについた。


翌日、昼近くに起きた私は遅い朝食を食べ、百合のところへ渡って行った。



百合はもう起きていた。

「百合!」

「綾」

「昨日どうだった?うまくいった?」

ニヤニヤと笑みをこぼしながら私は聞いた。

「うまくって……まあ、いつも通りよ」

強がってる空気をかもし出している百合。これがツンデレってやつですか、わかります。

「そっかぁ、うまくいったんだぁ」

ニマニマしてしまう私。

「だから〜いつも通りだって!!」

百合は恥ずかしそうに頭を振った。



「お腹……大きくなってきたね」

「うん……まだ少しだけどね」

「男の子だと思う?女の子だと思う?」

「どちらでもいいかな。」

百合は少し止まって、そして言った。

「元いた世界なら、もう男の子か女の子かわかっちゃってるんだろうけどなぁ。触っていい?」

「うん、どうぞ!!」

百合はお腹を擦ると、声をかけた。

「おーい、元気かぁ?頑張って生まれてくるんだぞ!」

その時だ。

「あ。」

「あ?」

「動いた!動いてる!」

百合がお腹を擦る。

「ホントだ!!動いてる!」

「今まで、動いてるかな、って思うことはあったんだけど、こんなにはっきり動いたの初めてだよ!」

すごい、すごい!!お腹をグリーッと動いていく。これは足なのかな?

外から触っている百合にもわかるほど大きく動いた。私の赤ちゃん。

いとおしくてたまらなかった。



出仕から帰ってきた悟にその話をして聞かせた。

悟は、どらどら?と言ってお腹に話しかけた。

しかし、なにも起こらない。

「今、寝てるのかもしれないから」

と、悟を(なだ)めるのが大変だった。





俺は心ここにあらずで仕事をしていた。

百合といよいよ結婚か、と思うと緊張もし、嬉しくもあった。

そんな中で、同僚が

「今日飲み会やるからこないか?」

と聞いてきた。

「俺、ちょっと用事があるからパスで」

すると、上司の上司がやって来て言った。

「兼平くん、これは私の飲み会の席だ。欠席は困るよ」

どうしよう……結婚のこと言ったら妨害とかされるかも……その当時、二大勢力が争っている中だったので、断っても痛い目みるし……

思いきって言おう!

「私は結婚の最中ですから、申し訳ないのですが、同席できません」

兼平の周囲が盛り上がった瞬間だった。

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