蹴鞠大会
道満がまた屋敷にやって来た。
「もう貴方には関係ないことでしょう?!」
私はそう言い放った。
「百合姫様にお金を返しに参じました。」
「えっ?」
私は言われたことの意味がわからなかった。
「私は今回、晴明に完敗しました。それゆえ、お給金を半額お返しに参りました。」
「ま……ぁ、それは律儀にどうも。」
私は吃りながらそれを受け取った。それと同時に、綾へ完敗したことを知る。
それは悔しかったけれど、どこかで少しホッとしていた。
自分が頼んだこととはいえ、綾の身になにかあったらと、始終不安だったからだ。
自分で頼んでおいてそれはないよね、と思う。だが、事実だった。悟が意識朦朧な状態で家に来てから、その不安はより強くなっていた。だから、今回で決着がついたということにホッとしていた。
道満は賃金の半額きっかりを返すと去っていった。
これで良かったのだ……私は今まで綾にしてきた仕打ちを恥ずかしく思った。なんという思い違いをしていたのだろう。
勝手に嫉妬して勝手にひどい仕打ちをしてきた。綾はなにも悪くないのに。
私はそれを思うと、激しく泣いた。
私が間違っていた。
そんなだから悟に嫌われても仕方ないんだ。
おいおい泣いた。
そして一通の文をしたためた。
それは綾へのものだった。今までの仕打ちを全て吐き出して、謝罪の言葉を連ねた。
◇
百合から一通の文が届いた。それは、泣きながら書いたのであろう、所々乱れた字で、今までのこと、すべてが書かれていた。そんなことまで?!というような内容もあった。
だが、百合からの誠意を感じた。
これで、なにもかも元に戻るだろう。そう思った。
◇
あの日の百合の涙が焼き付いて離れない。俺は迷っていた。
綾への気持ちは嘘じゃない。しかし、あの時泣きながら俺を帰した百合の本当の気持ち……揺れ動いていた。
こんな気持ちのまま綾には会えない――――
今しばらくは時を置こう、そう思った。
さて、宮中では蹴鞠の大会をするという。
蹴鞠。その言葉だけで俺を熱くした。
今回は大会ということで、三名が一チームになり、蹴鞠を一番長く続けられた者に報奨を与えるというものだった。報奨なんていらないけれど、蹴鞠では誰にも負けたくない。俺は綾の兄の成明と、もう一人、パートナーを探さねばならなかった。
蹴鞠大納言と言われるだけあって、お誘いの声は引く手あまただ。
俺は俺の次に蹴鞠が上手いとされる豊次に声をかけたが、俺とはライバルでいたい、と断られた。
誘って来るのは主に他のパートナーが決まったものたちであり、最後の一人に、と俺を欲しがった。
俺は成明と組みたかったので、その誘いは一切お断りした。
一人で余っているなかで、威勢のよかったのは吉嗣であった。
俺は迷わず吉嗣を誘った。
「蹴鞠大納言がパートナーとは、実に心強い。」
と、チームは結成された。
俺たちは、毎日のように集まっては、蹴鞠の練習をした。しかし、どうも吉嗣とはタイミングが合わない。吉嗣は勇み足過ぎるのだ。
何度も何度も練習を重ねる。
何度も練習を重ねていくうちに、吉嗣が一人だけリズムが違うことに気がつく。
吉嗣に、
「そうじゃない、1、2、さーん、で俺に返す。やってみろ。」
と言うと、掛け声を掛けてやってみる。
できた!
「吉嗣、今の感じだよ!」
「今の感じを間違いなくすれば、俺たちはトップだ!」
大会当日、吉嗣は案の定ガッチガチに緊張していた。後ろから近づいて、膝をかっくんとさせると、
「なんてことするんですか!!」
と怒り始めた。
「今ので緊張が抜けたろ?」
と言うと、吉嗣は、ハッと我に返って
「もう……彰悟様はいたずらが過ぎます!」
と呆れた顔で、それでも嬉しそうに言った。