綾、授かる。
それから何度目か、兼平が通ってきた夜、私は意を決して本当のことを告げようと思っていた。
ところがその日の夜、兼平は来なかった。私のところに通おうとして、事故に遭ってしまったらしいのだ。牛車は水路に落ち込み、兼平も骨折をしたらしい。
尋常じゃない事故に、私は動揺した。
どうやら陰陽師がその日の家への方角は凶とされていたのに、方がえもなにもせず無理矢理家の方へ来ようとしていての事故だったらしい。
私はお見舞いに行こうと、牛車を準備させた。
急いで着替えると梅を引き連れて牛車へ飛び乗った。
兼平の屋敷に着いて、まず最初に驚いたのは女官の少なさ。なんと、働いているほとんどが男であった。
これはどうしたことか。
桧扇で顔を隠しながら私は兼平の元へと案内された。
「兼平様……」
兼平は床にはついていたものの、かなり元気だった。
私はその姿を見てホッとした。そのあとでしっかりお説教をした。
そして、私は尋ねた。
「このお屋敷に働いていらっしゃるのは殿方ばかりなんですのね?」
兼平は突然手を握ってきた。
「はい……初めての夜に、百合姫が「私は焼きもちやきなの」とおっしゃっていたので、ほとんどの女官を辞めさせ、男子に入れ替えました」
「ま……ぁ、そんな、私のために?」
「どうしても女性が必要な場所にだけ女性を起用してあります。……いけなかったですかね?」
私は感激して、兼平に抱きついた。
「ひ、姫?!いかがなされた?あいたたた……」
私はハッと我に返ると兼平の上から飛び退いた。
兼平が痛そうに腕を擦りながら、それでも笑顔で言った。
「姫のお気に召しましたか?」
私はぶんぶんっと頭を縦に振ると涙を流しながら答えた。
「私のためにここまでしてくださったこと……私、一生あなたについていきます!!」
兼平は照れ臭そうに頭をボリボリとかいた。
◇
私は百合がバタバタと出かけるところに遭遇した。
聞けば、兼平様が大怪我をされたとのこと。
ろくに化粧もせず飛び出しかけた百合に、一張羅の上着を貸してあげることしかできなかった。
いつもポーカーフェイスの百合が慌てるなんて、珍しい。でも、それだけ兼平のことを大事に思っているならそれでよかった、とも思った。
私は悩んでいた。
アレがこないのだ。もう三月になる。これは病気だろうか、医者にかかろうか、陰陽師を呼ぼうか……なんにせよ、悟に相談しなければならなかった。
なんだか身体が重い。吐き気までしてきた。
私は日に日に体調を崩していった。
百合が見舞いにきてくれた。綺麗な折り鶴を折って持ってきてくれた。
私の体調を聞いているうちに、百合が
「あ。」
と言った。
「あ?」
「それって……悪阻じゃない?」
「……!!」
その可能性は全く頭になかったので、私も計算してみた。確かに、可能性はある。
これは医者だな、と思い、医者を呼ぶ。
「おめでとうございます!!」
と医者が言った。やっぱり!!百合の言った通りだった。
私は感極まって泣いてしまった。
「おめでとう」
横で百合がもらい泣きしていた。
悟が帰って来るのを待って、サプライズパーティーをしよう、と百合が囁いた。
その日は比較的調子がよかったのと、なにより子供を授かった喜びで一杯で、起きていることが出来た。百合が台所に指示をだしてご馳走を用意してくれているようだった。
私はお腹をかるく擦りながら、お腹の子供に話しかけていた。