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蹴鞠大会

道満がまた屋敷にやって来た。


「もう貴方には関係ないことでしょう?!」

私はそう言い放った。


「百合姫様にお金を返しに参じました。」

「えっ?」

私は言われたことの意味がわからなかった。

「私は今回、晴明に完敗しました。それゆえ、お給金を半額お返しに参りました。」

「ま……ぁ、それは律儀にどうも。」

私は(ども)りながらそれを受け取った。それと同時に、綾へ完敗したことを知る。

それは悔しかったけれど、どこかで少しホッとしていた。

自分が頼んだこととはいえ、綾の身になにかあったらと、始終不安だったからだ。

自分で頼んでおいてそれはないよね、と思う。だが、事実だった。悟が意識朦朧な状態で家に来てから、その不安はより強くなっていた。だから、今回で決着がついたということにホッとしていた。


道満は賃金の半額きっかりを返すと去っていった。

これで良かったのだ……私は今まで綾にしてきた仕打ちを恥ずかしく思った。なんという思い違いをしていたのだろう。

勝手に嫉妬して勝手にひどい仕打ちをしてきた。綾はなにも悪くないのに。

私はそれを思うと、激しく泣いた。

私が間違っていた。

そんなだから悟に嫌われても仕方ないんだ。

おいおい泣いた。


そして一通の文をしたためた。


それは綾へのものだった。今までの仕打ちを全て吐き出して、謝罪の言葉を(つら)ねた。





百合から一通の文が届いた。それは、泣きながら書いたのであろう、所々乱れた字で、今までのこと、すべてが書かれていた。そんなことまで?!というような内容もあった。

だが、百合からの誠意を感じた。


これで、なにもかも元に戻るだろう。そう思った。





あの日の百合の涙が焼き付いて離れない。俺は迷っていた。

綾への気持ちは嘘じゃない。しかし、あの時泣きながら俺を帰した百合の本当の気持ち……揺れ動いていた。

こんな気持ちのまま綾には会えない――――

今しばらくは時を置こう、そう思った。



さて、宮中では蹴鞠の大会をするという。

蹴鞠。その言葉だけで俺を熱くした。

今回は大会ということで、三名が一チームになり、蹴鞠を一番長く続けられた者に報奨を与えるというものだった。報奨なんていらないけれど、蹴鞠では誰にも負けたくない。俺は綾の兄の成明(なりあきら)と、もう一人、パートナーを探さねばならなかった。


蹴鞠大納言と言われるだけあって、お誘いの声は引く手あまただ。

俺は俺の次に蹴鞠が上手いとされる豊次(とよつぐ)に声をかけたが、俺とはライバルでいたい、と断られた。

誘って来るのは主に他のパートナーが決まったものたちであり、最後の一人に、と俺を欲しがった。

俺は成明と組みたかったので、その誘いは一切お断りした。

一人で余っているなかで、威勢のよかったのは吉嗣であった。

俺は迷わず吉嗣を誘った。

「蹴鞠大納言がパートナーとは、実に心強い。」

と、チームは結成された。


俺たちは、毎日のように集まっては、蹴鞠の練習をした。しかし、どうも吉嗣とはタイミングが合わない。吉嗣は勇み足過ぎるのだ。

何度も何度も練習を重ねる。

何度も練習を重ねていくうちに、吉嗣が一人だけリズムが違うことに気がつく。

吉嗣に、

「そうじゃない、1、2、さーん、で俺に返す。やってみろ。」

と言うと、掛け声を掛けてやってみる。

できた!

「吉嗣、今の感じだよ!」

「今の感じを間違いなくすれば、俺たちはトップだ!」



大会当日、吉嗣は案の定ガッチガチに緊張していた。後ろから近づいて、膝をかっくんとさせると、

「なんてことするんですか!!」

と怒り始めた。

「今ので緊張が抜けたろ?」

と言うと、吉嗣は、ハッと我に返って

「もう……彰悟様はいたずらが過ぎます!」

と呆れた顔で、それでも嬉しそうに言った。

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