兼平
百合宛に文が届いたらしい。
近所に住む若い男の子だ。
先日の洗髪の際に垣間見て一目惚れしたらしい。
百合は慌てる様子もなく、にこやかに淡々と文を返したそうだ。
そういや、以前彼氏が三人いただのという話をしていたっけ。その落ち着きぶりに、前世での百合を思い出していた。
前世でも百合はよくモテた。モテすぎて周りの嫉妬を買うこともすくなくなかった。だが、百合は淡々と断るだけで、あとのことは気にしない様子だった。
断っている理由が悟にあると知ったのは、こちらの世界に来てからである。
悟を何年も一途に想い続けていたことを、私は全くしらなかった。親友失格である。
秋も半ばに差し掛かった今、恋をするにはちょうどいい季節だった。
百合は早速彼と会ってみることにしたらしい。
確かに、会ってみないとこればかりはわからないからね。午後のひとときを彼と過ごすと言っていたが、うまくいっただろうか。
◇
私は思いもかけぬ人から文をもらった。
近衛の中でも頭角をあらわす青年だ。噂程度小耳にはさんだことがある。
最初は断ろうかなと思っていたが、彼からの文で人のよさもわかったし、字も達筆であった。なにより飾らない唄が気に入った。もしかしたら、彼が悟への想いを絶ちきってくれるかもしれない、そう思った。
午後からお茶を共にする予定だ。
きちんとした人柄だということがこれでもわかる。普通はいきなり夜這いに来られるパターンも多いのだ。
だから、きちんとこうしてお茶をしに来てくれるというだけでも、立派なものだった。
ただ、気になるのは年齢のことだった。私は今年で十八になる――年下の彼氏、悪くはないけれど、その分私がしっかりしなければ……と思う。
そうこう考えているうちにお茶の日になった。
やって来た青年は凛々しく若々しい、あどけなさを少し残した青年だった。少したれ目で、人の良さそうな青年。
「百合姫様にはごきげんうるわしゅうございます。」
凛とした声が庭先に響き渡る。
それは、一目惚れに近かった。
御簾の内より垣間見えるその姿は、凛々しく美しいものであった。
百合は思わず直接話しかけてしまう。
それを喜んだ青年は、少し御簾に寄るようにして話を聞いた。
彼の名前は兼平といった。
宮中の噂話など、ひとしきり盛り上がった後、帰宅する際に、
「また、お茶をしにまいりますね」
と優しく話してくれたのが印象的だった。
兼平が帰ってから、綾が話を聞きたいから夕食を共にしようと誘ってきた。
私はそれを二つ返事で受けると、北の対まで歩いていった。
◇
噂の彼は帰ったという。
それなら、夕飯を共にしながら話を聞こうと、桃に言いつけて、梅に話を持っていった。
百合は二つ返事でオーケーしてくれたらしい。これは順調だということなのだろう。
夕飯の準備が整って百合がやって来た。同じ屋敷にいるのにほとんど顔を合わせない。この時代はそんなものなのだな、と思う。
百合に
「どうだったの?」
と聞くと、
「兼平様はいいお方だったわ。」
そして続けた。
「字体にぶれがないように、真っ直ぐなお方だったわ。凛としていて……とても好感が持てたわ」
「そこまで初対面でわかるものなの?」
「わからない……ただ、私の勘がそう思わせたの。」
「女の勘……ね」
ふふっ、と私は微笑んだ。
百合はその姿を見て、
「なにがおかしいの?」
と問うて来た。
「おかしいんじゃないの、嬉しいの」
「どうして?」
「やっぱり恋をすると女性は輝くな、と思って」
百合が頬を桜色に染めた。




