どこの都
簾がかかった寝室。布団は固くて重たい。
枕を見やるとなんと、木でできた土台に布が縫い付けられていた。道理で頭が痛いわけだ。
そして自分の着ている服を見て更に驚いた。いつの間にか浴衣を着ていた。
自分が自分でなくなった気がして、鏡を探した。
鏡は頭の上に置いてある木の箱に入っていた。
鏡を見る。
よかった、いつもの私だ。
そう思っていたら、簾の向こうから声をかけられた。
「綾様、お起きになられましたか?」
綾……様?と思いつつ、返事をした。
「はい、起きました」
「失礼します」
と言いながら女性が入ってくると、ひいっ、と言って私を見る。
え?なに?なにかついてる?
「綾様、御髪が……!!」
御髪?髪の毛?髪の毛がなんだっていうの?
そのままその女性は叫び声をあげつつ立ち去った。
そのあとしばらくして、数名の女性が簾の中に入ってきた。
「本当に、御髪が……」
「綾様、お気を確かに!」
「今陰陽師を呼びにいかせましたから!」
私は、何を言われているのかわからずに、髪の毛をいじった。
「髪の毛がなんだっていうの?」
すると女性が隣の女性に
「御髪を失われたショックでどうかされている」
というようなことを耳打ちした。
いや、聞こえてるから。
ずいぶん時が経って、陰陽師と呼ばれる人がやって来た。
狐目の超イケメン。
最初は御簾越しに話をしていたのだが、確認したいことがある、と言って御簾から内へ入ってもよいかと聞いてきた。
私は普通に良いよ、と答えたのに、大袈裟にしながら御簾の内に入って来た。
その姿を見て私は再び驚く。冠を被って、まるで平安時代の人みたいな格好をしている。
そういえば女性陣もみんな着物だ。
陰陽師は入ってきていきなり呪文を唱え始めた。
女性陣はひれ伏すようにして私を囲んでいた。
「綾様、これで禍々しい気は取り除きましたぞ!あとは御髪ですが……こればかりは陰陽の術でもどうにもなりませぬ……」
「あぁっ、綾様!」
周りの女性陣が嘆く声が聞こえる。
私は思いきって聞いた。
「すみません、今はなんの世ですか?」
「今?今は慶徳天皇さまの世だが。」
慶徳天皇……!!歴史で聞いたことがある名前!
「もしかして……平安時代?」
「うむ。いかにも今ここは平安京であるが、いかがされた?」
「え……ちょっと待って……今、今さっきまで学校だったじゃない!これは夢よ、夢なのよね?」
「どうやら姫ぎみは記憶をおかしくされたか。先程の魔物が正体か……」
え?今この人魔物って言った。正気か??
「とりあえず呪詛は解きましたゆえ、またなにかあればお知らせください。記憶もそのうちもどるでしょう」
そんな適当なこと言って、私は騙されないからねっ!!
女性陣は一旦この場から引き上げることになり、一人だけ身の回りのお世話に、と女官がつけられた。
「全く、ひどい魔物もいたものです」
彼女はそう言いながら私の髪をすいた。
「何がひどいって?」
「姫様の御髪を持っていってしまうとは。あんなに美しかったのに……」
「そんなに髪の毛が大事なの?」
「はい、殿方でも御髪で女性をお選びになるとか。」
ほほう、それで私のショートヘアーがだめだと言うわけだね。
それにしても、髪の毛一つでえらい騒ぎだった……
女官の名前は桃と言った。
「それで、桃ちゃんは私のお世話をずっとしてくれるの?」
「桃ちゃんだなんて勿体無いお言葉、桃、で構いません。」
「いやいや、せめてちゃん付けくらいしないと。」
「いいえ、姫様にそのように呼ばれていたのでは周りとも差が生まれてしまい、桃は居所がなくなってしまいます。」
「わかった。桃、ね。」
言い終えてからしまった、と口を押さえる桃に、私はそう言った。
「姫様……今の発言は取り消していいですか?」
歴史には詳しくないので、人物名などはすべてフィクションで進めて参ります。