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悟、冠を落とす。

「養子、で、ホントにいいの?」

「うん……悟さんの気持ちが変わらないのはわかっているし、だったら私だって恋をしたい。でも、今の状況じゃ恋なんてとても無理だし……悟さんに甘えようかなと。」

ダメ?と百合がきいてくる。

「全然、ダメなんてことはないよ!ただ、百合が居づらくなるのは私的に不安だし……」

「それはないよ。ありがたいお話だしね。こちらがお礼をいわなきゃ。」

百合はまっすぐな目をしていた。




帰りの車の中でなんとなくその話になる。

「養子縁組みなんてしなくても、ただひっこしてくるだけじゃダメなのかなぁ」

「養子縁組みもせずに屋敷に呼ぶということは、百合姫様を愛人として迎え入れることになりますから、そうなっては殿方の目が向きませんからね。」

「そっかぁ……そういうものか……」

私は車に揺られながらお菓子を一つ摘まんだ。

「姫様、食べ過ぎでございますよ。」

と桃に言われて手をひっこめた。

だって牛車の中って退屈なんだもん。ついつい、手が……

それに、お出かけなんてそうそう簡単にしないから、浮き足立つ。




帰宅してみると、悟から

「今夜、会いに行きます」

と文が来ていた。ナイスタイミングである。


夜になって悟が来たら、養子縁組みの話をしよう、そう思っていた。


ところが、悟は来なかった。

というより来ることができなくなったのだ。

仕事の最中に落馬したとのこと、私は焦って見舞いの準備をしようとした。

ところが、悟から見舞いには来なくていい、と伝令が来たのだ。

私は大いに不満を募らせた。嫁に看病させずに誰に看病してもらおうと言うのだろう?

私は不満を募らせる一方だった。





俺は執務中、落馬した。

とある貴族への文を言い遣っている最中に落馬。

そのとき、冠が落ちてしまったのだ。冠が落ちることは、下着で出歩くよりも恥ずかしいことだ。

ショックが大きすぎた。

綾は見舞いに来るだろう。

しかし、今の自分は誰にも会いたくなかった。

落馬のショックより、冠が落ちたショックのほうが大きかった。


その日、その場所には割りと人通りが多く、落馬の一部始終を見ていたものも多かったのだ。

冠を落としたなんて恥ずかしい話を、綾に話すことはできない。

いずれ噂になって耳に届いたとしても、直接言うことだけは避けたかった。


それだけのショックを、冠落ちた事件は持っていた。


俺は落馬のショックから二、三日寝込むと職場へ復帰した。





私は見舞いに行けない悔しさを食べることで紛らしていた。

この時代はあまり食事が豪華ではなかった。ゆえにふくよかな方が美人とされていた。

だから、桃以外、誰も食べることについて言及してこなかった。


食べていて異変に気付いた。

あぁ、今月もアレがやって来た……

そう、生理である。

こうなると3日ほど月経小屋に籠らねばならない。特に私の場合はひどいから……

徐々に腰が痛くなって、お腹が痛くなってくる。

あの小屋、どうもいけ好かない。綺麗に拭きあげてはいるものの、なんというか、獣臭い。生理の時用の小屋だから当たり前っちゃ当たり前なんだけど、赤不浄という名前の通り、不浄だなと感じる。

ひどくない人は綿を詰めてそれで凌ぐらしいのだが、私の場合、筋力も弱いせいか、それでは足りないのだ。

で、結局この小屋に籠らねばならない。

小屋は不浄なので、琴などを持ち込めない。そこで贅沢を言って、小屋専用の琴を買ってもらった。一人娘のなすがまま、父はなんでも買い与えてくれる。

そんなことをわかっていながらおねだりする私。


一人娘なんだから、これくらいはいいよね?お父様?

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