トイレ事情。
一つ困ったことがある。
それは、トイレだ。
部屋の中を仕切って樋箱というトイレをおいてあるのだが、それにまたがるのが、一人では絶対に無理。
だって五枚も六枚も上着着ている上に袴をはいている。
ちょっと催したらすぐに呼ばないと大変なことになる……と、実直で習わせていただきました。
そう、私はこの年でおもらしをしてしまったのだ。
桃はさほど気にもせず、さっさと拭いて着替えを持ってきたが、これは恥ずかしい。
穴があったら入りたいとは、まさにこのことである。
これが大とかだったら……と考えるとゾッとする。
下痢のときなんて、服が着れないじゃないか!!
ちなみにこの樋箱、となりの部屋にあったんだけど、臭いとか超気になるんで、もう一つ隣の部屋へ、御簾を増やして、屏風でしきってやった。
どうだ、これで簡易トイレの設置完了だ。
ちなみにトイレットペーパーはあるけど、固くて使えたもんじゃない。
だから、小のほうのときはもう拭かないことにした。
ばっちいとか思ったそこのあなた、一度この紙を使ってみるがいい!
大をしたときはちゅうぎという木のへらを使ったあとに紙を使うのだが、これはどうにかせねば、ケツがいたくなってしまう……ううっ……私はデリケートなのに。
ちなみにこの簡易トイレ、専用の使いのものが表まで流しにいってくれるらしい。汲み取りのおっちゃんか、うん。でもちょっと恥ずかしいような……
ま、こればっかりは仕方がない。
ところで、移動するときにも完全にたちあがらず膝を擦って歩くの、これどうにかならないのかな?
季節は春。うちのお庭にも綺麗に咲いている桜がある。
それを見たいと言ってわがままを言って、御簾を少しだけあげてもらった。
うちのお庭は風流なことで、春には桜、夏にはひまわり、秋には紅葉が楽しめると桃が言っていた。
桜の下に咲く菜の花もまた風流ではないか!
こうして私は徐々に暮らしにも慣れてきた。
私は文字の読み書きの練習を始めた。ひらがなは粗方知っているのだけれど、筆で書くのがむずかしかったのだ。
桃が一生懸命に教えてくれる。
桃が言うに、男の人からお文をいただいたときに、きちんと返せないのは失礼だし、恥ずかしいことだという。
だから、私も真剣に練習した。今までのテスト期間よりもさらにハードに勉強した。
さらにさらに、般若心行まで練習をはじめたから桃は私が出家でもするのではないかと大変心配したらしい。
男の人からお文……あれですよね、ラブレター。わかります。
って、私は古典は苦手だった!相手の気持ちを汲んであげれるようになるまで、どのくらいかかるんだろう……
先日の陰陽師が、またやって来た。様子見に来たらしい。
あの時は思わず直接くちをきいてしまったが、今回はそうはさせなかった。
ちゃんと桃を通して話をする。
「先日の悪霊、退散しましたでしょう?」
「ええ、それはもう、すっきりと。」
「やはり私の腕は確かですね!今後もお困りのことがあったら、ぜひ私めをお呼びください!」
「はい、そうしますわ」
と言いつつ笑いを隠せない桃。
私も苦笑い。
「姫様、あの者はやはりわかっていないのですわ。」
「そりゃ、普通は時代を飛んできたなんて思わないからね……でも、なんで桃は理解してくれたの?」
「それは、姫様以前にそういう方をお見受けしたことがあるからです。」
「私以外にもそういう人がいるの?」
「はい、私の姉が奉公にあがっている御宅の姫ぎみがそうなんでございますよ。」
「会いたい!会ってみたい!」
「はいはい……そのように手配させていただきますわ。」
私は心浮かれた。