菫姫
菫姫には本当に何でもあげた。やれ几帳が欲しいだの、御簾を新しくしたいだの、そのたびに私は購入してあげた。
お金には困っていなかったし、菫姫が妹のように思えて、ねだられるのが嬉しいとさえ思った。
日は経ち、菫姫と食事をすることとなった。
以前よりいくぶんかふくよかになった菫姫。
その姿には貫禄すら漂う。
「……ずいぶんふくよかになっていらっしゃるようで……」
恐る恐る尋ねる私。
嬉しそうに答える菫姫。
「綾姫様からいただいた食事がおいしくて!!」
……それで太った、と。
儚げな菫姫が好きだった私的にはいただけなかったが、この当時ふくよかな女性は美しいと言われていたので一概にダメと言うわけではないが……
菫姫のそれは、ふくよかを越えている。そう、デブになったのだ。鼻なんかパンパンになったほっぺたに埋もれてしまいそうだ。
嬉しそうに
「最近は主人が寝所にこなくなって、楽チンなの!」
ご主人、察します……
このデブり具合が私からのプレゼントのせいだと知ると胸が痛んだ。
しかし、この短期間にここまでよく育ったものだ。感心する。
今度からは食べ物をプレゼントするのは、なしにしようと思った。
◇
百合が引っ越してきた。
引っ越しはとても簡単なもので、箪笥も長持ちもなかった。着物が数点だけ。
いかに百合が過酷な状況にいたかがよくわかる。
百合は明るい笑顔でやって来た。
女房を一人だけ引き連れて来た。
「梅、こちらは綾姫様。私のお友達兼後見役。綾、こちらは梅。私を小さいときから見てくれているの。よろしくね」
「梅と申します。よろしくお願いいたします」
梅は桃に勝るとも劣らずの美人だった。百合には絶対叶わないけどね。
今日の夕飯はごちそうだ!
◇
相変わらず毎晩悟は通ってくる。いっそ菫姫のようにデブってしまうか。
でも、それは嫌だ。
百合に相談すると、うらやましいと言われた。
そして正直にその気持ちを悟に話してみては?と言われた。
話しづらいんだけど、それしかないか……
その日の晩、悟が来たときにこの話をそれとなく他人から言われた、という形で持ち出してみた。
すると悟は、
「どこで寝ようと俺の自由じゃないか。そうやって陰口をたたくほうがおかしい。」
至極ごもっとも。
しかし、それで少し察してほしい。
「俺は綾を愛してる。綾とひとときでも長く一緒にいたいんだ。そのことに文句を言うやつは許せない」
悟……そんな風に思ってくれていたなんて……ちょっと感動してしまった。
それで納得がいったので、この話はもうやめようと思った。
毎晩がきついなら、正直に悟にそう言えばいいんだ。なんでそんなに大切なことに気が付かなかったのだろう。
夫婦は二人揃って初めて夫婦になる。そんな単純なことを忘れていた。二人三脚、それが夫婦だ。何でも相談しながらいこう。
そう思った。
百合は快適に過ごしているようだ。
ずいぶん寒くなってきたので、掻い巻きをプレゼントした。とても喜んでくれた。
今日は二人揃って洗髪の日にした。私は相変わらずカツラだけど、百合の髪は長くて美しかった。さすがに五、六メートルとまではいかなかったが、ふくらはぎにかかるくらいは長さもある。
私はというと、カツラを脱ぐとボブカットくらいまでは伸びてきた。肩につくくらいの長さになったらカツラを脱ごうと決めていた。
二人して髪を乾かしながら楽しくおしゃべりをした。