蹴鞠大納言
蹴鞠大会が始まった。
勝負は三回、残ったものたちだけで決勝というものだ。
俺は自信満々だった。吉嗣がリラックスさえしていれば、楽勝だなと思っていた。
案の定ガチガチな吉嗣は先程必殺膝カックンにより、ずいぶんリラックスした様子だ。これは行けるな。優勝間違いないぜ。
ライバルの豊次は脇をガッチガチに固めてきた。豊次の次に上手いとされている二人を抱えて、余裕の表情だった。
それでも俺は負けない。
成明となら何時間でも蹴鞠を続けられるのだ。あとは吉嗣次第だ。吉嗣は「1、2、さーん」とまだ練習をしているが、そのリズムがとても心地よいものだったため、俺は安心しきった。
第一回目の合図がなる。
俺たちは順番に毬を蹴った。最初は安定していた吉嗣が、徐々にリズムを崩しつつある。
これはやばいぞと思った俺は、
「1、2、さーん、だ。」
とこそっと吉嗣に告げる。
「1、2、さーん」
と吉嗣が口の中で呟き始める。
だが、少し時が遅すぎた。吉嗣は、さーん、ができずに成明に毬を渡してしまう。成明のほうもリズムが崩れてくる。
とうとう吉嗣が2、の蹴りに失敗して毬を落としてしまった。
この回は3位だった。
余裕で勝つつもりだった俺は、吉嗣を責める。成明がそれを制す。
責めたせいか、リズムがバラバラになった吉嗣は第二回目も失敗し、3位となる。
「蹴鞠大納言とやらが、どうしたのですか」
と、豊次に笑われる。
とても悔しくて、恥ずかしい。
だが、今回は吉嗣を叱らずに、自然体でいくようにとだけ言い添えた。
流石の吉嗣も三回目とあっては、目立ったミスもなく俺たちは1位を勝ち取った。
問題はここからである。これから先は脱落者順に敗者が決まる一発勝負になる。
吉嗣を下手に緊張させぬよう、俺は吉嗣に水を飲むようにすすめた。
吉嗣は思いの外緊張しておらず、水を一気飲みすると、
「さぁて、いっちょ勝負と参ろうか!」
と気合いを入れ直した。
豊次のチームはやはり1位でこの勝負に挑んできた。
俺たちは3位から挑む。
勝っても負けてもこれが最後の試合だ。
開始の合図が出される。吉嗣は最初から
「1、2、さーん」
と数えており、出だしは好調だった。
もう三十分は経っているだろうか、額に汗が滲む。
まだ蹴り終わらないのか。
少し余裕と考え過ぎていたようだ。
額の汗を拭うと俺も数え始めた。
「1、2、さーん」
やっと脱落者が出た。これで優勝か準優勝か決まったことになる。
残ったのは、もちろん豊次のチームだ。
ちらりと豊次がこちらを見る。俺は睨んで返す。
こうなったら意地の勝負だ。
吉嗣が若干リズムを崩しつつある。
俺は
「四回蹴ってもいいから、確実に成明に回せ!」
と指示した。
それが功をそうしたのか、吉嗣のリズムが戻った。
一方、豊次のチームは苦戦し始めた様子だ。
これは、イケる!
そう確信した。
豊次のチームはリズムを完全に崩していた。長時間蹴り続けているせいか、息もあがっている。
一方こちらのチームはリズムを数えることに集中しており、雑念がなかった。
いよいよ豊次の番、というときに、豊次がミスをした。受け止めて、自分の蹴りのタイミングを外したのだ。
こぼれ落ちる毬。
まだ間に合うかと伸ばす足。
しかし、足は届かず、俺たちの優勝は決まった。
決まってもしばらく蹴り続けた俺たち。
俺の元に毬が戻ってきたときに、俺はそれを手で受け止め、ガッツポーズをした。
「蹴鞠大納言、ここに在り」
とはよく言わしめたものである。
俺は勝利の雄叫びをあげると、報奨を手にした。