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恋歌

その日から兼平は出仕を終えるとしょっちゅう屋敷に顔を出した。


百合とは宮中のファッションのことなどで盛り上がっているらしい。


私も垣間見たが、なかなかのイケメンだ。お兄様や悟には敵わないけど。


年下のようだが、百合ならきっとうまくやるだろう。

年齢にこだわるのは世間体だ。

もし、通い婚をするにしても、出仕には間に合わないといけない。間に合わなかったら年上の妻の癖して旦那の管理もしてやれない、と噂されるからだ。

実際、そういう奥さんがいるのを小耳にはさんだことがある。

私からすれば、年上も年下も関係ないだろうと思うのだが、そうはいかないようだった。


兼平は私たちより3つも年下なのだ。よほど周りに気を使わねばならぬ年齢差だ。


それを知ってか知らないでか、百合はまっすぐに突き進んでくる兼平をひらりひらりとかわしながら「お友達」を続けていた。

やはり、まだ悟に未練があるのだろうか?

そうだとしたら、今の状況は辛いのではないだろうか。

そう思って勇気をだして百合に聞いた。

「百合、兼平様のこと、どう思ってるの?」

「どうって……まだお友達かな。」

「悟のことは、まだ気になる?」

そう聞くと百合は笑い出した。

「もう心配しなくても大丈夫よ。精一杯誠意を見せてもらって、それで満足よ。それ以上のことは求めないわ」

「そう……?ならいいんだけど……」

「悟さんのことが心配?」

「まあ、そりゃあそれなりに」

百合はふふっ、と笑うと

「それなら安心しなさい。悟さんには綾のことしか見えてないんだから」

「そ、そうかな……」

そうだ、と百合は言い切った。


「私、兼平様なら好きになれそうな気がするんだ」

そう言った百合の表情(かお)は今までに見たことのない、真っ直ぐな視線だった。



夜、寝所でその話を持ち出した。

悟は大喜びした。

「で、結婚はいつするの?」

「まだそこまで話が行ってないってば。何回言えば気がすむの?」

半ば呆れて私が言った。

「だって、お前……百合が幸せになるかもしれないんだから、そりゃ興奮もするさ」

「そりゃそうだけど……」「赤飯炊かなきゃな」

まだ確定でもないのに、この騒動。本番はいかになるところだろうか。





俺は生まれて初めて恋をしている。

相手は美人と名高い藤原彰悟(あきらさとる・ショウゴ)様のお宅の百合姫だ。

百合姫は奥ゆかしく、はかなげな美人だ。


生まれてきて初めてあんなに美しい人に出会ったと思う。

それに優しくて……包み込んでくれるような懐深さを持っている。

まるで海のような人だ。


俺は一発で彼女の虜になってしまった。

文を何通も書いた。一生懸命にお茶にも通った。

だけど、どこか、暖簾に手押しというか……かわされている気がする。

彼女の好きなものを見つけられたら……花?唄?それとも食べ物?

何でもプレゼントした。

秋の紅葉も好きかもしれない。

紅葉に唄をつけて送ってみる。

見事な返歌がついて返ってくる。

俺は唄はあまり得意ではなかった。表現が直接的過ぎると、いつも師匠に怒られた。そんな唄にも丁寧に返事をくれる百合姫。

俺はますます虜になっていった。


御簾から垣間見える百合姫は、まるで人形(にんぎょう)のようにきれいな陶器のような肌をしていた。

いつかあの肌に触れたい……俺の想いは一層強くなった。


そんなある日、俺の唄に返ってきた唄が、恋歌だった。俺は見間違いではないかと何度も唄を読み返した。違う意味があるんじゃないかと模索した。しかし、それは紛れもなく恋歌だった。


俺はガッツポーズをすると、早速出かける準備をした。夕方まではまだ間がある。百合姫の元へ行き、唄の真意を確かめたい、そう思った。

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