プレゼント
「百合!!」
私は思わず声をあげた。すると、百合は牛車を止めた様子。私たちの牛車は百合を追い越して進み始める。
桃が、
「あのようにみすぼらしい車に乗っておられるのですか?おかわいそうに……」
と言った。わたしは激怒した。
「みすぼらしいってどういう意味?!百合をバカにしないで!!」
「も、申し訳ございません……」
それにしても、確かにみすぼらしい車ではあった。悟が御用聞きに行っていると言っていたので、もっとましな生活をしていると思っていた。
あれじゃ表に出てくるのが恥ずかしいだろう。
「桃、ごめん、言い過ぎた……」
「いいえ、姫様のご友人にこのような失礼なことを申し上げた桃が悪うございました。」
桃が謝る。
「いや、桃の言うとおりよ。あれじゃ表に出てくるのが恥ずかしいでしょうね……」
「姫様……」
それから私たちは上の神社までなんとか行き着くと詣でて帰宅した。
余計なお世話かもしれないと知りつつも、百合の家にいろいろなものを、悟の名前を借りて届けさせた。私の名前では受け取りを拒否されるかもしれないと思ったからだ。
案の定、何も知らずに百合はそのプレゼントを受け取った。
◇
最近、悟の名前でいろいろなものが届く。まだ操られているのだろうか。
御用聞きに言っていないものまで届く。中でもとても嬉しかったのは新しい牛車が来たことだった。
いつも牛車がみすぼらしくてどこにも出かけられなかったのだが、これでみんなと対等に渡り合える。
初午のときは、綾とすれ違ってどんなに恥ずかしかったことやら。
私は悟にお礼の文を送った。
すると、悟は知らないという返事が返ってきた。
悟は操り人形じゃなくなったようだ。少しホッとした。
悟じゃない……じゃあ誰がこんなことをしてくれているの?
悟に言うと、
「誰かが百合に惚れて送ってきているのでは?」
と返された。
もしもそうなら、嬉しいは嬉しいのだが、悟にして欲しかったことをどんどんされてゆくので、寂しくもあった。
悟はあの日、私が無理矢理帰らせた。操り人形な悟が欲しかったわけではなかったからだ。
今はもう効力が切れたのか、以前の悟のようだった。私はホッとした。自分で言い出したことが恐ろしくなったのだ。
道満へ大金をはたいたことも貧乏な理由の一つだった。
なぜあのように下賤なものの言うことを聞いてしまったのだろう。
今では後悔している。
◇
俺はしばらく、頭にもやがかかったような感じで記憶がなかった。
せっかく前世のことを思い出して実感しているときにこの出来事。
うっすら記憶にあるのは百合の泣き顔だった。
俺はどうしたことだろう。百合の屋敷に行っていたとでもいうのだろうか?
泣き顔の百合に無理矢理帰された記憶がある。
でも出仕にはきちんと出ていたようだ。
記憶が曖昧なのは、約一週間。その間に綾からどっさり文をもらっていた。とりあえず事務的に返しておいて、自分が冷静になるのを待った。
確か、記憶に間違いがないならば、俺は誰かに操られていたことになる。記憶がなくなる直前に、誰かが俺の部屋に入ってきて、無理矢理香をかがされた。あの香が人を操る香ならば、間違いない、あの男だ。
今では記憶もすっきりしてきて、男の顔まで思い出せる。
そうだ、俺は香に誘われて百合の屋敷へ行って……
そうしたら百合が泣き出して、俺は声をかけたいのにかけれなくて……
泣いている百合に無理矢理牛車に乗せられて帰宅したのだ。
これは誰かの陰謀に違いない。
百合が
「ごめんなさい」
と謝っていたことを考えると、首謀者は百合に違いなかった。